限定公開( 2 )
リーグ3連覇を果たし、2年連続の日本一を目指すオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを、「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第98回は、10月5日に戦力外通告を受けた育成選手の中川颯投手（24）です。右肩痛などで昨年10月に戦力外通告を受け、支配下を目指した3年目の今季、二軍で21試合に登板。防御率1.38の好成績を残しましたが、支配下復帰の希望はかないませんでした。
しかし、心技体は充実しており、現役続行で次のステージを目指します。
◆ 緻密で繊細なサブマリン
「真っ直ぐとスライダーで、気持ちよく腕が振れました」
覚悟を持って臨んだマウンドだったのだろう。試合後の中川の表情は、清々しかった。
10月4日、二軍のホームグラウンド・杉本商事BS舞洲で行われたYBS播磨との交流戦。中川は3−0の9回に7番手で登板し、3人で片付け試合を締めた。
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つらく、悔しいことの多い3年間だった。
神奈川・桐光学園高校から立教大学を経て、2021年にドラフト4位で入団した。桐光学園時代は神奈川大会で準優勝するなど投打に活躍。立教大では1年春のリーグ戦で抑えとして10試合に登板し、35季ぶりのリーグ優勝に貢献。『全日本大学野球選手権大会』で59年ぶりの日本一に導いた。
184センチの大きな体を折り曲げ、地表約10センチから浮き上がるストレートにカーブ、スライダー、ツーシーム、チェンジアップと多彩な変化球を織り交ぜる芸術的な投球が武器の右腕だ。
プロ1年目から開幕一軍入りし、7月の日本ハム戦で初登板を果たした。二軍では41試合に登板。防御率1.13の成績を残し、2年目の飛躍が期待された。
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「肩を痛めたのは初めて。どうしたらいいのかと思っているうちに長引いてしまいました。痛い時の投げ方が身についてしまい、身体が連動して使えていませんでした」と中川は振り返る。
小学6年の時、テレビの日本シリーズで観たロッテ・渡辺俊介に憧れて始めたアンダースロー。「足が速いわけでも、運動能力が優れているわけでもなかった。何か武器を持っていないと生き残れない」と取り組み、10年をかけて築き上げた精密機械のようなフォーム。
「ちょっとの誤差でも、ほんの一瞬、タイミングがずれるだけで負担のかかる場所が変わってきます」というほど、微妙で繊細なのがサブマリン。性格も、フォーム同様に繊細で細やかだ。
それが災いしたのだろう、人間関係にも苦しんだという。多くは語らないが、様々な声を全身で受け止めてしまった。
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今春のキャンプは、チームが宮崎市に移動した2月1日から大阪市内の球団施設「舞洲」で、一人ぼっちで始めた。
「先のことは考えず、肩と体調を治すため」の決断を、球団も理解を示してくれ、キャッチボールの相手を、担当の早川大輔スカウトだけでなく、小松聖、谷口悦司、下山真二、乾絵美の各スカウトが務めてくれた。
今年3月からリハビリを始め、痛みのなくなった5月から投球を再開。5月20日の阪神戦（東大阪）で戦列復帰し、中継ぎとして7月29日の日本ハム戦までの登板12試合で17回1/3、奪三振21、四死球1、防御率0.51と抜群の安定感を示した。
それでも、支配下選手登録期限の7月31日までに、吉報は届かなかった。登録選手枠の制限があり、チーム事情によっても願いは叶わない。
気持ちも切り替えた。
「一喜一憂しても仕方がない。周りの目を気にしても無駄なこと。失うものはないし、先のことを考えてもなるようにしかなりません。思う存分、やりたいことをやって嫌われてもいい。自分がやれることをやればいい」。そう思った瞬間、心が軽くなった。
「いい緊張感の中で野球を楽しめています。楽しんでやっている人が、一番強いと思います。楽しんでいる人は、自分が努力をしているとは思っていないと思います。今年、ラストの気持ちでやって、今のところいい結果が出ています。後悔なく野球ができればそれだけでいい。完全燃焼したいですね」と話してくれたのは、支配下選別が迫っていた7月中旬のことだった。
戦力外通告を受けた昨年と同じ10月5日に再び、通告を受けた。
「いい思いを一度もしていない、悔しくつらい3年間でした。それでも、これからの人生にとっていい経験になりました」と明るい表情で語った中川。トライアウトに参加するかは未定だが、現役続行の意志は固い。
二軍戦の成績が示すように、今の中川には肩の不安はなく、三振が取れ四球で崩れることもない。
阪神との練習試合が行われ、多くの関係者でにぎわった球団施設内で、スーツ姿でお世話になったコーチ陣やスタッフ、選手らに何度も頭を下げていた中川。誠実な性格そのままの姿だったが、入来祐作投手コーチからは「お前なら（NPBで）やっていける」と激励の言葉を掛けてもらったという。
巨人、日本ハム、MLB挑戦を経て、横浜DeNAで打撃投手や用具係を務めた経験を持つ苦労人の言葉は、心に響いたことだろう。
心技体は充実。NPBの舞台で活躍する日を待ちたい。
取材・文＝北野正樹（きたの・まさき）
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このニュースに関するつぶやき
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彼は，どこかが拾うと思いますけどね．
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