中学受験生の親を悩ませる“学校選び”――「大学付属校」で恥ずかしがり屋の娘が伸びたワケ

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2023年06月24日 19:01  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 現在は「史上空前の中学受験ブーム」と言われ、首都圏での中学受験熱はますます高まっている状況だ。この熱を受け、親子で受験しようと一歩を踏み出したご家庭も多いことだろう。

 ここで親が悩むのが学校選びである。東京だけでも中高一貫校は200校近くある。この中から、我が子に合った学校を選択していくのだが、選択肢がありすぎると「一体どうやって受験候補校を決めればいいのだろう?」と不安を抱く保護者もいるかもしれない。

 学校を選ぶ基準は、例えば「女子校・男子校/共学校」「進学校/大学付属校」「伝統校/ニューウェーブ校」が挙げられるだろう。中学受験シーズンになると、「伝統女子校が人気」「大学付属校ブーム」といった記事をよく目にするようになるが、その善しあしは、「我が子に合うかどうか」ということに尽きる。逆にいえば、我が子に合った学校を選ぶ自由があるという点こそ、中学受験の最大の魅力なのかもしれない。

「もちろん、学校選びは迷いました。娘にとっては一生の選択になるわけですから、受験候補校は念入りに見学して決めたんです」と語るのは、大学2年生になった由芽さん(仮名)の母、めぐみさん(仮名)である。

 小学生時代の由芽さんは、恥ずかしがり屋さんで、積極的に人前で発言することは皆無。しかしながら、誰にでも優しい穏やかな子だったそうだ。

「学区の公立中学は私の目から見ると厳格でして、由芽がこの中学で伸び伸びと過ごせるとは思えなかったんですよね」

 そう考えるに至った理由は、当時の校長先生の方針によるものだったらしい。その中学では公的検定試験や各種大会に積極的。合格者や入賞者を称賛する空気に満ちあふれていたという。それは良いとしても、めぐみさんが最も不安に思ったのは、球技大会などの行事にも校内検定なるものが存在するという話を聞いたからだ。

「由芽はどちらかといえば、人と争うのが苦手な子だったので、常に何かで優劣を競っているような学校には向かないなぁと思ったんです。それで中学受験を選択し、結果、大学付属校に進学しました」

 大学付属校に入学すると、エスカレーター式に系列の大学に進学することになるとイメージする人も多いだろうが、形態はさまざま。ほぼ全員が内部推薦を使い、系列大学に進学する学校、系列大学にはほとんど進学せず、大半の生徒が他大学受験をする実質“進学校”となっている学校、あるいは、系列大学への推薦の権利はキープした上で、他大学を受験することを後押ししている学校などもある。大学付属校といえども、それぞれの内部進学率は学校によって、あるいは学年によっても異なるのだ。

「由芽の学校は約半数が系列大学に進学します。外部受験も推奨されていますが、中学入学時は多分、由芽自身も、もちろん私たち親も、このまま系列大学に進むんだろうなと思っていました」

 ところが、由芽さんは現在、その学校の系列大学には通っていない。アメリカの大学で学んでいるそうだ。めぐみさんはこう証言した。

「大学付属校のメリットの一つに高大連携授業というものがあるんです。系列大学の教授が出張授業をしに来たり、逆に系列大学の講義に参加することもできました。早い段階から、大学生とも話ができるので、中高と学年が上がるごとに、世界がドンドンと開けていったのかな? って想像しています」

 大学付属校に通うメリットとしては、大学受験を気にしなくてもいいので、受験を意識する授業というより、探求を深めるような講義を受けられる点が挙げられる。さらに、校風が自由な学校が多いので、部活や趣味でも、自分の好きなことを究められるなどは、よく聞くところだ。

 由芽さんも軽音楽部に所属しながら、アニメ同好会にも顔を出し、茶道部も兼部。さらには、系列大学にも顔を出すようになり、めぐみさんいわく「いつの間にか積極性を身に着けていた」とのこと。

「この学校に入って、一番うれしかったのは、由芽が徐々に積極的な明るい子になっていったことなんです。それまでは、どちらかといえば、友達の意見に自分を合わせるような面があったんですが、相手の意見も聞きながら、自分の意見も堂々と述べられるようになっていて……。そばで見ていても、学校に行くのが楽しくて仕方ないって感じだったので、この学校にして本当に良かったと思いました」

 由芽さんは高校時代に大学の講義で経営学を学ぶ機会に恵まれ、将来の夢が決まったという。

「進路選択をしなければならない時に、由芽が言ったんです。『20代で起業を考えている。そのために大学では経営学を学びたい』って。そこまでは良かったんですが、なんと進路希望はアメリカの大学だったので、驚きました」

 実は、由芽さんが通った中高一貫校は、海外ターム留学制度も充実。由芽さんもその制度を使って、高校時代に3カ月間のアメリカ留学をしている。

「学校生活を謳歌していたので、受験勉強はせずにこのまますんなり系列大学へ行くんだろうなと思っていただけに、由芽の発言にびっくりしました。でも同時に頼もしくもありましたね。私の時代には考えられないことでしたから」

 由芽さんの学校は大学付属校ではあるものの、実績は少ないながら、海外大学進学を積極的に後押ししている学校だ。先生方も由芽さんの合格を応援するために、大学に提出するエッセイの添削に始まり、推薦状の作成など、実に細やかに面倒を見てくださったという。

 結果として、由芽さんは見事、志望校に合格。異国での大学生活を謳歌している最中だそうだ。

「これから由芽がどういう道に進むのかはわかりません。けれども、自分で自分の道を拓いていける子になったという実感はあります。この性格の変化は、やはり置かれた環境の影響が強かったのだと思います。伸び伸びとした大学付属校ならではの校風、穏やかな学友、生徒を決して否定しない先生方など、由芽にとって、本当に合っていた学校だったんだなと、この出会いに感謝しかないです」

 人は環境に左右される生き物。「置かれた場所で咲きなさい」というのは、ノートルダム清心学園理事長だった故・シスター渡辺和子氏の有名な言葉だが、筆者は中学受験を目指すご家庭に対し、「置かれた場所で咲くのは本人。しかし、我が子を花が咲きやすい場所に置くのは親」と思っている。

 由芽さんがどんな起業家になるのか、今から楽しみだ。

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