ビアンキ『ピスタ』。一時期は街の鼻つまみ者だったピストバイクが、実は街乗りに向いてる理由

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2023年07月14日 11:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
自転車好きにもいろいろなタイプがあるが、僕はもっぱら“街乗り派”。


遠くまで旅に出たり、アウトドアフィールドを走り回ったり、スピードを競い合ったりするわけではなく、自宅を起点とする日常的な移動の第一選択肢として、自転車があるのだ。

○■20年近く乗り続けている愛車は、ピストバイクのビアンキ『ピスタ』



もう20年近く使っているお気に入りのマイチャリは、イタリアの自転車ブランド・ビアンキの『ピスタ』。いわゆる“ピストバイク”というジャンルに分類される自転車である。



自転車に詳しくない人に向け念のため説明すると、ピストバイクというのはもともと、競輪のようなトラックレース用の自転車で、最大の特徴は固定ギア(フィックスドギア)であること。

後輪の中心部にあるギア(チェーンと連結している歯車状の部品)は、通常の自転車のように空回りする機能がなくて固定式。

そのため、ペダルを回転させている間は常に車輪も動き、車輪が止まった瞬間にペダルも止まるという完全連動システムになっている。



脚の力をペダルとチェーンを通して余すことなく車輪の回転力に変換できるため、短距離レースにはうってつけのこのピストバイクが、2000年代中頃に世界中のストリートで流行した。

アメリカのニューヨークやカリフォルニアを拠点とするメッセンジャー(自転車便)のライフスタイルが注目され、彼らのように街でピストバイクを乗りこなすことが、ファッション込みで一大トレンドとなったのだ。



そのブームの当時、僕は「smart」というファッション誌の編集長を務めており、誌面でよくピストバイクを取り上げ、「ピストバイクバイブル」という増刊号まで作った。

仕事のネタにしただけではなく、僕自身も流行りものが好きな性格なので、このビアンキ『ピスタ』を購入し、プライベートで乗って楽しんでいたのだ。



本来のレース用ピストバイクにはブレーキがない。

ペダルの回転を止めれば車輪も止まる機構なので、ライダーはペダルの踏力調節のみで速度を制御するのだ。

アメリカの本家メッセンジャーたちは、レース仕様のままのノーブレーキピストを街で乗りこなし、脚だけで急ブレーキをかけることを一種の“技”として披露。それが鮮やかなほど、かっこいいピスト乗りとしてリスペクトされた。

日本の初期ピスト乗りもそうしたカルチャーを直輸入し、ノーブレーキピストが街で普通に見られた時期もある。



だが、これは僕が自分自身でピストに乗っているからはっきり言えるのだが、脚力だけで車輪の回転を止めるのは至難の業だ。

ある程度までスピードを抑えることはできても、普通のブレーキと同様の急制動は、よほど修行を積んだ人でないとできない。



日本でもブームの頃、ノーブレーキピストによる事故が多発して社会問題化。

ピスト乗りは世間の常識ある人から冷たい目を向けられるようになり、警察の取り締まりも強化されたこともあって、ピストバイクブームは急速にしぼんでいった。

○■ミーハーでヤワなブレーキ付きピスト乗りだったから、長く乗り続けられた



でも僕は流行の収束後も、ビアンキ『ピスタ』を使い続けた。

というのも僕は、流行っているものにはとりあえず絡んでおこうという軽いノリで始めたミーハーピスト乗りに過ぎなかったので、最初から前後輪ともにしっかりとブレーキをつけていたのだ。

ブーム当時、ハードコアなピスト乗りからはバカにされがちだった安全第一のダサいブレーキ付きピストバイクだが、そのおかげで今まで事故もなく、長く楽しく乗り続けていられるのだと思う。



前後輪ともにきちんとブレーキをつけたピストバイクは、手元のレバーによる制動に加えて、ペダルの踏力でもスピード調整ができるので人馬一体(人車一体化?)感が強く、人も車も自転車も信号も多くて、微妙なスピード調整やストップ&ゴーを繰り返さなければならない都会の街乗りには、実はとても向いているのだ。


ビアンキ『ピスタ』のフレームは、昨今のスポーツ自転車の主流であるアルミやカーボン製ではなく、一昔前の主流だったクロモリ(クロームモリブデン鋼)という素材が使われている。

