日本のバイク4社が水素エンジンを共同研究する理由は?

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2023年07月28日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハのバイクメーカー4社が水素エンジンの共同研究に向けて動き出した。クルマやトラックに比べて環境負荷の少ないバイクでこのような取り組みが始まるのはなぜ? どうして水素を選んだ? 現役ライダーの視点で考えてみた。


○なぜバイクに水素エンジンを載せる?



水素エンジンの共同研究で合意したのはカワサキモータース、スズキ、本田技研工業、ヤマハ発動機(五十音順)の国内バイクメーカー4社。5月11日、「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合」(HySE:Hydrogen Small mobility & Engine technology)の設立に向け、経済産業省の認可を得たと発表した。正組合員は上記4社だが、特別組合員として川崎重工業とトヨタ自動車も参画することになっている。


カーボンニュートラルを実現するには、単一のエネルギーだけで対応するのではなくマルチパスウェイでの取り組みが重要だ。それはモビリティであっても変わらない。その中で、次世代エネルギーとして注目されているのが水素で、燃料電池だけでなく、水素そのものを燃焼するエンジンの研究開発が進んでいる。



水素は燃焼しても排出するのは水なので、カーボンニュートラルに対しては有利だ。この点は燃料電池も同じであるが、燃料電池スタックや駆動用バッテリーなど、搭載する機器が多くなるので二輪車には向かない。


バッテリーとモーターで走る電動バイクは、原付などの小型の車種ではいくつか実用例があるものの、大型になると乗用車やトラック同様、満充電での航続距離や充電時間がネックになる。


しかも二輪車は、車体が小型軽量であるうえにエンジンがむき出しであり、エンジンの回り方や音などが魅力の多くを占めていることを忘れてはいけない。この魅力を未来に伝えていくために、水素エンジンを選んだという側面もあるだろう。

○大型トラックと大型二輪車の共通点



水素をモビリティに活用するうえで課題となるのはインフラ、つまり水素を乗り物に充填する水素ステーションだ。ガソリンスタンド並みの数があれば理想だが、現実はガソリンスタンドが約2.4万カ所、電気自動車(EV)の充電スタンドが約2万カ所であるのに対し、水素ステーションは全国で100カ所にも満たない。



この状況では、好きなときに好きな場所に行けるという乗用車的な使い方は難しい。実際にトヨタは、2023年6月の技術説明会で、今後の燃料電池自動車(FCV)市場の見通しとして「商用車が大半を占める」と予想している。


たしかに、商用車であれば走るルートや時間がある程度は決まっているので、水素ステーションも集約できる。大型の長距離トラックを想定すれば、高速道路の主要なインターチェンジやサービスエリアに設置していくような形になるだろう。



もしそうであれば、とりわけ大型の二輪車にとっても都合がいい。乗用車のように実用で使われることが少なく、ツーリングなどで使うのがメインで、高速道路を使って一気に目的地まで行き、そこで走りを楽しむという場面が多いからだ。



自分自身の経験からも、大型トラックと大型二輪車の水素充填の場所は、共通項が多いと思うのだ。



しかも、走りのフィーリングはガソリンエンジンに近いことが予想される。エンジンならではの回り方や音を楽しむことができそうだし、トランスミッションで変速しながら、その変化を楽しむこともできそうで、絶妙なソリューションだと思っている。



もっとも気になるのは、やはり安全性だ。



水素エンジンといえば、2023年3月にトヨタのレーシングカーが火災を起こしたことが記憶に新しい。ライダーがむき出しで、エンジンを抱えるように乗る二輪車では、こうした状況はあってはならないことだ。



それに、二輪車の動きは俊敏で、車体を傾ける動きもあるうえに、路面からのショックはダイレクトで、特有の動きに機器類が耐えられるかどうかも課題になる。

○バッテリーシェアとともに世界標準になるか



それでも個人的にこの動きを歓迎しているのは、二輪車は乗用車や商用車と違って、日本メーカーが完全に世界の主導権を握っているからだ。だからこそ、今回のような新しい提案をどんどんしてほしいし、これが世界標準になってほしいと思っている。



もうひとつ望ましいと感じているのは、国内4社が対等に手を結んでいるところだ。彼らは2022年3月、ENEOSホールディングスと共同で、電動二輪車用に共通仕様バッテリーのシェアリングサービスを提供する「Gachaco」を設立している。バイクに関する新しい取り組みで国内4社が力を合わせている現状は、日本のバイクファンとしても期待が持てる流れだ。



企業規模も得意分野も異なる4メーカーが上下関係なしに手を結ぶというのは、どのメーカーのマシンに乗っていても「ライダー」という共通項で仲良くなれるバイク好きの文化に通じる部分があるように感じる。



電動二輪車のバッテリーシェアリングと今回の共同研究をセットで考えれば、小型は電気、大型は水素というバイクの未来予想図が思い浮かぶ。どこで線引きをするかはさておき、それぞれのメリットをいかしているし、ユーザーにとってもわかりやすい役割分担だと思う。



しかも、今回の共同研究は「水素小型モビリティ・エンジン」と銘打っている通り、二輪車だけでなく軽四輪車・小型船舶・建設機械・ドローンなど、多くのカテゴリーに波及していく可能性がある。



Gachacoに使われるバッテリーパックは、すでに小松製作所(コマツ)の小型パワーショベルやインドの電動三輪タクシーなどにも投入されている。そのような動きが水素エンジンの世界でも広がるかもしれない。



筆者は、大型二輪車についてはイタリアのモトグッツィやイギリスのトライアンフを乗り継いできているが、それでも日本人ライダーのひとりとして、これからも世界をリードする4メーカーであり続けてほしいし、日本発のイノベーションが小型モビリティで起こることを期待している。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)
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