そろそろ進化にも限界? 変わりゆく「アクションカメラ」の今、各社の最新モデルからひもとく

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2023年09月26日 19:32  ITmedia NEWS

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アクションカメラの2023年モデルが揃った

 アクションカメラというジャンルを切り開いたGoProが登場したのは、2010年のNABことだった。車に詳しいカメラマンが、希少なレーシングカーが展示してあるというので一緒に見に行ったのだが、モノはといえばちゃっちいMP4カメラで拍子抜けしたものだった。



【画像はこちら】あまり進化せず? GoProの最新モデル「HERO 12 Black」(他15枚)



 写真からも分かるように、当時は3D映像の黎明期で、横に並べれば3Dになるとアピールしていた。だがそれよりもカメラ1台たったの300ドルで、「映像さえ無事ならカメラは使い捨て」という明確なコンセプトが業界に衝撃を与えた。その後価格の安さから、ストリートスポーツプレイヤーがメインのユーザーとなっていった。



 小型で頑丈と言うことなら日本のお家芸ということで、数年後に国内メーカーも参入したが、現在は全て撤退。現在の主力はGoPro、DJI、Insta360の3社で、例年夏から秋にかけて新モデルが登場している。この9月にGoProの新モデルHero12が登場し、2023年も新作が出そろったところだ。そこでアクションカメラのここ数年の歴史を振り返りつつ、トレンドを分析してみたい。



●アクションカメラでもトップを狙うDJI



 DJIは言わずと知れたドローンのトップブランドだが、小型カメラやジンバルなど、地上で使う製品も多い。小型カメラとジンバルを組み合わせたDJI Pocketシリーズは、取材に便利だとして購入したライターも多かった。ただアクションカメラへの参入は意外に遅く、2019年に「DJI Osmo Action」で参入を果たした。



 初号機はGoProと同じような形状で、独自のマウントアダプターを介してGoProマウントが利用できる。正面にもディスプレイを設けて、自撮りしたときにアングルが確認できるのがポイントだった。価格もGoProより1万円安く設定され、初号機としてはまずまずのスタートだった。



 2021年に登場した「DJI Action 2」は、カメラ部とバッテリー/ディスプレイ部が分離できる、ユニークなカメラとして登場した。カメラユニットだけでも動作し、GoProよりも小さいカメラとして使う事ができる。合体すると縦型のカメラとなるのも新しかった。



 2022年発売の「DJI Osmo Action 3」は、初代Osmo Actionと同型ではあるが、初代とは全くの別設計となった。前面ディスプレイでもタッチ操作が可能になり、マイクも増え、縦撮りにも対応するなど、考えられる機能を全て詰め込んだ。



 そして23年の新作「DJI Osmo Action 4」は、3を継承しつつ、センサーを大型化した高画質モデルとして登場した。センサーサイズが違えば当然レンズ設計も異なるが、画角などは同スペックとなっている。高画質化は重要なポイントではあるが、逆に言えばそれ意外にポイントがなく、これ以上やれることが見つからなかった感がある。



 高画質化のニーズがあったのは、もはやアクションカメラは映像ブレブレの激しいアクションを撮るものではなくなってきたということでもある。小型・広角を生かした定点観測であったりVlog撮影であったり、スマホ撮影でできない部分を補助するセカンドカメラという立ち位置が見えてくる。3で縦撮りを大きくフィーチャーしたのも、ターゲットはTikTokのようなスマホプラットフォームにフォーカスする狙いがある。



 製品名の中で唯一Action 2だけ「Osmo」が付いていないのは、これだけかなり特殊なカメラという位置付なのだろう。1、3、4がスタンダードモデルなので5も同様になる可能性も高いが、次は2のようなユニークなモデルを期待したいところだ。



●正解に近づきつつあるInsta360



 Insta360は2015年創業で、2016年にiPhoneに装着する360度カメラからスタートした。その後360度カメラはスタンドアロン型へと移行、業務モデルも展開しており、プロユーザーも抱えるメーカーだ。