アルミやカーボンと比べてクロモリは重い素材なので、全体の重量を抑えるため、フレームはできるだけ細身に作られている。

この細くてシンプルなフレームがクラシカルな印象を醸し出すので、機能性はさておき「クロモリが好き!」というファンも多い。当然、僕もその1人だ。



基本的に新しい物好きの僕が20年もこの自転車に乗り続けている理由は、他にもある。

ピストバイクというのは変速ギアがない“シングルスピード”の自転車であることも特徴のひとつで、全体的に極めてシンプルな構造だ。

おかげで改造しやすく、乗り心地や見た目の不満点が出てきたら部品を調達し、自力でカスタムすることができる。

僕のビアンキ『ピスタ』もいろいろといじっていて、ここ数年間でも前輪のホイールやハンドルを交換している。


自転車の心臓部であるギア交換も、僕のような素人でも簡単におこなうことができる。

ペダルの根元と後輪の中心にあるギアは、それぞれの大きさ(歯車の歯の数)や組み合わせを変えることによって、推進能力を自在に調整することができる。

ペダルを軽くする代わりに一回転で進む距離を短く(体感的にはスピードが遅くなる)したり、ペダルを重くする代わりに進む距離を長く(同じく体感的には速くなる)するかを、好みで選ぶことができるのだ。



僕は試行錯誤の末、ある程度のスピードと軽さが両立する自分にぴったりのギア比を見つけた。

その結果、スピード至上主義なレーサータイプの自転車にはまったく敵わないが、ママチャリよりはずっと速く、山登りなんかはとてもじゃないけどできないけど、普通の街の坂だったらスルスル登っていける、自分にとっては完璧な乗り心地の自転車に仕上がっている。


○■ビアンキ『ピスタ』を愛用する筆者が使う、自転車グッズのあれこれ



僕がビアンキ『ピスタ』とともに愛用している自転車用の道具をいくつか紹介しよう。


まずはヘルメット。

僕が長く使っているのは、LAZERの『CAMELEON』というヘルメットだ。

LAZERはコスパもデザインもいいので人気のメーカーだが、僕がこれを選んだ理由は、頭の形にピッタリだったからだ。

頭のハチが大きな僕はいつもヘルメット選びには苦労するが、コイツはかなり奇跡的にジャストフィット。

サイズの微調整ができる機構もついているので、実に快適なかぶり心地なのである。僕と同類のハチデカ族の皆さんにはぜひおすすめしたい。


ロックチェーンは2本持っている。

一本は2000年代ピストバイクブームの頃に購入した、シュプリームとフラグメントのコラボもの。

当時は本場のメッセンジャーよろしく、こういう派手でごついチェーンを肩にかけて走るスタイルがカッコよく見えたのだが、実は購入後ほとんど使ってなくて、とても綺麗なままだ。

太くて重くて超頑丈なこういうチェーンは、本場ニューヨークの自転車乗りには必須かもしれないけど、東京の世田谷区を中心に乗っている僕にはほぼ無用の長物。

普段はもっぱら、100均で買った小さなチェーンを使っている。


どこの国のメーカーなのかさえわからないけど、ネット情報で判断して最近購入したFIVANGINの電動エアポンプは、なかなかの優れものだ。

細いタイヤのスポーツバイクは、高めの空気圧でタイヤを硬く張って乗るものなので、手動ポンプを使って空気を入れるのはけっこう骨が折れる作業。

サクサク空気が入るパワフルな電動エアポンプはとても便利で、もっと早く買えばよかったと思うほどのものだった。


トップチューブの下には、ROCKBROSというメーカーの小さなフレームバッグを常につけている。

中には、手動エアポンプ、ラジオペンチ、そして自転車用マルチツールと手袋を入れてある。


これらの七つ道具を使えば、ちょっとした不具合ならすぐに直すことができるので、出先でトラブっても慌てることはない。

近くに自転車屋さんがないようなところでも夜中でも安心して自転車に乗れる、保険のようなものだ。


この原稿を書くため久しぶりにこの自転車についてよく考えてみたら、なんだかますます愛着が湧いてきた。

事故らないように気をつけながら、これからも大切に乗っていきたいと思います。



文・写真/佐藤誠二朗



佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000〜2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。 この著者の記事一覧はこちら(佐藤誠二朗)

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