【マダニ感染症の恐怖】人のみならず猫や犬の死亡例も「ダニの中で血を吸うのはマダニだけ」

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2023年07月23日 16:10  週刊女性PRIME

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こんなにふくらむ!左が吸血したあとのマダニ

 マダニによる感染症で亡くなるケースが増えつつある。

 昨年5月には、広島県呉(くれ)市の80代の男性が死亡。今年に入ってからも、3月に熊本県上益城(かみましき)郡の78歳の女性が、5月に同じく熊本県葦北(あしきた)郡の45歳の男性が亡くなっている。

マダニの感染症が危ない!

 いずれのケースも、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」という感染症を発症するウイルスを保有するマダニにかまれたことが原因だという。暑くなりマダニが増える季節、不安にかられる人は多いかもしれない。

 SFTSは、'11年に中国で初めて報告されたウイルス性出血熱の一種で、国内では'13年に山口県で初確認された感染症だ。野山や畑、草むらなどで、SFTSウイルスを保有するマダニにかまれることで感染するといわれている。

 国立感染症研究所によると、'13年以降、西日本を中心に800人以上の患者が報告され、'21年は110人、'22年は116人と2年連続で最多を更新しているとのことだ。

「SFTSは発熱、嘔吐(おうと)、下痢、血小板減少といった症状を引き起こし、高齢者ほど重症化しやすい」

 と説明するのは、山口大学共同獣医学部の早坂大輔先生。

 SFTS感染状況の疫学調査などを行うスペシャリストだ。SFTSが静岡県や富山県、千葉県で確認されたこともあり、マダニによる感染症は増加するだけではなく、“東進”しているともいわれる。

 だが、早坂先生は「そうとは言い切れない」と話す。

「SFTS感染者が目立つようになって以降、過去に原因不明としながらもSFTSと似たような症状で亡くなった方の血液を再検査したところ、'05年に長崎県で亡くなった方が、実はSFTSであることがわかりました」(早坂先生、以下同)

 つまり、SFTSは昔から日本にも存在し、ここ数年でSFTSが認知され始めたことで、報告件数が増加している可能性が高いという。ただし、以下の点も付言する。

「マダニは、イノシシやシカなどの野生動物にくっつきます。近年、イノシシやシカが増えていますから、そうした動物が生息域を広げれば、SFTSウイルスを保有するマダニの分布も広がる。今後は、さまざまな地域でSFTSの報告が増える可能性もある」

 ダニにはさまざまな種類がいるが、早坂先生によればSFTSを保有するダニは、マダニだけだという。そのため、「ダニにかまれる=SFTSになる可能性があると思い込む必要はまったくない」と説明する。

「数あるダニの種類の中でも、基本的に血を吸うのはマダニだけです。また、マダニは成虫だと、吸血前で3〜8ミリメートル、吸血後は10〜20ミリメートル程度になる目視できるダニです」

 マダニから身を守るためには、肌を露出しない服装を心がけることが重要だ。

「登山やハイキング、農作業などをする場合は、シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れるように」と早坂先生が教えるように隙間を作らないこともポイント。

 マダニは茶褐色なので、目視しやすいように明るい色の服を選ぶと◎。虫よけ剤の中には、服の上から用いるタイプもあるため補助的な効果も期待できるという。

人間のみならずネコやイヌの死亡例も

 では、万が一かまれてしまった場合はどうすれば?