 Insta360が得意としたのが、小型のウェアラブルカメラである。2019年発売の「Insta360 Go」は親指大の小型カメラで、帽子のツバや胸に装着することができた。アクションカメラというよりは、街撮りカメラである。



 本格的にアクションカメラに参入したのは、2020年の「Insta360 One R」からである。カメラ部、プロセッサ部、バッテリー部の3つが合体して1つのカメラとなるコンセプトで、カメラ部を別モジュールに変更すれば、360度撮影もできた。またいち早く1インチセンサーを搭載したカメラモジュールも導入し、高画質化にも対応した。



 このカメラがユニークだったのは、自撮り用にカメラを前後反対向きに取り付けられるところである。すでにVlogブームがスタートしており、自撮りにも最適化した作りで完成度も高かった。この分離合体システムは、翌年発売されたDJI Action 2にも影響を与えたものと思われる。



 その後2022年にはプロセッサやカメラモジュールを一新した「Insta360 ONE RS」へとリニューアル、さらに新360度カメラモジュールを縦方向に組み合わせる「Insta360 ONE RS 1インチ360エディション」へと発展した。スダンドアロンの360°カメラとアクションカメラが合流したわけである。



 一方ウェアラブルカメラのGoシリーズは、2021年に「Insta360 Go 2」が登場している。充電ケースがそのまま撮影スタンドやコントローラーになるなど、面白い仕掛けだったが、撮影用のモニターがなく、いちいちスマホと接続しないと何が写ってるのか分からない。スタンドに固定するということは、安定した映像かつアングルも固定されるという事なので、モニターがないと話にならない。体に取り付けて、何が撮れたかお楽しみ、とは話が違うわけである。



 正直仕様と利用のシナリオがズレていると感じたものだが、23年発売の「Insta360 Go3」では見事に欠点をクリアしてきた。カメラが独立の小型ユニットであるところは同じだが、ケース側をGoProスタイルにして、ディスプレイも付けた。さらにディスプレイをフリップ型にして自撮りにも対応した。ウェアラブルカメラを新たなアクションカメラに発展させたわけである。



 カメラとケース側は常時ワイヤレス接続されており、くっつけても離しても常時カメラアングルがディスプレイに表示される。若干遅延はあるが、どこに取り付けてもモニタリングできるので、格段に使い勝手が向上した。



●自分で自分を縛るGoPro



 GoProは代を数えて今年で12代目となる「GoPro Hero12 Black」を9月に発表した。一時期はドローンに手を出して文字通り大やけどしたが、本業に立ち返ってシンプルなビジネスモデルを展開している。



 GoProも毎年機能的には進化しているが、外形や端子、ボタン位置はほぼ変わっていない。それというのも、アクセサリーとしてケースやモジュール類がたくさんあり、外寸を変えるとそれらが使えなくなってしまうため、おいそれと変えられないという事情がある。傍流としてHero 11 MiniやMaxといった別サイズのカメラもあるが、今回のHero 12は、Hero 9からずっとボディーが変わっていない。



 そもそもブラックモデルしかないのにいちいち製品名にBlackが付くのは、Hero7あたりまでは機能別にカラーバリエーションがあったからである。こうした「変えられなさ」はGoProの弱点にもなり得る。



 ただ今回は、サイズはそのままに本体底部に三脚用ネジ穴を追加した。これまではいわゆる「GoProマウント」のみで、そのためにアクセサリーなどを展開し、他社カメラもそれと互換性を持たせる流れだったが、本家GoProがマウントを見直し始めた格好だ。



 これの意味するところは、カメラ固定に一般の三脚を使いたいというニーズが高まったという事だろう。アクションに耐えられる頑強さと、正面からの衝撃を逃がしてカメラがもげないようにする構造がGoProマウントのウリだが、普通のカメラ三脚類に取り付ける場合にはマウントにマウントを重ねる必要があり、ゴチャゴチャしてしまっていた。アクションは撮らないからもう少しシンプルにしてくれという声も無視できなくなったという事だろう。



