ブックライブ、話題の漫画を生み出す背景に”ビッグデータ”の活用あり マーケティング部担当者が語るヒットを生む秘訣

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2023年09月07日 12:01  リアルサウンド

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  総合電子書籍ストア「ブックライブ」では、これまでに蓄積された広告のクリック率や、サイト内で人気のある作品傾向などのビッグデータを活用し、読者のニーズや市場のトレンドを反映した漫画の制作を独自に行っている。


  2018 年から本格始動したこのプロジェクトは一定の成功をおさめ、社内編集部や漫画家と作品を共同制作する体制を確立している。こうした手法をもとにこれまでに約50作品が制作され、テレビドラマ化した『花嫁未満エスケープ』を筆頭に、順調にヒット作が生まれているという。


  ビッグデータを活かして行う漫画制作とは、いかなるものなのか。ブックライブのマーケティング部の田中さんと坪井さんにお話を伺った。


プロジェクトが生まれた背景

――ブックライブさんのビッグデータを使った漫画制作は、2018年から立ち上がったプロジェクトだそうですね。


田中:マーケティングの発想で漫画を制作すること自体は他の出版社さんも行っているでしょうし、珍しくないと思います。ただ、電子書籍ストアのマーケティング部と編集部が一緒になって広告出稿を前提とした漫画を作るケースは、当時はまだ少なかったのではないかと思います。


――なぜ、社内で漫画を制作しようと考えたのでしょうか。


田中:2018年の電子コミック界では、SNSをテーマにした恋愛漫画が流行しました。そういった作品の広告がSNSに表示されるため親和性が高く、漫画としては新しくも、SNSを閲覧している読者にとっては馴染みのあるテーマだったわけです。しかし、そういった作品はまだ少なかったため、それなら社内で作ろうと思ったのがきっかけです。


――なるほど。最初に制作した漫画はなんでしょうか。


田中:最初に制作したのは『SNSに溺れる女たち』です。通常は制作から配信まで1年くらいかかるものを、3〜6か月でやり遂げました。当社にはマンガ編集部が複数ありまして、この作品については編集を外注することなく、一連の工程を社内で完結させることができたため、スピーディーに実現することができました。


漫画家にはどのように依頼する?


――実際に完成した漫画を配信してみて、反響はいかがだったのでしょうか。


田中:『SNSに溺れる女たち』はおかげさまで大ヒットしまして、当時、弊社のオリジナルコミックの中で一番の広告ヒットとなりました。成功を受けてこの漫画をシリーズ化し、30話以上続く長期連載になりました。


――凄いですね。漫画家さんの選定は、どのように行ったのでしょうか。


田中:現在では作品のイメージに合わせてお声がけをしていますが、最初は編集部でもともと交流があった漫画家さんにお願いしていました。その際は、広告出稿を前提とした制作であり、データをもとに作るので、修正をお願いする部分がいつもより多いとしっかり伝えています。注文が多くなっても柔軟に対応してもらえるようにと事前に確認しているので、トラブルは起きませんでしたし、読者のニーズに近く共感しやすい漫画を作ることができました。


――こだわりの強い漫画家さんですと、意見の反映が難しいとおっしゃる方もいますよね。


田中:そうですね。そこは目的によって漫画家さんのスタンスが違うと思います。広告を前提とした特殊なお取り組みなので、そこのニーズが合致する方もいらっしゃれば、ある程度自由に描きたいけれど広告のトレンドは抑えておきたい、という漫画家さんもいらっしゃいます。そのため、マーケティング部も作品ごとに関わり方を少しずつ変えて、なるべく漫画家さんの個性とトレンド反映が最大化できるようにしています。


ヒット作が続々登場、ドラマ化された作品も

――その後のヒット作には、どのようなものがありますか。


田中:『花嫁未満エスケープ』は、2022年に実写ドラマ化されました。もともと編集部で企画した内容に、マーケティング部が細かなアドバイスを行って制作しました。


坪井:具体的には、物語にいかにリアリティを持たせるかを追求しています。女性がパートナーに対してどんな不満を持っているのかを深掘りし、漫画の中に散りばめていきました。そのおかげで、多くの同年代の読者の共感を得ることができたと思います。


――深掘りは坪井さんが行ったのでしょうか。


坪井:既に作家さんと編集さんで企画の大枠ができていて、それがとてもよかったのでさらにWEB広告向きにブラッシュアップしようというスタートでした。この作品の担当編集者と私が同世代だったので、パートナーのどんなところにイラッとするのか(笑)といったことを、実体験も含めてたくさん話し合いました。さらに、WEB広告でならではの印象的な場面やセリフを切り取って見せることで、続きを読みたくなるように演出できたと思います


――具体的な演出はどのようなものでしょうか。


坪井:あくまで例ですけど、男女間で喧嘩をするシーンにおいては、ただの会話の繰り返しだけではあまり効果がありません。なので、リアリティある会話に加えて、皿を割るとか物を壊すシーンといった事件性がある演出を追加した方が、バナー広告では目に留まりやすいんですよ。


マーケティング部の意見はどこまで反映される?