「マダニは口器を突き刺し、長時間吸血します。吸血中のマダニに気がついた場合、無理に引き抜こうとするとマダニの口器が皮膚内に残ってしまうこともある。

 ダニを除去する道具も売られていますが、できれば皮膚科で処置をしてもらったほうがきれいに取れると思います」

 かまれた直後は無症状でも、SFTSの場合、潜伏期間が6日〜2週間程度ある。発熱や倦怠(けんたい)感を覚えたら、すぐに受診するように。

「マダニは、SFTSのほかに『日本紅斑熱』や『ライム病』、『ダニ媒介性脳炎』を媒介するダニでもあります。体調が崩れたからといっても、SFTSとは限りません。

 また、日本紅斑熱やライム病は細菌なので、抗生物質で治ります。受診した病院で、きちんと診断してもらうことが大切です」

 一方、SFTSは、4類感染症に位置付けられるウイルスだ。

「有効な治療薬はありません。亡くなる方のほとんどは高齢者ですが、致死率は約30%といわれている」と早坂先生が話すように、油断できない感染症であることは間違いない。

「最近、アビガンという抗ウイルス薬が厚生労働省から希少疾病用医薬品として指定され、SFTSに効果がある医薬品として、現在、実用化に向けた開発が進んでいます」

 近い将来、SFTSの脅威がなくなる可能性があるというのは朗報だが、「まだSFTSには懸念すべきことがある」と早坂先生は続ける。

「マダニは、野山や草むらに生息すると先述しましたが、ネコやイヌにもくっつきます。'17年には、SFTSを発症したネコとイヌが報告され、動物園で飼育されていたチーターもSFTSで死んでいたことがわかりました」

 さらには、体調不良のネコからの咬傷(こうしょう)歴がある人がSFTSを発症し、死亡したという。

「こうした事例を受け、'18年から主に獣医学科のある大学や各県の衛生研究所、国立感染症研究所などが中心となって、全国で調査をすることになりました。その結果、多くのネコやイヌが感染していることがわかりました。

 特に、ネコに関しては640例以上の感染が確認されています('23年3月時点)。ネコの場合、感染すると致死率が約60%になります。

 また、感染動物の唾液や涙、尿にもウイルスが含まれていることがわかっており、獣医療関係者のSFTS感染例も確認されています」

 地域ネコなどにも多く感染例が見られるため、ペットとして飼っているネコであれば屋外に出さなければ、感染することはないだろう。しかし、昨今は、愛猫や愛犬と一緒に泊まることができる、自然豊かな宿泊施設も数多く存在する。

 そうした場所に、マダニが生息している可能性もあるだけに、飼い主は正しい知識を身につけておくことが必要だ。

「イヌであれば散歩から戻ってきた後は、マダニが付着していないか確認すること。市販のマダニ駆除薬などで対策を講じることも無駄ではありません。SFTSの厄介なところは、マダニだけに気をつけていても防げない点です。

 動物やペットを介して感染する可能性があること、そしてペット自身も感染してしまうと命の危険にさらされるということを覚えておいてください」

 これからの季節、キャンプやハイキングに出かける人も多いはず。マダニはもちろん、「ダニの一種であるツツガムシにも留意してほしい」と早坂先生はアドバイスを送る。

 つい先日も、青森県の80代の女性がツツガムシに刺されたことを原因とする「つつが虫病」で死亡した。

「夏場は暑いかもしれませんが、草地に入る際は、なるべく肌の露出を避けるようにしてください。刺された場合の対処ですが、つつが虫病は、先の日本紅斑熱やライム病と同様に細菌なので、抗生物質で治ります。

 体調がすぐれないと思ったら、すぐに受診するようにしてください」

 6月23日には、'22年に心筋炎で亡くなった茨城県の70代女性が、マダニが媒介する「オズウイルス」が原因であると発表された。オズウイルスの感染による症状が確認されたのは世界初だという。今年の夏は、マダニに注意が必要だ。

早坂大輔(はやさか・だいすけ)●山口大学共同獣医学部教授。野生動物を対象としたウイルス感染症の疫学調査、診断法の確立、治療薬・ワクチンの基礎研究などを行う

(取材・文/我妻弘崇)

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  • 全てのマダニがSFTSを持っているわけではなく(むしろかなり少数),マダニはSFTS以外の病原微生物を媒介することもあるので,この記事では全く情報不足。
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