「頑張っても、信用されない」元受刑者だからわかる社会の冷たさ 波瀾万丈の女性社長が挑む更生支援

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2023年06月18日 09:21  弁護士ドットコム

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狩猟や山田うどん、裁判傍聴などを独自の視点で綴るライターの北尾トロ氏。2月に刊行された『人生上等!未来なら変えられる』(集英社インターナショナル)は、北尾氏による初めての人物ノンフィクションだ。


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本書で北尾氏から密着取材を受けたのは栃木県の建設請負会社(株)大伸ワークサポート代表の廣瀬伸恵さん。犯罪歴のある人を雇用して再出発を助ける協力雇用主でもあり、廣瀬さん自身も、覚醒剤の売人として二度服役した過去がある。



再犯と仕事の有無は無関係ではない。法務省のデータによれば、「仕事のない者の再犯率は、仕事がある者の約3倍」。再犯防止のためにも出所者の就労環境を整えることは重要だとされる。



これまでの道のりや協力雇用主としての実態を伺うため、インタビューを打診した。



指定された場所は、府中刑務所近くのファミリーレストラン。約束の時間になると、廣瀬さんは男性ふたりを伴って現れた。ひとりは車を運転してきた仕事仲間Bさん。もうひとりは、この日の朝、府中刑務所から出所したばかりのAさん。インタビューはAさんとBさん同席の元、進んだ。(ライター・高橋ユキ)



●出所者を迎えに行く理由



——今日は府中刑務所にAさんを迎えに行っていたとのことですが、なにか特別な理由はあったのでしょうか



廣瀬さん「採用した人は、いつも出所した際に迎えに行くようにしているんです。服役前の世の中との変化にびっくりしている部分もあるし、気分も高揚する時なので、なるべく付き添いたいと思っています。



あと、出所する時に迎えがなかったら寂しいでしょうし。中にいる人にとっては、自分を待っててくれている人がいるっていうことが嬉しい。なので極力迎えに行くようにしています」



——実際嬉しいものですか



出所者Aさん「迎えですか?  嬉しいです。今回は2回目で、どちらも薬物です。前回は母が来てくれたのですが……」



廣瀬さん「今回、Aさんは、家族から『もう次はないよ』って言われてから次の事件を起こしたので、ご家族には身元引受人にもなってもらえませんでした。ご家族とは絶縁というわけではなく、しっかり頑張って更生した姿を見せてほしいと言われているそうです。完全に親子の縁を切られてるわけじゃないので、修復できるのかなと思って、私もそれを影ながら応援していきたいですね」



●出所して十数年、未だに警察から「尿いいかな?」


〈『人生上等!未来なら変えられる』で北尾氏が綴った廣瀬さんの半生は壮絶だった。中学生の頃にヤンキーに目覚め、鬼怒川温泉のコンパニオンに。拉致されたうえ覚醒剤を打たれ「性奴隷」にされたこともある。その後は覚醒剤をおぼえ、裏カジノで働き、レディース暴走族「魔罹唖(マリア)」の初代総長となった。違法薬物を密売したことにより二度服役するなか、獄中出産し、対面したばかりの我が子とすぐに別離した〉




——出所して、会社をやろうとした廣瀬さんが動き始めた当時、地元のハローワークの方や警察がすごく冷たかったと本にありました



廣瀬さん「冷たい扱いは、いまだにありますね。もう出所して13年が経っていても、警察は、従業員に何かあれば、まず私から尿検査しますし、近所で交通事故が起きて検問中に、免許証を見せると照会して『尿いいかな?』って言われます。やっぱり何かあると“前”があるから、っていう風に見られます。



5年経とうが、10年経とうが、たぶん一生私はこの免許証を見せると、そんなふうに言われるんだなと。近所で事故や交通違反があれば、疑いの目で見られてしまうんだなと。先日も、まず警察に『腕見せてくれる?』と言われました。注射痕確認ですね。これがいつまで続くんだろうっていうくらい」



