
Q. 緊張感を取るために風邪薬を飲む人がいるそうです。効果があるのでしょうか?
市販薬の乱用などが問題になっていますが、ネット上では本来の使い方から逸脱した薬の情報が出回ることがあるようです。何が問題なのか、わかりやすく解説します。Q. 「テストや面接などで緊張しすぎて力を発揮できないことがあるのですが、最近、『強い緊張感からくる息苦しさを軽くするために、風邪薬を飲む人がいる』という話を聞きました。
さほど副作用もないなら試してみたいと思うのですが、気をつけることはありますか? 風邪薬の効果として緊張感の緩和などは書かれていないようですが、効果の軽そうな市販薬でも、試すのは危険でしょうか?」
A. 危険ですし、一回試すだけでも「薬の乱用・違法行為」です。やめましょう。
すべての薬を使うときには、認められた用法・用量を守ることが求められています。それを逸脱することは「乱用」に他なりません。違法な薬物を何度も繰り返し使用することが「乱用」だと思っている方が多いかもしれませんが、使用が認められている医薬品であれ、不正な使い方をすれば一回だけでも「乱用」であり、違法行為となります(罰則の有無や内容は薬物の種類により異なります)。
薬局で買える市販の風邪薬にはいろいろな薬効成分が入っていますが、そのいずれも、風邪に伴う諸症状を緩和する目的で使うことが認められているものですから、風邪をひいていないときに使うのはすべて不正な使い方で、違法行為です。
|
|
薬には必ず良い作用と悪い作用があります。何らかの病気にかかっているときは、病気を治すのに役立つ主作用が悪い作用を上回るというメリットがあるからこそ、薬の使用が認められているのです。病気にかかっていないときに使うと、悪い作用だけが現れてしまう恐れがあります。そのため、すべての薬は目的外の使用が禁じられているのです。
また、風邪薬の中には、呼吸を楽にする成分の一つとして「メチルエフェドリン」が含まれています。
メチルエフェドリンは、気管支を拡げる作用をもっていますが、覚醒剤に似た化学構造をしているため、大量摂取すると覚醒作用も生じます。法制上は、覚醒剤には該当しませんが、「覚醒剤原料」に指定されています。スポーツ選手の場合は、メチルエフェドリンを含んだ風邪薬を飲むと「ドーピング」とみなされ、失格となります。
さらに、認められていないとわかっているのに不正な薬の使い方をするような方は、心に問題を抱えており、薬物依存症になる可能性が高いです。
|
|
一時的に薬に頼ってみても、根本的な問題は解決しないので、同じような場面になったときに再び薬に頼ることを繰り返し、やめられなくなってしまうのです。場合によっては、風邪薬にとどまらず、大麻や覚醒剤などに手を出してしまうようになることもあります。
困ったときは、「モノ」に頼るのではなく、信頼できる「人」に頼ることが大切です。
阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))