新連載:解読『ジョジョの奇妙な冒険』 第一回「“ジョジョ”という名の時代を越えたヒーローたちの誕生」

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2023年10月04日 20:21  リアルサウンド

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pixabayより(イメージ)

 すべては1986年に始まった。その年の12月2日に発売された「週刊少年ジャンプ」1987年1・2号にて、荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』の連載が開始したのである。同作は荒木にとって、『魔少年ビーティー』、『バオー来訪者』に続く3度目の連載作だったが、おそらく第1話が発表された時点では、このどこかアナクロニズムめいたゴシックホラーが、主人公と舞台を変えながら35年以上も続く大ヒット作になっていく未来を、予想できた者はそれほど多くはなかっただろう。


(参考:荒木飛呂彦最新作『ザ・ジョジョランズ』ジョディオ・ジョースターに「黄金の精神」は宿っているか


 しかし、周知のように『ジョジョの奇妙な冒険』は序盤から無数の読者を獲得し、連載の場を「ウルトラジャンプ」に移した現在でも、アニメ化、映画化、小説化、展覧会開催といったさまざまなメディアミックス展開を見せながら、その作品世界を大きく広げ続けている(現在はシリーズ第9部が連載中)。


 また、第4部ではシリアルキラーの恐怖を、第6部では世紀末が象徴する破壊と再生を、第7部では同時多発テロ以降のアメリカを、そして、第8部では東日本大震災を経た人々の繋がりを描く、といった具合に、時代時代を映し出す鏡のような存在にもなっている(注・若い読者はご存じないかもしれないが、第4部が連載されていた当時のエンタメ界では、多重人格や異常犯罪などをテーマにしたサイコホラーが流行していたのである)。


 さて、本連載は、そんな稀代の名作を自分なりに「解読」しようというものだが、第1回となる今回は、そもそもなぜこの『ジョジョの奇妙な冒険』が、これほどまでの長期の連載作になりえたのかについて、改めて考えてみたいと思う。


■主人公を変えていく大胆なシステムと、「スタンド」の“発明”


 考えられる要因は3つほどあるが、まずは、長い物語を「第○部」という形で区分し、その都度、(冒頭でも述べたように)時代、場所、そして、主人公を変えていく、という大胆なシステムの成功が挙げられるだろう。そう、ジョースター家の血と「黄金の精神」を持った「ジョジョ」という名の主人公さえ設定すれば、古今東西、いかなる時代、いかなる場所であっても、「奇妙な冒険」を展開させることができるのだ。このことにより、物語は常に鮮度を保つことができ、長期連載にともなうマンネリ化を避けることもできた(さらには、連載途中からの読者を取り込みやすい環境もできた)。


 むろん、この種のシステムを用いた作品に、手塚治虫の『火の鳥』や、映画『スター・ウォーズ』といった例がないわけでもないが、週刊連載の少年漫画としては、やはり極めて珍しい作りであるといえよう(スポーツ物や集団バトル物などで、一定期間、本来の主人公とは別のサブキャラクターが主役を務めることもあるが、それはまた別の話である)。


 2つ目の要因は、第3部以降の物語に登場する、「スタンド」という超能力表現の妙である。スタンドについては、「波紋」とともに別の回で採り上げたいと思っているので、本稿で詳しく解説するのはやめておくが、要は、その名の通り、使い手の背後に寄り添うように“立って”いるヴィジョン(多くの場合は人型だが、乗り物や昆虫などの形をしていることもある。また、使い手から離れて遠隔操作できるタイプもある)が繰り出す超能力のことである。


 改めていうまでもなく、超能力とは本来“目に見えない力”のことだ。それをあえて見えるようにしたところに、荒木飛呂彦という作家の凄みと、漫画という表現の自由さがあるといえよう。


 さらにいえば、荒木はこのスタンドを用いたバトルを単なる肉弾戦としては描かずに、心理戦や頭脳戦の要素をも取り入れた。そのことにより、一連のスタンドバトルには、“見応え”だけでなく“読み応え”も加わったのである(思えば荒木は、デビュー作「武装ポーカー」の頃から、派手なガンアクションに賭け事の心理戦を加えた独創的な作品を描いていた)。


 また、先ほど私は、「ジョジョ」という名の主人公さえ設定すれば、いくらでも物語を展開させることができると書いたが、このスタンドについても同様で、つまり、「スタンドの使い手」さえ出せば、時代や場所を問わず、それは『ジョジョの奇妙な冒険』であるということになる。


■正義は悪との対比でしか表現できない


 3つ目の要因は、強烈なインパクトを持った悪役の創造、ということになるだろう。ディオ・ブランドー、カーズ、DIO、吉良吉影、ディアボロ、プッチ神父、ヴァレンタイン大統領、透龍。本作に出てくる悪役たちのなんと魅力的なことか。


 改めていうまでもなく、「正義」と「悪」の概念は常に表裏一体の関係にあり、とりわけ前者は、後者との対比でしか表現できないといってもいい。つまり、漫画に限らずあらゆる物語において、まずは強烈な悪役を設定しなければ、同等(もしくはそれ以上)の魅力を持ったヒーローの活躍は描きようがない、というわけだ。


 じっさい、第1部の主人公、ジョナサン・ジョースターなどは、宿敵ディオ・ブランドーとのキアロスクーロ(明暗対比)なしに、その魅力は伝わらないといっても過言ではあるまい。


 また、第2部以降の歴代の「ジョジョ」たちが、多かれ少なかれ「悪」や「不良」、あるいは「アウトロー」の要素が組み込まれた存在であることも無視はできないだろう(その最たる存在が、第5部の主人公、ジョルノ・ジョバァーナと、第9部の主人公、ジョディオ・ジョースターだ)。


 これは明らかに、荒木が志向している主人公像が、清廉潔白な正義の味方ではなく、善と悪の両義性を秘めたある種のダークヒーローであるということの表われでもある(そもそも彼の初連載作の主人公も「魔少年」という設定であった)。


 そう、善と悪の境界線上にいるトリックスターが、自らの“正義”を貫き、世界に害をなす恐ろしい敵と対峙する。誤解を恐れずにいわせていただければ、それが、第2部以降の『ジョジョの奇妙な冒険』なのだと私は思っている。


 ところで、あなたが初めて出会ったのは、どの「ジョジョ」だろうか。ジョナサン・ジョースター、ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助、ジョルノ・ジョバァーナ、空条徐倫、ジョニィ・ジョースター、東方定助、そして、ジョディオ・ジョースター。いつの時代に生まれても、必ず同世代の「ジョジョ」がいる。そんな漫画は本作をおいて他にはないだろう。


(文=島田一志)


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  • 最初に「驚異の二重人格者ジョジョ」って話がチラッと出たからジョセフ以降は素行が悪いのかな?(承太郎のは無銭飲食などの明確な犯罪もあるが)
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