連覇を目指す横浜FMの起爆剤に! マンC戦で貴重な得点を挙げた井上健太にかかる期待

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2023年07月24日 14:34  サッカーキング

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マンチェスター・C戦で得点を挙げた井上健太 [写真]=金田慎平
 マンチェスター・C相手に2点差を追いかける展開で、横浜F・マリノスのベンチは5人の交代選手を準備していた。驚いたのは、その構成だ。ヤン・マテウス、宮市亮、そして井上健太とウィングタイプの選手が3人も含まれていたのである。

 蓋を開けてみると、井上が1トップに抜てきされた。マリノス加入後の試合で中央に入るのが初めてなのはもちろん、「練習では何もやっていない」ぶっつけ本番の起用だった。

 世界最強とも言えるシティの守備陣に急造センターFWを当てたケヴィン・マスカット監督の起用は当たった。86分、DF松原健からの浮き球の縦パスに反応した井上が相手ディフェンスラインの背後に抜け出すと、処理を試みたシティのGKとDFが連携に手間取り、ボールが足もとにこぼれる。

「監督から『相手の最終ラインに対してスピードを活かすように』と入る前に言われていましたし、いいボールが(松原)健くんから来て、最後に自分は関与していないですけど、事故を信じて走ってよかったかなと思います」

 あとは落ち着いてシュートを流し込むだけ。持ち味のスピードでシティのディフェンスを慌てさせた井上は、1点差に迫る貴重なゴールを挙げた。さらに自らの25歳の誕生日も祝うバースデーゴールになった。「どこで出ても自分の持ち味を出そうと思っていたので、よかったです」とトリコロールの背番号17は安堵感を滲ませる。

 今月19日のセルティック戦でも途中出場から2アシストを記録し、シティ戦でも1得点。確かに最近は結果が出ている。しかし、マリノス加入1年目は決して順風満帆ではなかった。

 オフに右肩の手術を受けていた井上は、リハビリからシーズンがスタート。キャンプではほとんど全体練習に混ざれないまま開幕を迎えることになった。それでもJ1開幕戦の川崎フロンターレ戦でマリノスデビューを飾るなど、マスカット監督から大きな期待を寄せられていたのは間違いない。

 ただ、なかなか結果が出なかった。しだいにボールを持って一気に加速する縦への仕掛けへの警戒が強くなり、サイドでの突破すらままならない試合も。徐々に出場機会が減っていく中で、ケガにも見舞われた。

 そうこうしているうちに宮市亮が右ひざ前十字じん帯断裂のリハビリから復帰し、井上の立場はさらに厳しくなった。「最初は勢いでやっていたけど、いろいろ考え始めて、周りが見えるようになってきたら課題が大きくなって、もがいている感じ」と吐露したこともあった。

 カップ戦を中心に出番を得る中で、天皇杯では2試合連続ゴールを奪っている。だが、リーグ戦では4月中旬以降の13試合でベンチ入りは一度だけ。唯一チャンスを与えられたJ1第19節の湘南ベルマーレ戦でも大きなインパクトを残すことはできなかった。

 苦しい流れのまま入った中断期間。海外クラブとの2連戦で1得点2アシストと結果を残した井上は、ようやく目の前の壁を破れそうなところまできている。シティ戦でのセンターFW起用が希望の光になる可能性も十分にあるからだ。

 マスカット監督は「ただの親善試合にするつもりはない」と何度も強調しており、シティ戦前日会見でも「我々が最も重視するのは、中断期間が明けたJリーグの残り13試合にどうつなげていくかだ」と述べていた。

 実際に交代人数が無制限だったシティ戦で、マリノスは6人しか交代カードを切っていない。多くの選手にチャンスを与えたセルティック戦とは打って変わって、より公式戦を意識した選手起用で「勝ちにいった」のである。そのプランの中に井上が含まれていたということは、後半戦でセンターFW起用の可能性を検討されていると考えていいだろう。

 井上自身は「今日はたまたまよかっただけで、別にそこ(センターFW)でオプションになれたとは正直思っていない」というが、戦術的なバリエーションを作る意味でも適性は十分にある。

 ロールモデルになるのはセルティックに在籍し、2021年にマリノスの選手としてJ1得点王に輝いた前田大然だろう。当時のアンジェ・ポステコグルー監督は主に左ウィングで起用されていたが、コーチから当時の映像を見せられた井上は「マリノスの時にゴールを決めていた形は自分も参考にしていて、『そういうポイントに入っていけば絶対に決められるよ』とアドバイスをもらっていた」と明かす。

 その前田は日本代表として出場したカタールワールドカップや、セルティックの一員として出場したマリノス戦でセンターFWに入った。前線から猛スプリントでボールを追い回し、激しく相手にプレッシャーをかける。そして攻撃時は前線で起点になりつつ、クロスに対して果敢に飛び込んでいく。そうすることで古巣相手にハットトリックも達成した。

 同じく驚異的なスピードを武器とする井上にも、前田と似たような働きを期待できる。もともと参考にしていたのはマリノス時代の前田の左ウィングとしてのプレーだろうが、それはセンターFWのポジションに入っても応用できる。主戦のアンデルソン・ロペスや、現在出番を得ている植中朝日や杉本健勇らとは全く違った強みをマリノスの前線に加えてくれるはずだ。

 例えばウィングとしてサイドでドリブルを仕掛けるのではなく、中央からサイドに流れる形で相手の背後を狙って起点を作り、ディフェンスラインを押し下げる効果も期待できる。現在の戦術的な枠組みの中では、センターFWの方がスピードの活かし方の選択肢が増えるのではないだろうか。

 シティ相手にも「スピードで世界の選手に劣っているとは思わない」と自信を持ってプレーできた井上は、「臆することなくやれば絶対に通用すると思って試合に入っていました」と強い気持ちで立ち向かってゴールという結果を残した。センターFW起用にも「夏場は特にスピードは相手にとっても嫌だと思いますし、自分の武器が光ると思っている」と一定の手応えはある。

 ただ、まだ「自分の場合は与えられたポジションと時間で結果を残して評価を上げていくしかない立ち位置なので」とチーム内の序列を覆すには至っていない。小休止を挟んで迎える後半戦で、これまで培ってきたもの全てを解き放てれば、J1連覇を目指すマリノスにとって大きな起爆剤になるだろう。

「ようやく慣れてきて、自分の持ち味を出しやすくなってきている感覚がすごくあるので、ここからまた1つ、自分がチームのオプションになれるようにコツコツ積み重ねていきたいと思います。(ポジションに)こだわりはない。とにかく試合に出て、自分をアピールしていきたいと思います」

 そもそも井上はマリノスでプレーするチャンスも自らのパフォーマンスとアピールによってつかみ取った男だ。今度はJ1王者で重要な戦力になるチャンスを自らの成長によってつかみ、大きく羽ばたいていくことを期待したい。

取材・文=舩木渉

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