ALSの原因タンパク質が運動神経回路内で広がり、病状を進行させる仕組みを解明

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2023年10月13日 17:40  QLife(キューライフ)

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ALS進行の鍵となるタンパク質「TDP-43」の神経回路における広がり方を検証


画像はプレスリリースより

 新潟大学は2023年8月17日、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:ALS)の原因タンパク質である異常なTDP-43が、運動を司る神経回路に沿って広がり(伝播)、神経の変性や運動障害を進行させていくことを明らかにしたと発表しました。

 ALSは、全身の筋肉が痩せていき、体を動かすことや呼吸が困難になっていく難病です。TDP-43(Transactivation responsive region DNA-binding protein of 43kDa)と呼ばれるタンパク質が神経細胞に異常に沈着、凝集することが報告されており、TDP-43に関する研究が世界中で行われてきました。

 運動は、大脳皮質の運動野にあるニューロンの指令が皮質脊髄路を通して、脊髄の運動ニューロン、筋肉へ伝達され、体が動く仕組みになっています。ALSでは、これら運動を担うニューロンや筋肉に異常なTDP-43が沈着することで神経細胞が脱落し、体が動かせなくなっていくと考えられています。また、病気は体のある部分から別の部位へ徐々に広がっていきます。このことから、運動を担う神経回路の中を異常なタンパク質(TDP-43)が広がっていく可能性が想定されてきました。しかし実際に、異常なTDP-43が運動の神経回路の中を広がっていくのかは不明でした。

TDP-43が大脳皮質から皮質脊髄路のオリゴデンドロサイトに広がることを確認

 研究グループは、アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus:AAV)を用いることで、異常なTDP-43が「大脳皮質」「脊髄」「筋肉」それぞれの領域に蓄積するマウスモデルを確立しました。このALSモデルにおいて、TDP-43の蓄積に伴い、運動を担う神経回路の中を病態がどのように進行していくのか、網羅的に検証しました。

 まず、大脳皮質に異常TDP-43を誘導したところ、皮質脊髄路にTDP-43が徐々に出現し、さらにグリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイトにTDP-43が現れ、広がっていくことを確認。また、ヒトのALSと同様に、大脳皮質と軸索が変性を起こし、皮質脊髄路のオリゴデンドロサイトが反応性に増加していくことを見出しました。一方、皮質脊髄路にTDP-43が現れたものの、脊髄への広がりは認められませんでした。

病気は脊髄と筋へ広がるが、異常TDP-43は脊髄内・大脳皮質・筋肉へ広がらず

 次に、脊髄の運動ニューロンに異常TDP-43を誘導したところ、短期間で著明な細胞死を引き起こしました。また、運動ニューロンのみならず、周囲に連絡している他の脊髄介在ニューロンへも細胞死を引き起こし、病態が進んでいくことがわかりました。さらに、運動ニューロンの脱落に伴い、筋肉も高度に萎縮し、運動障害を引き起こしました。一方、病気は脊髄と筋へ広範に広がりましたが、異常なTDP-43自体は、脊髄内、大脳皮質、筋肉には広がりませんでした。

 最後に、筋肉に異常TDP-43を誘導した場合、再生線維が増加したものの、筋の萎縮は顕著ではなく、運動障害も引き起こしませんでした。また脊髄へTDP-43の広がりも認められませんでした。

異常TDP-43が広がる機序の解明が、ALS進行を防ぐ新規治療につながる可能性

 今回の研究結果から、異常TDP-43は、大脳皮質に蓄積が始まると皮質脊髄路のオリゴデンドロサイトへ広がる可能性が示されました。一方、大脳皮質−脊髄、脊髄−筋肉の間では、TDP43自体は広がらないものの、TDP-43の蓄積に伴い、周囲の運動神経のネットワークや筋肉へ病態が波及し、症状が進行することが明らかになりました。

 研究グループは今後、異常TDP-43が広がっていく機序や病態の進行に関わる機序を解明し防ぐことができれば、ALSの進行を食い止める新規治療につながる可能性が期待されると述べています。(QLife編集部)

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