【多賀少年野球クラブ】「ノーサイン野球」で大事なこと

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2023年10月05日 09:52  ベースボールキング

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監督がサインを出さない「ノーサイン野球」で2018、19年の連覇を含め3度の日本一に輝いている「多賀少年野球クラブ」。そんなチームを率いる辻正人監督を、学童野球の現役保護者でもあるトータルテンボス・藤田憲右氏が質問攻めした本が【卒スポ根」で連続日本一! 多賀少年野球クラブに学びてぇ! これが「令和」の学童野球】です。この本の中から「ノーサイン野球」について対談されている部分を紹介します(22年3月に掲載した記事の再掲です)。



ノーサイン野球が引き出す子ども達の「考える力」
【藤田】多賀は監督がサインを出さない「ノーサイン野球」ですけど、それは子ども達が自分で考える野球ですよね。子ども達が「自分で考える」ということについては日頃どんな練習をしているんですか?

【辻】「お前らよく考えてやれ!」って言われる指導者も多いと思うんですけど、そもそも子ども達に「考える材料」を与えておかないと無理な話なんですよ。

【藤田】考える材料とは?

【辻】言い方は悪いんですけど、まずは詰め込みです。3年生までの間にこういう場合はこうなる、こんなケースでこうするとこうなる、そんな事例をどんどんどんどん詰め込んでいくんです。

【藤田】そういう下地があってこそ高学年になってから「自分で考える野球」ができるということですね。

【辻】そういうことですね。実践形式の練習の中では「このケースではどんなプレーのバリエーションが考えられる? じゃあその中からどのプレーを選ぶ?」という模擬試験みたいなことをやるんです。だからこそ本番の試合で考えてプレーができているんです。

【藤田】なるほどなるほど。

【辻】「考える野球」といっても高学年の子の考える野球と、野球を始めたばかりの子の考える野球って違うんです。高学年は場面に応じて一番いいプレーを選択するために考える野球。野球を始めたばかりの子達は「なぜこういう守備体系をとったら点が取られにくいか?」という根本的なところから考える野球。さっき話した模擬試験を何度もやりながら考える野球ですよね。模擬試験もやっていない子に「考えて野球をやれ」と言ってもできないんですよ。考え方すら教えてもらっていないんですから。

【藤田】でもすごく時間がかかりそうですよね。

【辻】そうですよ。すごく時間がかかりますし、指導者からしたらすごく面倒くさいですよ。指導者は試合の時にサインを出して子ども達を動かす方が手っ取り早いし楽ですよ。

【藤田】その面倒くさいことに辻さんがこだわるのは?

【辻】そこに野球をやる面白さがあるからです。子ども達が自分で戦略から考えるわけですからね。

【藤田】つまり多賀のノーサイン野球を支えているのは子ども達が「自分で考える野球」であって、それは何かといったら低学年の頃からシチュエーションに応じた多くのプレーを叩き込まれて、試合ではその中から適切なものを選択してプレーする。辻さんの役割は練習の時からそのプレーの選択肢をたくさん用意してあげるということなんですね。

【辻】そうですね。だから試合中のプレーが「想定の範囲内」ばかりになるんです。その「想定の範囲内」のプレーも、起こる確率の高いものから練習をしていくんです。チームが強い時は、起こる確率が低いプレー、もしかしたらこんなプレーは一生起こらないんじゃないのか、というプレーまで練習ができているんですよね。

【藤田】なるほどねぇ。

【辻】起こりうる確率が低いプレーをどこまで練習できたか、その部分を見れば「今年は全国ベスト4かな」とか分かるんですよね。もちろんくじ運もありますけど、相手が強い弱いに関係なく起こる確率が低いプレーをどこまでできたか、どこまでやり込めたかなんですよね。それが十分にやり込めたチームは大概勝ちますよね。

【藤田】例年やっている「起こる確率が低いプレー」を全くできない年もあるんですか?

【辻】いえ、一応ひと通りは全部やるんです。でも十分にできたチームとそうではないチームはそのプレーの精密度が違うんですよね。十分にできなかった時は10試合に1回起こるか起こらないかのプレーをふわっとしか練習できていない状態で全国大会に臨む、みたいな感じですね。

【藤田】「起こる確率が低いプレー」まで徹底的に練習していたら、「こんな細かいプレーまで練習している俺らってすごいよな?」って子ども達は自信を持ったりしているんじゃないですか?

【辻】いえいえ。保護者同様に多賀しか知らない子がほとんどですから。これが普通のことだと思ってやっていますね。よそのチームに移籍したり、中学に上がったりした時に「あれ? なんであの練習やらへんの?」ってその時に初めて「俺達は細かいことまで練習してたんか」って気づくみたいですね。

【藤田】なるほどねぇ。

【辻】中学に入れば、彼らよりもバッティングがすごい子、速いボールを投げられる子、守備が上手い子に出会うと思うんですけど、試合が始まったら「え!? なんでこんなことも知らんの?」ってなるらしいんです。だから普段の練習では目立たなくても、多賀の子達は試合では重宝されているみたいなんです。

【藤田】「野球を知っている」ということなんでしょうね。打つ、投げる、の練習だけを見ていたらその子が野球を知っているかどうかは分からないですもんね。

【辻】いつも言っていることなんですけど、「野球」って野球の試合のことを野球というのであって、フリーバッティングや遠投とかベースランニングとか、それは野球とは言わないんですよ。相手に1点もやらないように守って、そんな相手からどうやって1点を取るかという、その競技を「野球」と言うんですよね。だから体が小さくても筋力がなくても運動能力がない子でも、試合で勝つための判断力や野球の知識は鍛えられるんですよ。多賀ではそこを鍛えるようにやっています。それが「考える野球」ということなんですよね。

【藤田】体の小さい子でも「考える野球」ができる子は試合で使ってもらえる、だからチャンスがあるっていうことですよね。

【辻】逆に言うと、体が大きくても監督がサインを出さないと何もできない子だと、なかなかチャンスがないですよね。



藤田憲右(ふじた・けんすけ)
1975年、静岡県生まれ。トータルテンボスのツッコミ担当。高校時代は小山高のエースとして活躍。高校野球大好き芸人として有名だが、現在は息子をきっかけに学童野球にも造詣が深く、『ヤキュイク』で連載を持つほか、オンラインサロン「トータル藤田の野球教」も運営中。

辻正人(つじ・まさと)
1968年、滋賀県生まれ。近江高では三塁手として活躍。1988年「多賀少年野球クラブ」を結成。則本昂大(楽天)は同クラブOB。2016年に全国スポーツ少年団大会優勝。2018年、2019年に全日本学童大会(マクドナルド杯)2連覇。

 

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