 Hero12の目玉は、バッテリーライフの向上だ。過去モデルと同一バッテリーを使いながら、電力設計の見直しにより撮影時間を約2倍に延長した。ちょこちょこ小電力化を積み上げても、こんな小さなシステムではそう簡単に2倍にはならないので、これまで電力をバカ食いしていた部分があったのだろう。



 加えてAirPodsを接続してマイク代わりに使える機能も搭載したが、これはInsta360 ONE R以降ですでに実装済みの機能だ。ワイド撮影ができるモジュラーレンズも登場したが、これも過去に同様のモジュラーレンズを出しており、それをブラッシュアップした格好で、新機能というわけではない。うわさでは1インチセンサーを積むのではないかといわれていたが、これは単なるうわさだったようだ。



●変質する「アクション」のシナリオ



 小型で超広角レンズを備え、ド派手なスポーツシーンが撮影できることから始まったアクションカメラだが、スポーツカメラとしての進化もそろそろ限界に達しつつあり、だんだんやることがなくなってきているように感じられる。今年のGoPro Hero 12とDJI Action4を見る限り、明らかに進化の袋小路へ迷い込んでいる。



 もともと日本を含めたアジア圏では、激しいストリート系スポーツが育ちにくい。加えてバイクで岩山に登ったりパラシュート背負って飛び降りたりといったやんちゃ人口も、欧米に比べれば微々たるものだ。GoProは欧米を中心にこうしたスポーツの大会をスポンサードするなど振興に注力し、強固な支持基盤を築いた。スポーツ分野で他社が勝てるわけがない。



 一方GoProの後追いではなく、もっと落ち着いた「街撮りオモシロカメラ」で伸ばしてきたのが、Insta360だ。もともと360度カメラは、海や山には向かない。上半分が空で下半分が岩では、面白くないからである。むしろ街撮りのほうが面白い。同社アクションカメラのサンプル映像も、街撮りの傾向が強い。進化の袋小路を突破できるのは、Insta360ではないだろうか。



 アクションカメラではないが、Insta360は22年、AI認識可能な3軸ジンバルのUSBカメラ、「Insta360 Link」を登場させた。明らかに室内撮影を前提としたもので、「小型だから外に持ち出す」という概念をひっくり返した。



 片や今年、スマホジンバルで知られる中国のFeiyu Techが、小型ジンバルカメラでヘッド部とモニター部が分離する「Feiyu Pocket 3」をリリースした。ジンバル+ワイヤレスモニタリングという方向性である。



 水平維持だけでなく、人物フォローのためのジンバルという使い方とともに、カメラが壊れるような激しいことはしないという撮影用途が拡大した結果であろう。



 もともとアクションカメラには自撮りの傾向があった。「アクションするオレカッコイイ」が撮りたかったわけだ。これが10年たち、Vlogが一定の市民権を得た今、スポーツシーン以外の「自分アピールカメラ」として、アクションカメラが使われ始めている。カメラユニットが独立し、手元でモニタリングできるという流れも、その傾向を後押ししている。



 今後のトレンドは、「リモートモニタリング」がポイントになるだろう。今年GoProとDJIはそこに乗り遅れたわけだが、DJIはドローン技術で本来最も得意なところのはずだ。現在DJI Action2は専用アクセサリーを含め大幅なディスカウントが始まっており、別設計の分離型カメラが出る可能性が高まっている。次はやはり、リモートモニタリングへ行くのかもしれない。



 アクションカメラは、この技術をベースにこれまでにない取り付け位置や面白いアングルをサポートする、別用途のカメラへの進化が求められてくるのではないかと思う。4Kハイフレームレートでガンガン、というより、24Pや30Pでシネマトーンへという流れも出てくるのではないだろうか。


このニュースに関するつぶやき

  • アクションカメラには自撮りの傾向があった>鏡見ても「老眼中高年ヲッサン」居るだけなので自撮りとか想像もした事無かったから、この手のカメラには食指が動かなかった^^
    • イイネ!3
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