――漫画の第一印象を決めるものと言えば、作品のタイトルです。ここにもマーケティングの要望は表れているのでしょうか。


坪井:タイトルはキャッチーで、かつ口に出してもらいやすいものになるように気を付けています。特に、難しい漢字の使用はNGですね。


田中:バナーを見たときにクリックできなくても、後で思い出して検索したら目当ての漫画に到達しやすいような、覚えやすさが重要ですね。


――そのあたりはネット特有の事情ですね。細かいフィードバックは、作中の絵やセリフにも及んでいるのでしょうか。


坪井:プロットの段階では、ヒット傾向に基づいたストーリーに近づけるため、シナリオの順番を入れ替えたりとか、ネームの段階では、顔のアップを増やしてほしいとか、キャラクターの表情を変えてほしいといった具合に、細かく指示を出します。下描きにペン入れが進んでからも、仕上げの一歩手前までセリフの調整をすることもあります。そうした変更を経て完成したシーンが実際にバナー広告に使われて、狙い通りの効果を生み出すという流れです。


――とはいえ、編集者や漫画家によってはストーリーを重視するため、そういった意見を取り込むことに躊躇する人もいそうですよね。


坪井:私たちは、実際に広告運用をしているチームであることが強みで、バナー広告の実績を元に得た莫大なデータがあるので、それをもとに編集さんにも納得してもらえるように丁寧に説明しています。基本的には「そういうデータがあるなら」と受け入れていただけるのですが、ご納得いただくには、漫画家さんと編集さんの信頼関係も欠かせないと思います。
また、一部の作品を除いて、私たちがお手伝いするのは物語の最初の部分がメインなので、広告をきっかけに売れたとしても、その後人気を維持できる作品は、やはり作家さん自身の創造性があってこそだと感じます。


――ビッグデータを活かしているとなると、思い浮かぶのがAIです。ストーリー制作の上で、今後、AIを使う計画などはありますか。


田中:漫画の制作については、具体的にAIを取り入れている部分は今のところありません。とはいえ、AIは大いに可能性があるツールですし、社内で制作に活用できるのかどうかの議論は進めています。また、広告出稿においてはさまざまな部分でAIを活用しており、そこで集められたビッグデータはストーリー制作にも反映されています。


ネット漫画には社会性が如実に表れる

――今、ブックライブで旬な漫画のジャンルはなんでしょうか。


坪井:最近のトレンドは、人間関係のトラブルを描いた漫画が人気になっています。例えば、身近な職場や友人とのトラブル、カップルの修羅場などを描いたものです。昨年の夏からコロナ禍の規制がゆるくなり、人付き合いが増えた社会の中で軋轢やストレスを感じることが多くなった影響もあるのかもしれません。読者の共感を得やすい内容だったり、もしくはトラブルを後味よく解決できるかどうかが重視される傾向にあるため、私たちも身近なネタを探したり、どういうときにすっきりできるかなどを日夜研究しています。


――すっきりしやすい漫画はどんなものなのでしょうか。


坪井:勧善懲悪をしっかり描いた漫画が多いです。ストレス要因となる人を作品内でわかりやすい悪者として演出することで、読者のフラストレーションの向き先がはっきりした作品は支持を集めやすいですね。


――長引いたコロナ騒動のフラストレーションを、漫画が救っているのかもしれませんね。ちなみにコロナ騒動が起こる前と後では、ブックライブさんで人気のジャンルも変化したのでしょうか。


坪井:コロナ禍が始まった時は平穏を求める傾向があったので、ほっこりした恋愛シリーズなどが流行っていました。トラブル系が多くなったのは、おっしゃる通りで人々が社会に対してストレスを感じているのかもしれませんね。漫画の売れ行きにも社会情勢が如実に表れていると思います。


――ちなみに、ブックライブさんで漫画が売れる時間帯はいつなのでしょうか。


田中:夜間の方が、売上が伸びます。一日の仕事が終わってゆっくりしているときや、寝る前に買っていただけています。漫画は余暇で読むものですし、夜にじっくり読みたいというニーズも高いのかなと思います。


ブックライブの強みを生かした漫画制作

――ビッグデータを使った漫画制作を他社が追従する動きはあるのでしょうか。


田中:同じような作り方をされるところが、近年増えている印象です。実際に売上に直結する例が多いと、認知されてきているのではないでしょうか。


――企画を進めるうえで、ブックライブさんならではの強みや他社との差別化を図れている部分はありますでしょうか。


田中:やはり、弊社内には編集部が複数あるのが強いですね。同じような取り組みをしている電子書籍ストアでも、編集を外注したり、出版社に頼んでいる例が多いです。そういったお取り組みは弊社でもやっておりますし、スタンダードではあるのですが、マーケティング部と編集部が直接手を組むことで、よりスピーディーで狙い通りの制作が実現できます。マーケティングで得た情報をすぐに編集部と共有し、作品に反映できるのです。


――そういった強みを生かして、今後はどんな漫画を制作していきたいと考えていますか。


坪井:漫画としての本来の面白さを、もっともっと追求していきたいですね。そして、愛されるキャラクターが出てくる作品を創りたい。バナー広告を活用して新規のお客さんを連れてくることももちろん重要なのですが、そこばかりを狙うと、どうしても作る作品の傾向が似てきてしまうという課題があります。今後も研究を進めて、読者の満足度を高め、ブックライブのファンになってもらえるきっかけになる作品作りに努力していきたいと思います。


 


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