何かに追いかけられたり、どこかから落ちたりする夢…大人になると減るのはなぜ?【脳科学者が解説】

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2023年09月30日 20:51  All About

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子どもの頃は、何かに追いかけられたりどこか高い所から落ちたりするような夢をよく見るものです。

Q. 子どもの頃に見ていた怖い夢を見なくなりました。なぜでしょうか?

子どもの頃には漠然とした怖い夢をよく見るものです。皆さんも何か怖いものに追いかけられたり、どこか高い所から落ちたりする夢を、小さな頃に見たことがあるのではないでしょうか?

しかし大人になってからもこうした怖い夢をよく見るという話は、通常あまり聞かないものです。その理由を解説します。

Q. 「子どもの頃は、何かに追いかけられる夢や、どこか高い所から落ちる夢をよく見ました。ふと気づいたのですが、大人になってからはそういった怖い夢を見ていません。子どもの頃の豊かな想像力がなくなってしまったようで、少しさみしい気もします。なぜ怖い夢を見なくなるのでしょうか?」

A. 眠っているときの夢は、脳の発達と現実世界で抱える問題によって変わるからです。

現実離れしている漠然とした怖い夢を見なくなるのは、子どもの頃よりも想像力が衰えたからではありません。夢の見方は、年齢に応じた脳の発達段階と、個人ごとに異なる現実世界での出来事や問題などを反映して変わるからです。

なぜ私たちは睡眠中に夢を見るのか、そもそも夢とは何なのかは、実はまだ十分に解明されていません。しかしこれまでの脳研究から、「レム睡眠」の最中に夢を見ているのは確かなようです。

レム睡眠とは、体は完全に休息しているものの、大脳の活動が高まっている睡眠の状態です。1回あたり数分〜数十分の長さのものが一晩の間に4〜5回くらい繰り返し出現します。

まぶたは閉じていながらも眼球が急速にぐらぐらと動いているのが特徴なので、「Rapid Eye Movement」の頭文字をとって「REM(レム)睡眠」と呼ばれているわけですが、眼球が動いているということはきっと何かを見ようとしているに違いありません。

見るといっても、目を見開いて外界の物を識別するのとは違い、脳の中で内的に沸き起こるイメージを「見ているつもり」になっており、それに伴って眼球が動くのでしょう。そして、その脳の中で生じるイメージこそ「夢」だと思われます。

また、夢は、記憶との関係が深く、とくに自分が体験した出来事に関する記憶情報を整理する過程に相当するものなのではないかと考えられています。その証拠に、夢に出てくる内容は、どこかで体験したことや、考えていたことが多いです。

レム睡眠中には、脳の中で「脳幹網様体系」と呼ばれる領域が活性化して、大脳辺縁系の海馬や大脳新皮質の側頭葉などに保存された記憶情報が引き出されます。それらが組み合わされたものが「夢」です。

そのため、夢の内容にはある程度のストーリー性があるものの、子どもの頃に出会った友人と大人になって知り合った友人が同時にでてきたり、何の脈絡もなく場面が切り替わったりと奇怪な内容だったりします。

つまり、夢とは、レム睡眠中に、自分が体験した記憶を素材として脳の内部で生成されるイメージなのです。

さらに、夢で見る内容、つまりレム睡眠時に感じたり考えていることは、目覚めているときに感じたり考えたりしたことと連動しています。夢に使われる記憶情報は、その人にとって、大事なことだったり、気がかりなことだったりします。

夢を見たことが自覚できるようになるのは、3〜4歳くらいからのようです。それより幼いときは、「幼児期健忘」といって、脳の中で記憶のしくみがまだ整っていないため見聞きした事柄が頭に残りません。

夢も同じです。見たという感覚があったとしても夢の内容を説明することはできません。その代わり、3〜4歳を過ぎると、夢を見たことが自覚できるようになり、とくに8歳くらいまでの子どもは、週1回くらいの頻度で、眠りを妨げるような怖い夢を見ます。

しかし、その頻度は、成長するにしたがってだんだんと減り、成人ではよくて年1〜2回程度になるのが一般的です。

子どもの時は、自分の能力に限界があり、何かに直面したときにうまく対処できないという不安や恐怖で心がいっぱいに違いありません。天真爛漫に見えていても、子どもは子どもなりに、現実世界におけるストレスに打ち克とうと、もがいているのでしょう。

それが、「何かに追いかけられる」や「落ちる」といった夢に反映されているものと思われます。

夢の中で追いかけられたときに何とかして隠れたり逃げたり戦ったりするのは、困難を何とか乗り越えて解決しようとしている気持ちの表れですが、どうにもならないときは「落ちる」という結末で、睡眠そのものを中断して、怖い夢の世界から平穏な現実世界へと戻るのでしょう。

私たちは、年を重ねるごとにいろいろな経験をして、場面ごとにどう対応すれば解決できるかを学んでいきますね。つまり、ものごとに対する対処能力が向上して、大抵のことは乗り越えられそうだという自信がつくことで、恐れが減って、「何かに追いかけられる」「落ちる」といった漠然とした怖い夢は見なくなるのでしょう。

その代わり、大人になるにつれ、テストや仕事などで、具体的な成果が求められるシーンが増えます。良い結果が出せるか不安になるので、大人の場合は、そうした具体的なイベントで失敗するといった怖い夢が多くなるのです。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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  • 干支を5回目も過ぎた今でも怖い夢頻度が全然落ちないんだがこれは。
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