——自分の過去の行動に原因があるとはいえ、折れることもありますよね。それが一度目の出所後だったと思いますが



廣瀬さん「刑務所から出てきた時って、多分誰でも、やり直そうって思うはずなんですよ。だけど、やっぱり社会に受け皿がないし、頑張ろうとしている人を信用してくれない。“どうせお前らは一度やったんだから次もやるだろう”と見る人がほとんどだから、そんな風に思われるなら、やってたってやんなくたって一緒。だったらやっちゃおうぜ、気持ちいいし、みたいな感覚に……正直1回目の懲役の後は……なりましたね。



社会の人たちは一度でも犯罪を犯したら、『そういう人』ってみなして、世界から排除しようとしている。自分がどこにいても『元犯罪者』という看板をぶら下げているような感じですね」



●子どもの存在がブレーキになる



—— 二度目の出所後、2008年に大伸ワークサポート(本社・栃木市)を設立し、その後は会社を切り盛りしていますが、いまもそんな批判は続いていますか?



廣瀬さん「今回のように廣瀬のことが書かれた本が出たとか、会社を始めたことがネットニュースになると、『きれい事言ってる』とかいう書き込みもある。警察もおそらく、ちゃんと本当に頑張ってんのか? でももしかしてまた悪いことしてないか? ぐらいな感覚で見てますよ。だから、いつ私がこけるか分かりません」



——真面目にやっていこうと思っても、信用してもらえないことが続くと、くじけそうになると思うんですが「また疑われた」というときは、どのように気分を変えたりするんでしょうか



廣瀬さん「大切な人の存在を思い出す。私の場合はやっぱり子どもです。シングルマザーなので、私がこけたら娘が1人になってしまいますから。獄中出産したもう1人の子と離れ離れになったことは最大の後悔ですが、子どもが『ママ、ダメよ』っていうブレーキを、私の心に一生懸命かけてくれてるんです。



今日車を運転してきてくれたBさんも元暴力団員の幹部だったんですが、暴力団をやめて何年も経っても通帳が作れなかったり、部屋も自分の名前で借りられない。携帯電話も契約できない人だっています」



Bさん「自分も辛い時は、お世話になった人とか思い出します。ヤケになるとまた同じことになっちゃうんで。過去は変えられなくても明日、明後日の自分の姿を変えられるという廣瀬社長の信念でやってます」



廣瀬さん「Bさんも以前は超問題児でしたが、数年経って、いまは活躍していますし、仕事仲間としていい関係を築いています」



——Aさんも、前はそれで挫けたこともあるんですか?



Aさん「ふと薬物のことを思い起こすと、パートナーや母の顔が浮かびます。ですが、やっぱり味を知ってしまっているので、一度目の出所後はは止められなかったですね」



——じゃあこれからは、廣瀬さんの顔も思い浮かぶかもしれないですね



Aさん「そうですね。それは間違いないです。たぶん使ったら速攻で気づかれると思うから」



廣瀬さん「すぐ気がつきますよ、わかりやすい子が多いです。弊社では仮釈放や仮退院の子が一定期間過ごす場所を用意しているのですが、そこでは毎日私とも顔を合わせますから、薬物を使っていない『普通の状態』を把握できます。なので、異変があればすぐにわかるようになります」



●毎日のようにトラブルも



Bさん「いま社長はこうやって面白く話しているけど、本当の生活はこんなもんじゃないからね。毎日格闘です」



廣瀬さん「つい先日、刑務所から出てきた子もそうでした。出てきて焼肉を食べさせてたとき『この会社、いい会社でよかったです』なんて言ってくれるから『頑張っていこうね』って言ってた矢先、免許センターに連れて行ったら姿を消してしまって……」



Bさん「俺が免許センターに連れて行って、車の中で待ってたんですけど、いつまでも帰ってこないんですよ。おかしいなあ、と思っていたら……」



廣瀬さん「本人から連絡があって。『倒れて、いま点滴を打っている』と言うんです。どこにいるのか聞いたら『社長、1週間入院決まっちゃったんで20万貸してください』って。まだ1日も働いていないから、それはちょっと、と思って『貸せないよ』と連絡したら『今逃げてます。今逃げてます』と。『ちょっと大丈夫?』って聞いたんだけど『あ、今逃げます。逃げます!』とプツッと電話を切ってしまって。うちの会社の携帯を持ったまま電源を 切って音信不通です」



