日産「セレナ」のルキシオンはトヨタ「アルファード」の対抗馬?

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2023年06月12日 11:41  マイナビニュース

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日産自動車の新型「セレナ」には先進装備「プロパイロット2.0」を搭載する最上級グレード「ルキシオン」がある。479.82万円という価格は堂々たるものだが、高級ミニバンの新たな選択肢になりうるのか。同分野では代名詞的な存在のトヨタ自動車「アルファード」と比べてみた。


○高級ミニバン市場は独占状態?



高級ミニバン市場におけるアルファードの人気は盤石に見える。現在は半導体を含む部品調達の難しさがあるので、新車販売台数のランキングを基に人気を測るのは困難な状況にあるものの、アルファードの2023年4月の販売台数を見ると「クラウン」を上回る規模となっている。年間を通じても、2022年4月〜2023年3月の統計で6万台近くが売れているアルファードに対し、モデルチェンジを挟んでの数値にはなるがクラウンは2.5万台あまりである。


高級ミニバンには同じトヨタの「ヴェルファイア」や日産「エルグランド」もあるが、新車販売の上位50位以内にこれらの車名は出てこない。



アルファードに次ぐ車格のミニバンとして、トヨタには「エスティマ」があった。ホンダ「オデッセイ」は一時代を築き、ミニバン市場を切り拓きもした。しかし、これら2車種は現在販売されていない。したがってアルファードを除けば、ミニバンの選択肢は家族向けを中心とした5ナンバーミニバン(現実的にはトヨタ「ノア/ヴォクシー」もホンダ「ステップワゴン」も3ナンバー車だが)と呼ばれる車格が中心にならざるをえない。そこに登場したのが日産セレナの最上級グレード「ルキシオン」だ。


○価格を比べてみる



ルキシオンがアルファードの対抗馬になりうるかを考える前に、前提条件を押さえておきたい。



ルキシオンはハイブリッド(e-POWER)の2WDだ。一方のアルファードはハイブリッドの場合、選べる駆動方式は4WDのみ。2WDだとガソリンエンジン車しか選択肢がない。なので、同じ組み合わせでの比較はできない。



それを踏まえて価格を見てみよう。



ルキシオンは479.82万円だ。セレナの売れ筋グレード「ハイウェイスターV」(e-POWER、2WD)は368.61万円で、ルキシオンは110万円高い設定となっている。セレナの最も安いグレード「X」はe-POWERなら319.88万円、ガソリン車であれば276.87万円から買える。ヴォクシーのハイブリッド車は最上級車種が396万円、ステップワゴンは同391.27万円なので、競合と比べてもルキシオンがいかに高額であるかがわかる。



アルファードは2WD(ガソリン車)が359.7万円〜742.1万円、ハイブリッド車(4WD)が461.3万円〜775.2万円。かなり幅があるが、これはどちらのパワートレインにも「Executive Lounge」という700万円台の高級グレードがあるためだ。同グレードをのぞけばハイブリッド車の最高価格は572万円、2WDのガソリン車は同527.76万円となる。



ルキシオンに試乗して感じたのは、ハイウェイスターVとはまた別の乗り味があり、質が高く、満足度が非常に高いということだった。これなら、もしかしたらアルファードに対抗しうる車種になるのではないかと直感した。


○電動化がもたらす上質感とは

第2世代e-POWERは、まるで電気自動車(EV)にのっているかのような仕上がりだ。モーター駆動による恩恵を十分に感じられる。



e-POWERは搭載するガソリンエンジンを発電のためだけに使い、走りはモーターのみで行う。これに対しトヨタのハイブリッドシステムは、ガソリンエンジンもモーターも駆動に使い、総合燃費を改善することを重視している。



それでも、「バイポーラ型」という新しいニッケル水素バッテリーを採用したコンパクトカーの「アクア」はモーター走行領域が増え、40km/hあたりまでならe-POWERと同じように静かで滑らかな走行感覚を得られるようになっている。



しかしe-POWERであれば、車速に関わらず常にモーター走行となるので、あたかもEVに乗っているかのような走行性能や走行感覚を得ることができる。当初は発電のためのエンジン始動でそれなりの騒音を実感したが、現行「ノート」から採用が始まった第2世代e-POWERでは静粛性が一段と改善され、EVらしさが高まっている。



ルキシオンはEVのように走るe-POWERの上質さをさらに極める装備となっている。遮音ガラスをフロントウィンドウだけでなく前席左右のドアガラスにも採用することで、車外の騒音が耳に届きにくく、走行中の風切り音も意識させない作りとなっているのだ。さらに、カーナビゲーションで目的地を設定しておけば、通るルートの道路環境(アップダウンなど)を考慮してエンジン始動のタイミングを調節してくれる機能も備えている。


もちろんアルファードも、上級車種として質の高いエンジン性能や静粛性が作り込まれている。それでも、EVのようにモーターのみで走るルキシオンの快さには及ばない部分があるのではないだろうか。



ルキシオンが「プロパイロット2.0」を搭載していることも、上級車種との競合において大きな利点になっていると思う。アルファードも「ACC」は装備しているが、ルキシオンのようにハンドルから手を離して走行することはできない。プロパイロット2.0は「スカイライン」が初採用した当時から、ハンドルから手を放すことを躊躇させない安心感があった。信頼度はトヨタやホンダの同様の機能を上回る。


高速道路を使った長距離移動でルキシオンは圧倒的な優位に立つ。現行アルファードは2015年に登場したクルマなので、技術面でルキシオンと差があるのは致し方ない。次のアルファードがどのような進化を遂げてくるかはわからないが、少なくとも今という時点で比べれば、ルキシオンの先進性と、それがもたらす快適性や安心感は優位性が高い。

○外観は好みがわかれる



最後に外観やボディサイズを比べてみたい。



これまで高級車といえば、大柄な外観による存在感がひとつの魅力だった。しかし、クルマの台数が増える一方で日本の道幅に大きな変化はなく、駐車場の枠も以前と変わりないとなると、大きなクルマは日常的に扱いにくく、手に余るといった負担が増すのも事実だろう。



アルファードの車体寸法は全長が4,945〜4,950mm、全幅が1,850mm、全高が1,950mmで、最小回転半径は5.6〜5.8mである。ルキシオンは同4,765mm/1,715mm/1,885mm/5.7mだ。



小回りが利くかどうかの指標になる最小回転半径にほとんど差はないが、車体全長では185mm、全幅では135mm、ルキシオンのほうが小柄になる。運転の際、車幅が1,800mm(1.8m)を超えるかどうかは感覚的に差が出る。たとえ最小回転半径は変わらなくても取り回しの面ではルキシオンに利があるし、対向車とすれ違う場面では、道路の左端にどのくらいの余裕があるかについての懸念が和らぐはずだ。もちろん駐車の際も小さい方が気楽だし、プロパイロット2.0には自動駐車機能も付いている。


アルファードの迫力ある顔つきは魅力のひとつだが、好みの分かれるところでもあるだろう。押し出しの強い顔を苦手とする消費者にとっては、新型セレナのルキシオンが高級ミニバンの新たな、そして有力な選択肢となるのではないだろうか。



アルファードは「エグゼクティブラウンジ」の快適さをうたうが、ルキシオンには自宅のリビングの快さがあると思う。どちらも上質感のある特別な空間だ。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)

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