映画『マリオ』『ピカチュウ』『ソニック』はなぜヒット?ゲーム原作のハリウッド映画、大躍進の背景を考える

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2023年06月23日 18:10  CINRA.NET

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Text by 小野寺系
Text by 岩見旦

新しい『ストリートファイター』の実写映画を、A24『Talk To Me』を手掛けたYouTuber出身のダニー&マイケル・フィリッポウが監督することがスクープされ、話題になっている(※1)。彼らのYouTubeチャンネル「RackaRacka」では、『ストリートファイター』のパロディ作品がアップされていて、クリエイターの在り方が変化してきていることが実感できる。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がアニメ映画史上最高のオープニング記録樹立したように、ここ数年、ゲーム原作のハリウッド映画、ドラマが相次いでヒットしている。とくに実写作品では、『名探偵ピカチュウ』(2019年)、『ソニック・ザ・ムービー』(2020年)、『モンスターハンター』(2021年)、『モータルコンバット』(2021年)、『アンチャーテッド』(2022年)、『The Last of Us』(2023年)などが公開され、今後も『グランツーリスモ』『マインクラフト』『パックマン』『ロックマン』などの公開が続く見込みだ。

これまでもゲームは、実写映画の題材となってきたが、興行成績が振るわないケースが多く、莫大な製作費を要するハリウッド大作の企画としては、なかなか通らない場合が多かったといえる。しかし、なぜいまになって続々と企画が実現する状況が生まれているのか。ここでは、その背景に何があるのかを考え、その先の未来をうらなっていきたい。

まず、ハリウッド映画は古い時代から慢性的なネタ不足の状況にあるという前提がある。世界中から成功を求め、オリジナル脚本や既存の作品の映画化企画が山のように映画会社に届けられるが、出資者やプロデューサーが満足できるものは限られている。それもそのはずで、大作映画は巨額の資金や人材が数年間継続して動くものであり、動員が期待できないようなものを扱うわけにはいかないからだ。

当時から世界的なゲーム作品だった『スーパーマリオブラザーズ』を実写化した『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』(1993年)は、興行的な成功を収められなかった。それは、『スーパーマリオブラザーズ』というゲームが現実ばなれした内容だったという事情が影響していると考えられる。ゲームの内容と実写という表現方法があまりにも乖離しているため、ゲーム独自の魅力ではなくストーリーや設定を従来の実写作品のフォーマットに当てはめるのが精一杯だったのだ。

しかし、2000年代には『トゥームレイダー』シリーズや『バイオハザード』シリーズ、『サイレントヒル』シリーズなど、映画作品としてシリーズ化されるほどの、ゲーム原作のヒットが生まれたのも確かなことだ。

これらのケースでは、3Dポリゴンによる立体表現という技術革新によってゲームのリアリティが映画に近づいたこと、そして映画業界も、ジョージ・ルーカスによるILMなどのVFX企業がCGによる新たな表現手法を確立したことが、内容を充実させる要因になっていると考えられる。

つまり、ゲームと映画がそれぞれの業界に歩み寄るような現象が起きたことで、「ゲーム原作映画」というジャンルが成り立ちやすくなってきたのだ。とはいえ、ゲームの魅力を実写映画に落とし込む際の難しさは、依然として課題ではあった。その間にゲームは映画の表現手法を貪欲に吸収し、「映画的」なゲームタイトルが数多く登場している。その意味では、映画よりもゲームの方が、より両者の垣根を越えるような表現を行なってきたといえるのではないか。

そんな一方的な状況を動かしたのは、ハリウッドの映画業界全体の変化である。爆薬の量と筋肉の量にものをいわせたタフガイのアクション映画から、アメリカンコミック作品を原作としたヒーロー映画へとトレンドが移り、より荒唐無稽で現実ばなれした内容を観客が求めるようになってきたのである。

これまで世界を救うゲームのヒーローの物語は、大人の鑑賞に耐え得るようなものだと判断されてこなかった部分があるが、2010年代にマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を中心としたヒーロー映画が次々にヒットし、この既成事実が知らず知らずにそんな見方を破壊していたといえよう。

ハリウッド映画の一翼を担うソニーピクチャーズが、『アンチャーテッド』シリーズの実写映画化を皮切りに、継続してゲームタイトルの大作映画化企画を送り出していくことを発表しているのも、ゲーム実写化の機運を高めている大きな要因となっているだろう。ソニーピクチャーズと、プレイステーションのゲームタイトルを開発、発売してきたソニー・インタラクティブエンタテインメントが、ソニーのグループ企業であることから、企画実現のハードルが低いというのが、ソニーピクチャーズの強みであるといえる。

そうなってくると、日本企業のゲームのIP(知的財産)にも、各映画会社の熱視線が注がれる。『マリオ』シリーズや『ソニック』シリーズ、『ポケットモンスター』(『名探偵ピカチュウ』)に続き、日本の魅力的なゲームタイトルは、これまでと打って変わって、強力な企画に変貌することになるのではないか。

テレビ(ビデオ)ゲームが世界的に普及し始めた1980年代から90年代にかけて、日本のゲーム制作が世界を牽引する活躍を見せていたのは周知の通りだ。現在もシリーズが続くタイトルも多く、じつは幅広い世代に訴求する知名度を持っているのが日本のゲーム作品だといえる。

調査会社がレポートを発表しているように、ハードの進化やモバイルゲームの普及によって、いまやゲーム人口は世界で37億人を突破した(※2)。これは、映画業界が配信ビジネスへの移行を見せているのと同様、コロナ禍の状況や、高速インターネット普及による、インドア傾向の結果であるともいえる。

この未曾有のゲーム時代に、ビジネス的な観点で映画業界が連動しない手はない。ハリウッドの映画会社は、これまで見過ごされがちだったゲームの海原へと、本格的に乗り出している。この動きは、ヒーロー映画からトレンドを奪い、大作の主流となる流れを生むことになるかもしれない。

そんな未来がくるとすれば、そこで起きるのが、ゲームと映像作品のさらなる融合である。Netflix『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』など、映像作品の物語を視聴者自身が選択できるさまざまな配信映像タイトルが生まれてきている。

これは、かつてのゲームジャンル「インタラクティブムービー」が新しいかたちで甦っているといえる。またゲームの側からは、実写映像を巧みにゲームのなかに使用し、まさに実写の世界をプレイしているような『At Dead Of Night』というタイトルも出現している。

このような試みによって、映画とゲームの境目は、これまでになく曖昧なものになってきているといえるだろう。近年のゲームと映画の接近という事態は、映画の題材としてのトレンドのみに終わらず、新たなかたちの娯楽を誕生させ、定着させる可能性すら生み出すことになるのではないか。

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