Bさん「そういうことが毎日のように起こるんです」



廣瀬さん「つい先日も、従業員が60万円くらい前借りしたまま消えて。8時間ぐらい捜索して捕まえてね。部屋に戻して、その人の荷物をひとつずつ出してたらマリファナと覚醒剤もちょっと出てきて、通報することに。だからもう日常茶飯事ですよね。そういうトラブルの電話が毎日、何件も。常に電話しています」



●「彼らの親だと思って接しています」



——それでも解雇はしないんですね



「他の従業員からは、『いつまでも社長はクビを切らないんだ』って言われます。真面目にやってる社員は不満がたまるんですね。なんか俺たち真面目にやってるのにバカみたいじゃないですか、って最近も2〜3人から言われました。でも私はもう雇用した時点で彼らの親だと思って接しています」



——毎日のように何かが起こるんですね。廣瀬さんは、刑務所出所者等の雇用に協力する『協力雇用主』ですが、国からの支援は何かないのでしょうか



「もう、めちゃくちゃ大変ですよ。私が過去にいろんな経験をしていなかったら、とっくにやめています。全然儲からないし。支援金が出るとか法務省のウェブサイトには書いていますが1人あたり月1万ですよ。採用前段階の面接も、少年院側から要請された場合のみ交通費は出ますが、あとは全部ボランティア、ポケットマネーです。その他、携帯代など細かい費用もかかりますしね。



本業での利益があるからどうにかやれていますけど、支援金だけでは、かなりきついのが実情です。



うちは寮から集合場所への通勤用の車も従業員に貸し出しています。でもそれで事故なんか起こされると、まるっきり赤字です。



また、これは色々と制度が変わらなきゃまずいなと思ってるところなんですが、出所者には、本当に何にも所持品のない人がいます。タオルもパンツも服もです。生活に関わる全てのモノを揃えるために、うちで中古のものをあげたり、給与から天引きしたり、小さいものは買ってやったり、とかやってると……もうちょっと、国、なんかしろよみたいな(笑)」



●手錠をかけたまま用を足した「保護房」の思い出

——けっこう金銭的には厳しいですね。人間関係はどうでしょうか



「出所初日はおとなしいんですが、いきなり人間性が変わっちゃって切れ始めたりする人もいます。3日経ったら『てめえこのやろう』と、私に喧嘩売ってくる子もいるし、社長が俺を迎えに来てくれて、俺の再スタートを応援してくれてる、って思ってくれる人ばかりじゃないから。そういうときは他の従業員たちが守ってくれたりもします。



女でしょ、私は。だから相手の体型が細身の男の子だとしても、力じゃ、もうかなわないと思う。怒って窓ガラス割られたり、車を叩かれたり、怖い思いもしてます。そんなんに負けらんねえって、そういう時は私も反撃しますけど、そうすると、辞めた後にやっぱ逆恨みされたりとかね。並大抵の人じゃ絶対できないですね」



——それでも続けてこられているのは、やはり過去の自分の経験もありますか



「刑務所の中で暴れて『保護房』って呼ばれてるとこに入ったことがあるんですけど、手錠しながらご飯食べさせられたり、手錠されながら用を足したりするような場所でした。用を足してもそれを拭けない辛さとか……まあ暴れる私が悪いんですよ。でも、それを抑えるためって言いながらほんとに過酷な状況に置かれるんで。ああいうのに比べればこんなのはちょろいなって(笑)。



あと、私は刑務所にいた時、辛かった。22歳から27歳までの5年間、29歳から31歳までの2年間。20代のほとんどを刑務所で過ごしました。めちゃくちゃ辛かったから、やっぱりそういう気持ちは忘れられない、だからこそ、こうやって1人1人、うちの会社に入ってきた子たちも、きっと辛かっただろうなと思いますし、刑務所の中での共通の話題もできる。



中に入ってて親に絶縁されたりする子の気持ちも私は分かるし、寄り添うことができるから従業員も私を慕ってくれたりするのかなとも思ってます。過去が活かされてるのかなと」



——でもせめて国にはもう少し支援を増やしてほしいと、私もお話を伺っていて思いました



「そう。頑張れよって思います」


このニュースに関するつぶやき

  • やっぱり信用されないよなぁ、いじめられた事ある人は。出所者と聞いただけでイヤなイメージ湧くだろうし。
    • イイネ!17
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