手塚治虫『ブラック・ジャック』新作はAIと人間が”分業”で創作 今後の「漫画制作」の理想形に?

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2023年06月14日 12:11  リアルサウンド

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 AIを駆使して、あの『ブラック・ジャック』の新作が制作されることになった。


(参考:【写真】手塚治虫の漫画・復刻版『魔法屋敷』を試し読み


 6月12日、慶應義塾大学三田キャンパスで「TEZUKA2023」プロジェクトの記者会見が行われ、OpenAIの「GPT-4」やStability AIの「Stable Diffusion」などの生成AIを用いて『ブラック・ジャック』を生み出し、今年の秋までに「週刊少年チャンピオン」に掲載されることが発表された。


 今回のプロジェクトの総監督は手塚治虫の長男、手塚眞氏が務める。ストーリー作成をテキスト生成AIの「GPT-4」が、キャラクターの顔やコマなどは画像生成AIの「Stable Diffusion」が作成するという。最終的な仕上げなどは漫画家が手掛けるものの、アイディアの部分をAIが担う。どこまで面白い漫画が生み出せるか、注目される。


 AIを使って手塚治虫の新作を生み出すプロジェクトは、既に「モーニング」に掲載された『ぱいどん』などの先例があるが、完全に新作だったため、賛否両論であった。今回は手塚治虫屈指の人気作品『ブラック・ジャック』の新作ということもあり、読者の審判は前作以上に厳しそうだ。


 とはいえ、今回のプロジェクトは、今後の漫画制作におけるひとつの理想像を示しているかもしれない。ゼロからすべてAIに任せて絵を出力する“AI絵師”とは異なり、人間とAIの分業で制作されるためだ。そもそも、漫画の制作にアシスタントを使ったプロダクション制を確立し、定着させた一人が手塚なのである。


 また、原作と作画の担当を分けて1本の漫画を作る手法は『推しの子』や『北斗の拳』など、漫画制作のスタイルとして定着している。また、作画の段階でも漫画家がスタッフに指示を出し、コマ割りや下絵まで制作する分業も既に行われている。さいとう・たかをのさいとうプロダクションでは、シナリオ、背景、キャラクターの身体などを制作する専任のスタッフが存在し、漫画を制作している。


 今回の「TEZUKA2023」プロジェクトは、こうした漫画制作の現場の一部をAIが担うということになるのだ。


 ファンからの反発はないのだろうか。手塚眞氏は「手塚治虫が生きていたらAIを使ったと思う」という趣旨の発言をしていたが、これは同感である。手塚ほど流行りものが好きで、貪欲な漫画家はほかにいないと言っていいからだ。劇画が登場したときは『きりひと讃歌』などに劇画の手法を取り入れ、ロリコン漫画が流行った時は大胆なコスチュームをまとった女の子が登場する『プライム・ローズ』という作品を描いた。こうした姿勢で制作したからこそ、手塚は第一線で活躍できたのである。


 手塚は生前に「アイディアはバーゲンセールしたいほどある」と語っていたが、とにかく引き受ける漫画の連載が多すぎるうえ、アニメーションまで制作し、イベントのマスコットのデザインから、講演も精力的にこなしていた。亡くなる直前まで3本の連載をもち、病院のベッドの上でも仕事をしていたというから驚きである。あふれ出るアイディアに対し身体が追い付かない状態だったのである。


 手塚がAIを喜んで使ったと考えられる根拠は、ここにある。とにかく慢性的に時間が不足していたし、何より手塚治虫は好奇心の塊であった。どんな漫画を生み出すのか、どっちが面白い漫画が描けるか自分と対決してみようかなどと、考え出すかもしれない。


 また、手塚の有名なエピソードに、石ノ森章太郎や大友克洋など、若手で実力のある漫画家には常にライバル心を抱いていたというエピソードがある。そういった競争心があったからこそ、数々の傑作を生み出せたのは間違いない。仮に世の中がAIの漫画だらけになっても、手塚は「AIが描いている漫画よりも、僕の方が上手いよ!」などと対抗心を燃やしていたのではないか。


 AIが、天国の手塚が悔しがる傑作が生まれるかどうか、注目である。『ブラック・ジャック』の新作を心待ちにしたい。


文=元城健


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