広島FW棚田遼、J1初先発で感じた悔しさと手応え「もっと怖い選手になれる」

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2023年07月19日 07:56  サッカーキング

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J1初先発を果たした広島FW棚田遼(中央)[写真]=J.LEAGUE
「試合に出たら自分のプレーをチャレンジすることが大事だし、とにかく監督は結果を求めていると思います。チーム状況も悪い中で、ここで点を決めたら評価されると思うので、とにかく結果を求めてやっていきたい」。試合の前日、久々の出場機会を前にサンフレッチェ広島の若きストライカーは燃えていた。

 FW棚田遼は16日に行われた明治安田生命J1リーグ第21節の横浜FC戦でリーグ戦初先発を果たし、61分までプレー。試合は1−1の引き分けで終わり、自身もチャンスで不発に終わったが、手応えもつかんだ。

 6月に20歳になった棚田は今季これまでルヴァンカップの2試合に出場。どちらも前半45分のプレーで終わり、出場機会には恵まれていなかった。だが、今試合はFWナッシム・ベン・カリファが累積警告で出場停止、FWドウグラス・ヴィエイラがコンディション不良で欠場。棚田も体調不良から戻ってきたばかりだったが、ついにチャンスが回ってきた。

 背番号28がまずピッチで意識したのは、「裏を狙う動き」だったという。「監督からは『裏を抜けろ』、『ポケットとか裏をどんどん意識しろ』と言われていました。自分の得意なプレーかと言われたら、そうではないけど、チームのためにそこは強く意識していました」

 ただ、広島は立ち上がりからボールを保持して攻めるが、堅い守備から鋭いカウンターを狙う相手に苦戦。チームの攻撃が噛み合わず、棚田も「前半はチームであまり攻撃がうまくいかなかったところがあった。個人的にも相手が引いてきていたので難しかったですし、あまり(ボールを)受けられなくて、受けても相手につぶされるシーンが多かった」と振り返る。

 前半は1トップの棚田が生きるような戦いではなかったが、それでも42分になって最初のチャンスが訪れた。MFエゼキエウが敵陣右サイドで相手ボールを奪い、MF川村拓夢が素早く前線へ送ると、中央のMF森島司が華麗なワンタッチでつなぐ。これを受けた棚田がキレのあるターンから迷わず右足を振り抜いた。

「モリシくん(森島)がフリックしてくれるとわかっていたので、前を向ける体勢を半身で作ることができて、いいターンができました。そのあと、モリシくんが左をオーバーラップしていたのはわかっていたけど、そこをあえて(おとりに)使って、自分の得意な右のカットインに持っていきました」

 シュートはDFにブロックされたが、ストライカーらしい貪欲さとそれを体現する思い切りの良さを発揮した。「あの場面は(パスを)出す気はなかったし、自分のリズムを作るためにも一回(足を)振っておこうと思いました。自分としても振って良かったと思うし、そこは後悔していないです」

 後半に入ると、ミヒャエル・スキッベ監督も「自分たちが一番良かったときのサッカーに近いものが見せられた。前から圧を掛けて、速いプレスを掛けながら良いサッカーができた」と話したように、徐々に広島が前から勢いを持って相手を圧倒。棚田もチームを引っ張るような相手GKへのプレスで守備から躍動感を見せた。

「相手がGKに下げたとき、スプリントして速いスピードで行ったら相手も怖いし、それだけでプレッシャーになると思ったので、そこは前半より意識していました。前半はGKに下がった時にセンターバック(CB)とGKのどっちに行くかが曖昧になっていて、あまり出られなかったし、CBに入った時も限定するだけだったので、後半はもっと強くいけたと思います」

 チームの攻撃にもリズムができてくると、57分に20歳FWが最大のチャンスを迎える。MF野津田岳人が敵陣中央でボールをカットすると、そのまま前に運んでパス。ペナルティエリア前で受けた棚田は、右サイドを走るエゼキエウを捉えていたが、相手DFの細かい動きを見極めつつ自ら右足を振り抜いた。

「ターンしたらどフリーで、自分の周りに相手が2人ぐらいいたけど、目の前は空いていた。エゼが右を走っていてフリーだったのもわかっていましたけど、相手がちょっとそっちに寄った気がしましたし、さっきはDFに当てたので、そこは狙っていこうと思って振り切りました」。しかし、渾身のシュートは惜しくも相手の守護神にセーブされ、「GKの正面にいってしまって全然コースをつけなかったので、ああいうところで余裕持って打てたら良かった。シュートの精度もこれから練習で上げていきたい」と悔やんだ。

 棚田は61分までプレーし、FWピエロス・ソティリウとの交代でピッチを後にした。今季最長のプレー時間だったが、「後半はチャンスも作れていたし、動きも良かったので、もうちょっとやれたらなとは思いました。でも、ピエロスも準備していたし、監督からもハーフタイムに『あと15〜20分、潰れるぐらい走ってこい』と言われていたので。いい流れだったし、ゴールを決めたかったので、悔しい思いはあります」と振り返った。

 チャンスで結果を出せずに悔しさを味わい、攻守におけるプレーの精度や強度の課題も浮き彫りになった。同時に、チームの得点力不足が続く中、要所でゴールへの貪欲な姿勢や持ち味も光り、試合後にはキャプテンのDF佐々木翔から自信になるような言葉をもらったという。リーグ戦で自分の現在地を把握できたことが次への大きな収穫となった。

「翔くんに終わった後に言われたんですけど、『いまはあそこで振るやつがいない』、『ギラついているよ』みたいな感じで言われて、そこは自分でも形が見えました。(シュートは)外したけど、ターンしてシュートまで行けるのはわかったし、そういう場面で余裕を持って、シュート精度も高められたらもっと怖い選手になれるとわかったので、いい収穫でした。自分の中ではまだまだやれる。もっと自分のプレーを出したかったっていう悔しい気持ちの方が強いけど、チャレンジしたことは良かったと思います」

 広島は試合終盤に失点を喫したが、後半アディショナルタイムにMF柏好文のズル賢いプレーからピエロスが同点ゴールを決めて、なんとか1−1の引き分けに持ち込んだ。勝ち点1は得たものの、これでリーグ戦は5試合未勝利と苦しい状況は続く。

 棚田は、「今日もチームは勝てなくて、リーグ戦で最近勝てていないけど、中断期間でしっかり休んでチームで立て直していきたい」と3週間後の次節を見据える。「自分がまた試合に出て、決めてチームを勝たせたい」。リーグ初先発で感じた悔しさと手応えを糧に次こそは結果を。棚田の闘志はますます燃えている。

取材・文=湊昂大

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