『ONE PIECE』エースとサンジにはなぜ”父親”が2人いる? 対照的に描かれる2つの家族像

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2023年08月07日 07:01  リアルサウンド

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photo:Zoltan Tasi(Unsplash)

『ONE PIECE』(ワンピース)において作家性が強く発揮されるのは、親と子どもの関係に焦点が当たる時だ。作者・尾田栄一郎は、血縁に縛られない疑似家族的な絆として親子を描こうとすることが多い。そしてほとんどの場合、その絆は血がつながった者同士の関係よりも強いものとして描かれる。


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  最も代表的なのは、“白ひげ”エドワード・ニューゲートとポートガス・D・エースの間柄だ。白ひげ海賊団の船長と二番隊隊長として、上司と部下という関係を築いていた2人だが、それだけにとどまらず「親父」「息子」と呼び合う仲だった。


  最初は白ひげの命を狙っていたエースだったが、次第にその器の広さに感化されることに。実の父親に対して憎しみに近い感情を抱いていたエースにとって、本当の父親と言うべき存在は白ひげの方だろう。そして白ひげもまた実の息子のようにエースを愛し、己の命を顧みずに彼を助けようとした。


  また、麦わらの一味には疑似家族の絆で育てられたメンバーが多い。元海軍だったベルメールは、戦場で負傷し、この世に希望を失いかけていたところで戦災孤児のナミとノジコを発見。2人を自身の生きがいとして、親子の関係を築く。彼女たちについて、ココヤシ村を守る駐在・ゲンゾウは「血よりも深い絆」と表現していた。


  ほかにもチョッパーとヒルルク、サンジとゼフなども、同作ならではの疑似家族の絆と言えそうだ。


  さらに冷酷、残虐なイメージが強いドンキホーテ・ドフラミンゴも例外ではない。ドフラミンゴは子どもの頃、実の親を手にかけた過去をもつが、自身と同じく悲惨な過去をもつ「ドンキホーテ海賊団」の幹部たちを家族同然に扱っていた。


  ところで尾田は任侠ドラマ好きで知られているが、任侠の世界で契りを交わした義兄弟は、まさに血よりも濃い絆で結ばれるのが定番だ。『ONE PIECE』で血縁を凌駕した関係が重要視されているのも、そうした趣味の影響なのかもしれない。


■ときに呪いとなる血縁上の親子関係


  『ONE PIECE』の疑似家族を振り返ると、ほとんどが“無償の愛”として描かれていることに気づく。それに対して血でつながった親子は、なぜか利害関係を強く反映した、冷酷なものとして描かれがちだ。


  この対称性を強く反映しているのが、サンジをめぐる家族描写だろう。サンジは幼い頃にゼフに命を救われ、一流の料理人として育て上げられたことで、彼を本当の父親として慕うようになった。どんなことが起きても女性に手を上げないというポリシーも、ゼフから叩き込まれた教えだ。


  一方で、実の父親であるヴィンスモーク・ジャッジとサンジの関係は険悪極まりない。ジャッジは子どもを戦争の道具として見ており、非人道的な手段で改造人間に仕立て上げている。そしてその期待にそぐわなかったサンジは“汚点”扱いし、絶縁に至った。


  また、一見すると愛情深く見えるビッグ・マム一家の関係も歪だ。ビッグ・マムは表面上、子どもたちを愛しているのだが、その一方で自身の地位のために子どもを政略結婚させたり、兵隊として使ったりと、冷酷な面を兼ね備えている。政略結婚を破談させた23女のローラに対しては「背徳娘」と罵っており、子どもを一種の所有物として捉えている節があった。


  そしてワノ国のカイドウは、実子であるヤマトを自分の思想に従う兵士にすることを狙っていた。幼い頃から幽閉という強制手段をとることも辞さなかったほどだが、それが仇となり、成長したヤマトから絶縁宣言されてしまう。


  血がつながっているからといって、その絆は絶対ではない。むしろ血縁に甘んじて、利己的な関係を築こうとすれば、子どもにとって呪いとして働く。逆に血縁がなくとも、愛があれば誰よりも深い絆が生まれる──。尾田が“家族”の両義性を強調することの裏には、そんなメッセージが込められているのかもしれない。


(文=キットゥン希美)


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