焼けた肉を盤上で切ってそのまま口の中へ バルミューダのホットプレートが目指した“体験”、開発者に聞く

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2023年09月24日 07:11  ITmedia NEWS

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バルミューダの「BALMUDA The Plate Pro」(実勢価格4万2900円)。別売でたこ焼きプレートやフチ付きのプレートも用意。直営店、オンラインストアでは専用収納ケース付きのセットも用意する(実勢価格5万2800円)

 家電メーカーのバルミューダは9月14日、新ジャンルへの参入製品として、ホットプレート「BALMUDA The Plate Pro(K10A-BK)」を発表した。同日より販売予約を開始し、10月12日に発売予定だ。



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 バルミューダは、DCモーターを採用した扇風機「GreenFan」や、正確な温度制御とスチームでこんがり焼くオーブントースター「BALMUDA The Toaster」で、高い人気を集めた新興家電メーカー。しかし2021年に参入したスマートフォン事業は23年で撤退するなど、迷走も見えた。



 この「BALMUDA The Plate Pro」は、本業ともいえる調理家電ジャンルでの起死回生を図った一品なのだ。



 そこで、開発の経緯や、こだわりの機能、目指す姿について、開発を担当したイノベーション本部 プロダクトデザイン部の比嘉一真さんとエンジニアリング本部 プロジェクトマネジメント部の岸本亮さんに話を聞いた。



●プロジェクトは5年前に始動するも、一度は断念



 「BALMUDA The Plate Pro」は6.6mm厚のクラッドプレート(性質の異なる複数金属を張り合わせた鋼材)を採用したホットプレートだ。最大の特徴は表面にあえてコーティングを施していないこと。一般的なホットプレートは食材の焦げ付きを防ぐためにフッ素加工などのコーティングが施されている。しかし本機にはないため、鉄板焼き店のように金属のヘラや包丁がプレートの上で使えるのだ。



 またトースターやコーヒーメーカーの製造で培った正確な温度制御機構も搭載。マイコン制御のサーモスタットを採用することで、プレート表面の温度差を±5℃の範囲に留めているという。この2つの特徴により、従来の電気ホットプレートとは一線を画す製品になっている。しかし、この形になるまで紆余曲折があったそうだ。



 「もともとは、キッチン商品のラインアップを増やしたいと考えていた19年頃、ホットプレートの企画もありました。実際にいろいろなホットプレートを買って試したり、七輪と比較したり、いろいろなことを試していました。ただ家庭用電源の1500Wでは火力が足りず、考えているような製品ができないと、一度は断念しました」(比嘉さん)



 そして21年、同社に料理人である岡嶋伸忠シェフが入社し、再びキッチン製品の企画が動き出す。岡嶋シェフのアイデアを元に、少人数で再びホットプレートの製品化を検討し始めたという。このときはまだ正式なプロジェクトではなく、業務の空き時間や昼休みなどを利用してわずか数人で取り組んでいたそうだ。



 「岡嶋シェフの提案が極厚のプレートでした。以前の断念したときは、単なるデザイン重視の製品を作っても仕方がないと思っていたのですが、極厚のプレートによる焼き上がりは美味しい。これなら、と企画が進んで行きました」(比嘉さん)



●バルミューダらしい“体験”ができるホットプレート



 ホットプレートを開発するにあたって大切にしたのが“体験”だ。もともとホットプレートは家族が集まって、囲んで使うイメージがある。さらにそこにさらなる美味しさやバルミューダらしい“体験”がほしいと考えた。



 そして、社内有志でトライアンドエラーを繰り返し、仮のデザインを起こしてモックアップをつくり、寺尾社長にプレゼンテーションしたという。



 「模索している段階から寺尾にも見られていて、『なんか面白そうなことやっているな』と言われていました。そこで寺尾にも美味しく焼ける極厚プレートを試してもらったんです。するとそこで、寺尾の“体験”の話が出てきました」(比嘉さん)



 コロナ禍のステイホームの間、大好きな寿司屋に行けなかった寺尾氏はYou Tubeで寿司の握り方を学び、自宅で家族を相手に寿司を握っていたそうだ。その家族に料理を振る舞うという体験が、ホットプレートと結びついた。このとき、既存のみんなで囲むホットプレートではなく、“お父さんがシェフになって振る舞うような体験ができる”というスタイルを提案すると決まった。



 「コアバリューとして最初に決まったのは、週末のお父さんがヒーローになれるということでした。そのイメージが固まることで、フチのないデザインなどが固まっていきました」(比嘉さん)



●「極厚」プレートの開発で難航



 目指したのは、ホットプレートというよりは家庭で使える鉄板焼きだ。そうなると次に求められるのが美味しさと、家庭で使えることの両立だ。分厚いプレートを採用すると蓄熱性が増し、食材が美味しく焼ける。しかしその反面、重くなるため使い勝手は悪くなり、さらに予熱に時間がかかってしまう。



 「プレートの材質、厚みの設定には一番苦労しました。クラッド鋼板に絞ったあともアルミとステンレスで、それぞれ異なる厚みのモデルを何種類もつくって肉とプレートの温度を計り、試食しながら理想のプロファイルになるプレートを探しました」(岸本さん)



 業務用の21mmのインゴット(地金)からテストをスタート。鉄やアルミ、銅などの素材、厚さ、表面加工などを変え、合わせると50種類以上のプレートを実際につくって試したと岸本氏は語る。そうして決定したのが、ステンレス、アルミ、ステンレスの3層構造で、6.6mm厚のクラッドプレートだ。200℃までの予熱にかかる時間は約13分で、一般的なホットプレートと比べても大差はない。それでいてしっかりと熱を蓄え、加熱できる。プレート単体の重量は2.8kgなので、女性でも持てる。



 表面は油の馴染みなどを重視し、粗めのバイブレーション研磨(ランダムに円を描きながら研磨する方法)を採用した。表面コーティングがないので包丁を使ったり、金だわしで磨くこともできる。まさに鉄板焼き店の鉄板のように使えるのだ。



●有名ステーキ店のような仕上がりを家庭で



 実際に「BALMUDA The Plate Pro」でさまざまな食材を焼いてみた。設定温度は200℃。ホットプレートの温度としては低いが、ヒーター加熱時の温度制御マイコンで行っているため、温度の上下がなく、常に200℃で焼ける。さらにこの温度なら油煙が出ない点もメリットだ。



 油をひいた後、肉を載せると香ばしく焼ける音が響く。このとき、あふれ出るドリップ(肉汁や脂などの水分)が少ないことに驚く。肉を置くとすぐにスイッチ横のLEDが点滅し、すばやく温度調整を行っているのが分かる。常温の肉を置いたことで、プレート表面の温度が下がったことを検知し、加熱しているというわけだ。これはマイコン式だからできる早さだ。



 そしてドリップが出ないため、肉の表面がカリカリに焼ける。煮たようにはならないのだ。両面がカリカリに焼けたステーキはその場でカット。よく焼いた方が良ければ、そのまま断面も焼ける。もちろんそのまま口に運んでもいい。いちいちお皿にとってカットする手間がない分、より熱々で食べられる。それはまさに鉄板焼き店やステーキハウスの体験だった。



 ホットプレートとみると、4万円を超す価格は高価だ。しかし、これまで家庭では難しかった鉄板焼きやステーキハウスの“体験”ができる家電、と考えれば決して高くはない。この新しい美味しさの発見と価値観の提案は、バルミューダがかつてトースターで起こした革命に近い。少なくとも「BALMUDA The Plate Pro」は、それに近い体験ができた。



(コヤマタカヒロ)


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