ムクドリの大群に悩む自治体、抜本的な鳥害対策なく…ピークは秋、大事なのは「飛んでくる前」と専門家

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2023年09月20日 10:01  弁護士ドットコム

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夕方に鳴く鳥の大群を見たことはないだろうか。駅前のケヤキなどに群れでねぐら(夜に寝る場所)を作るムクドリだ。


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ムクドリの鳴き声や糞害に悩まされている自治体は多い。弁護士ドットコムニュースが複数の自治体に話を聞いてみると、光や特殊波動などさまざまな機器を使って対策していた。ただ、「抜本的な対策にはなっていない」と頭を悩ませる担当者も多い。



長年ムクドリを研究する専門家は「ねぐら問題はムクドリだけのせいにされているけれど、ムクドリの立場から言うと、半分以上は人間自身の問題なんです」とし、ムクドリがやってくる夏ごろより前の対策が不可欠だと強調する。現場をたずねた。





●新兵器のライトで一旦は飛び立つものの…

8月末の某日夜、京王線・聖蹟桜ヶ丘駅(多摩市)では、駅前のムクドリが集まる木に特殊なライトを当てる市職員の姿があった。



ライトは市松模様の光を高速に反転照射するもので、今年から導入した「新兵器」だ。人の目には刺激が少ないものの、鳥獣には刺激的な光になっているという。





「先週からやり始めたばかりで効果が出るかはわかりません。できれば川のほうに行ってもらいたいんですが…」。ライトを照射した途端に、ムクドリの大群が飛び立っていった。しかし、しばらくするとまた同じ木に舞い戻ってくる。



市職員によると、聖蹟桜ヶ丘駅近くでは、20〜30年前からムクドリがみられるようになった。例年夏ごろから飛来し、夕方になると駅周辺の広場の街路樹に何千羽と集まる。



市職員は「外来種ではないので、捕まえて駆除はできない。景観上、街路樹はあったほうが良いし、音が出る装置も設置したが、抜本的な対策にはならなかった」とこぼす。





●数が減っている自治体も

対策が功を奏している自治体もある。



江戸川区では、東京メトロ東西線の葛西駅と西葛西駅の駅前にあるケヤキの木を中心にムクドリが確認されている。駅前から大きな集団を分散させることで、駆除ではなく「ムクドリとの共生」をはかってきた。



区の担当者によると、ムクドリによる生活環境被害は、今から4〜5年ほど前がピークだった。当時は駅前のクスノキに5千羽ほど集まり、フンで駅前の広場は真っ白に。「夜眠れないほどうるさい」という苦情も寄せられた。



2015年3月からは、特殊波動という不規則なパルス音を発生させる装置を設置した。さらに、ムクドリの集団が確認された場合、業者に依頼し、専門の機械で音を出して追い払ってもらっている。



その効果は抜群で、日ごとにムクドリの数が減り、4日間ほど連続で音を出すとほぼいなくなる。ただ、1カ月後にはまた襲来するため、結局、2022年は6月から12月にかけて、4〜5回ほど業者に依頼したという。



2023年は駅前にはきておらず、駅から少し離れた住宅街で小さな集団を作っているのが確認されている。





千葉県柏市では、柏の葉キャンパス駅西口の街路樹にムクドリがやってくる。音を鳴らしたり、鷹を飛ばすなどして追い払いをしたこともあるが、すぐに戻ってきてしまった。



市の担当者によると、一番効果があったのは、歩道部分の街路樹の剪定だった。ムクドリはタクシープールの真ん中にある街路樹に集めて、歩行者への被害がないようにしている。



●駅前のムクドリ、80年代から問題に

都市鳥研究会の副代表で、40年以上ムクドリを研究している越川重治さんによると、駅前につくられるムクドリのねぐらが問題になったのは1980年代からだ。



戦後、関東の駅前にケヤキがたくさん植えられた。それが80年代ごろには大きな木となり、かつて郊外の防風林にねぐらを作っていたムクドリたちは、防風林がなくなるにつれて駅前に進出してきた。





全国の道路緑化樹木のうち、ケヤキは約7%と比率としては多くない(国土技術制作総合研究所、平成29年)。しかし、ムクドリが好んで集まるのは、圧倒的にケヤキだという。



「ムクドリは外敵から身を守るために、集団で夜寝るんです。ケヤキはほうき状に枝が細かく分かれていく木で、枝に止まっていれば外敵が来たときにすぐに振動が伝わります」



なぜ、駅前のケヤキに集まるのか。越川さんは人や車の多さ、明るさなどを調べたが、決定的な要因は見つからなかった。ただ、ビルの壁に接しているケヤキを好むという共通点があった。



「ムクドリにとって外敵であるハヤブサという鳥がいます。ハヤブサは上空から急降下して獲物を捉えるので、開けた場所でないと手出しができません。現時点で数値的な裏付けはできていないのですが、ハヤブサが襲ってこないという環境がムクドリにとって安心材料になっているのではないでしょうか」



●ねぐらを作る前の対策が重要

ムクドリのねぐらは6月過ぎごろから増えていき、秋に向けて9月から10月がピークとなる。11月ごろになるとケヤキの葉っぱが枯れて落ちていくため、人が追い出しをしなければムクドリは自然と郊外の離れた竹林に分散していく。越川さんによると、ねぐらを作る前の対策が重要だという。



「ムクドリが最初に来るのはケヤキの木です。被害の大きい場所を選択し、早い時期に木を剪定して、ネットがけをしておくことが重要です。対策が後手になるほど、個体数は増え、移動しにくくなるのです」



無理に追い出されたムクドリが行き場所を失い、電線にとまることもある。ムクドリにとっては居心地の悪い場所だが、1〜2週間もいると居着いてしまい、安全な場所だと知っている個体がいると毎年のように電線にとまるようになるという。





越川さんは「すべてのムクドリを追い出すのではなくて、最初から共存するという意識で、ここはムクドリが来てもいいだろうというところを決めないといけない。これを一つの自治体だけでなく、広域的にやる必要がある」とアドバイスする。



「光や特殊波動は、ムクドリに来てもらっては困るという特定の場所でやるのは良いと思います。ただ、最初は効果があっても、数週間すれば慣れてしまいますし、他に居場所がないので戻ってきてしまいます。ムクドリ全体を追い出すことはできません。被害の少ない場所を残しておくというのが大事です」



越川さんは「ムクドリ=悪」という捉え方に疑問を呈する。ムクドリは木の実をたくさん食べて種子を散布する。農業害虫にあたるような芋虫もたくさん食べるため、ムクドリがいなくなれば、街路樹はみんな芋虫に食べられてしまい、農業にも悪影響が出るという。



ムクドリも生態系の中の大切な一員であることを忘れてはいけない。


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