◆ 猛牛ストーリー【第91回:東晃平】
2023年シーズンにリーグ3連覇、2年連続の日本一を目指すオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを、「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第91回は、6年目の東晃平投手(23)です。支配下登録され2年目の今季、5試合に登板し7月末から2勝0敗、防御率2.11と安定した成績を残しています。
これまでスタミナ不足から連打を許すケースが多くありましたが、1日に6食摂って入団時から約20キロ増量したことで平均球速が上がり、変化球も生きてきました。自信を持って臨んだ今季でしたが、3月のWBC強化試合・日本戦(京セラドーム大阪)で2回7失点で降板したことが、投球を見直すきっかけになりました。
◆ 侍ジャパンとの戦いが投球を見直すきっかけに
「配球で行き詰まった感じで、何を投げればいいんだろうという場面が多かったですね。真っすぐを投げたら当てられそうで、ボールが先行して、結局、逃げているような投球になってしまって。力み過ぎたということもありました。調子自体は悪くなかったのですが、通用しなかったので、ここからもう一段、ちゃんと考えてやらないといけないと思いました」
3月7日のWBC強化試合・日本戦を、東はそう振り返った。
先発を託された大舞台。先頭のラーズ・ヌートバーを打ち取ったものの、2番・近藤健介に四球を与え、大谷翔平には追い込みながら内角低めの直球を中前に運ばれ、吉田正尚に先制打。二死後、村上宗隆に3ランを浴びこの回4失点。2回にも吉田の適時三塁打で3失点と、2回でマウンドを降りざるを得なかった。
ストレートに自信はあったが、変化球が全体的に悪く、通用したのはカーブだけ。改めてスライダーやフォークボール、カットボールの精度を高めて、自身の投球を見直すきっかけになった。
◆ 成長の跡を見せた一戦
WBC強化試合という大舞台では成長した姿を見せることが出来なかったが、着実にステップアップしてきた。
神戸弘陵学園高校から18年に育成ドラフト2位で入団したが、「体力がなく下半身があまり使えなくなってくると、ばらつきが出て修正が出来なかった」という。
スタミナと球速をつけるため、身体を大きくすることに取り組み、入団時には73キロと線が細かった身体が、1年目から一日6食を摂るなどして約20キロ増量。苦手な夏場対策には、アドバイスを求めた山岡泰輔から「しんどくなる前に、ウエートトレーニングの重量を少し上げて追い込んだ方が、疲れが出にくくなる」と助言を受けて実践。
その結果、平均球速がアップし変化球も生きるようになり、22年7月に宇田川優希とともに支配下登録された。
昨季は、4試合に登板し、プロ初勝利も挙げた。
「以前なら、2回くらいで140キロ台に球速が落ちていましたが、平均球速が上がれば、後半に打たれることも少なくなりました」という。
その言葉を証明したのが、8月20日の日本ハム戦(京セラD大阪)だった。
7回・96球、3安打・6奪三振・1死球で無失点。0−0の7回に153キロで万波中正を空振り三振に仕留めてみせた。
「真っすぐをしっかりと振ってくるし、カーブも打ってくる。コースを間違えたらだめ」と登板前日に警戒していた万波に対し死球は与えたものの、他の2打席は封じた。
さらにこの日はスライダーやカーブ、カットボールなどでゴロを打たせて、強化試合での教訓も生かした。
日本ハム・上原健太との投手戦となったこの試合、延長11回に中川圭太の内野安打でサヨナラ勝ち。7回でマウンドを降りた東に勝ち負けはつかなかったが、「先取点は絶対に与えないという気持ちで投げていました。相手の先発投手より先に降りるのは嫌でした。本当はもう少し投げたかった」と悔しさを口にするまでに、ローテーション投手の自覚を示した。
◆ 「あれ以上の打線というのは、もうありませんからね」
東を「猛牛ストーリー」の3回目(22年2月14日)に取りあげさせてもらった。
前年に育成投手の中で、最も支配下入りに近かった選手のその後を知るためだった。あれから約1年5カ月。終盤まで落ちない球速と増量による身体の大きさ以上に驚かされたのは、自信に満ちた受け答えだった。
「あのころは、取材を受ける機会も少なかったですし。前より自信がついたこともありますし、慣れもありますね」と東。優勝マジックが点灯して初めての試合となる27日のロッテ戦の先発を託された。
「あれ(WBC日本代表)以上の打線というのは、もうありませんからね」
臆することなくロッテ打線に立ち向かう。
取材・文=北野正樹(きたの・まさき)