水田水位センシング技術による農業の効率化で負担を減らす! 伊勢原市の試み

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2023年10月18日 13:01  マイナビニュース

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労働人口の減少により農家では高齢化が進行し、稲作において必要不可欠な水田の水管理が大きな負担となっている。こういった農業課題を踏まえ、NTT東日本 神奈川西支店は、伊勢原市で水田水位センシングを活用した見回り稼働削減の実証実験を行った。


○稲の生育に大きな影響を与える水管理



JA湘南がエリアとする神奈川県平塚市、伊勢原市、大磯町、二宮町は、県内屈指の水郷地帯。とくに伊勢原市の大田地区と比々田地区は水田が多い。だが、農業は少子高齢化の進行に伴う生産人口減少の影響を強く受けており、就農者は減り続けている。



広い農地を少ない人数で効率的に管理することは、日本の農業の今後にとって最大の課題と言える。



そんな比々田地区で農業を営んでいるのが、横山直道氏だ。横山氏は、平成28年度に米の食味ランキングで「特A」を受賞した平塚生まれの米「はるみ」を育てており、わくわく広場 伊勢原店や湘南ららぽーとなどで販売されている。もともと農家の出身で、以前は神奈川農業技術センターで働いていたが、2022年から家業を継ぐことになったという。



「やはり地域の高齢化は進んでいます。作物を作れなくなると農地は荒れてしまいますから、農地を守るためにも農業を行っています。田んぼで約10町(およそ10ヘクタール)、畑で約7反(およそ0.7ヘクタール)です。農家の規模としては中程度でしょうか」(横山氏)


農地の面積が多ければ、収穫量も増える。だが一方で管理に人手が必要となる。例えば水田において重要な水管理だけでも、半日はかかってしまうそうだ。横山氏の管理する水田では、水持ちの良い水田では3日ほど持つが、水持ちの悪い水田では必要に応じて毎日、水を入れているという。



JA湘南 営農経済部 営農販売課 次長の續橋基生氏は、「田植えをし、中干しをしたあとに水を確保することが稲の生育に大きな影響を与えます。水が少ないと雑草が生え、かといって深水にすると、今度はスクミリンゴガイ (ジャンボタニシ)による食害が発生してしまうのです」と、その重要性について述べる。


○スマート農業システム「MITSUHA」の特長



このように、水田の水管理は農家にとって大きな負担となる。この負担を軽減させるためにNTT東日本が提案したIoTが、IIJのスマート農業システム「MITSUHA (ミツハ)」だ。IIJ IoTビジネス事業部 アグリ事業推進室長の花屋誠氏は、その特長として大きくふたつを挙げる。



ひとつは、「LoRaWAN (ローラワン)」と呼ばれる長距離無線ネットワーク技術。単三電池2本で1シーズン使用できる省電力が大きな特長と言える。また免許不要、かつさまざまなセンサーを接続できる互換性があるため、Wi-Fiに対応していれば基本的にどのような機器でもつなぐことができる。


もうひとつは、センサー群のデータを共通化するクラウドシステム「水管理プラットフォーム for 水田」。APIも公開されており、IIJの水田センサーのみならず、自動給水弁や各種センサー、Webアプリやスマホアプリなど、さまざまな機器やアプリを簡単に接続可能だ。


「LoRaWANの無線通信基地局一台で、およそ1〜5kmの範囲をカバーすることができます。また水田センサーはシンプルな構造で低価格を実現しています。工具不要で簡単に組み立て・設置が可能です。これで30分ごとに水位と水量を計測し、それをクラウドにアップロードして、スマートフォンから確認できます。標準スマホアプリ『MITSUHA水田』であれば無償で提供しています」(IIJ 花屋氏)

価格は、センサー1台あたり2万9,800円、無線通信基地局1台あたり6万8,000円、クラウド利用料(通信費込み)月額1,650円が目安。水田一枚にセンサー1台が基本となるが、水の入り口と出口両方に設置すれば水温の変化なども計測できるため、活用の幅が広がる。

○自動給水門「paditch gate 02+」が実現する省力化



横山氏の水田では、この「MITSUHA」に、笑農和 (えのわ)が開発した水田の遠隔自動水管理システム「paditch (パディッチ)」を組み合わせている。paditchには自動給水門、自動給水栓、自動排水装置がラインアップされており、今回は自動給水門「paditch gate 02+」が採用された。


笑農和 営業企画部 マネージャーの黒田光氏は、「paditchは、水管理を自動もしくは遠隔で行うシステムです。IIJさんの水田センサーと組み合わせることで、例えば『一ケ月間、水位を5〜10cmに保つ』という設定にしたら、必要に応じて自動で水門を開け閉めします。センサーとセットでの利用を前提にしていますが、センサーがなくともアプリから任意に、もしくはタイマーをセットして開閉を行うことができます」と説明する。



今回の実証実験においては、水管理にかかった時間を最大80%削減。またこれまで通りの水管理を行った水田と比較し、収量が最大16.3%向上したそうだ。水管理に関わる労力の削減だけでなく、収量・品質の向上によって収益の増加も見込めるのは強みと言える。paditch gate 02+の価格は約24万円、設置費用が2〜3万円程度。一定以上の耕地面積がある中規模以上の農家では、自動化が活きてくるだろう。


「MITSUHA」と「paditch gate 02+」を実際に使った横山氏は、その効果について「水管理に関して言うと、やはりすごく使ってよかったと思います。水を入れる口は一番遠いので、そこまで行く必要がありません。ただし雑草は生えてきますし、そうすると害虫も増えますので、一ケ月に一回は確認しています」と話す。


○農業の変革を目指して



このようなスマート農業の導入は東北や北海道など大規模な農業を行っている地域が先行しており、都市型農業の多い関東地域では導入が遅れているという。JA湘南エリアの水田は1枚あたりの面積も小さく、導入しようとすると機器の数がどんどん増えてしまう。地域ぐるみで導入を進めるのであれば、自治体の支援も必要だろう。



NTT東日本 神奈川西支店 設備部 エリアコーディネート担当 根本健太郎氏は、「1台ではなかなか効果を実感できないのが実情とはいえ、現実的なところでは、まず一台で試していただき、効果を感じたならぜひ拡大してほしいという考えです。田んぼが100枚あるとして、必ずしもすべて自動である必要もありません。時間の掛かる場所に重点的に入れても良いと思います」と導入を促す。


とくにpaditchはまだまだ高価だ。助成金や補助金によって3分の1程度の価格で購入できるが、導入が将来的な収入につながるように支援を進めていくという。



「私たちは農業の変革を実現していくための最初のステップとして、このpaditchを作りました。さまざまな製品があるなかで当社を選んでいただけているのは、そんな思いへの共感もあると感じています。これからも農業の発展を目指して普及活動を続けていきたいですね」(笑農和 黒田氏)



またIIJの花屋氏は、「LoRaWANはさまざまな機器をつなぐことができます。例えば水利設備や河川の監視、鳥獣被害対策など、さまざまな活用が考えられます。農業課題、地域課題への取り組みを行っていますので、ぜひ『MITSUHA』をチェックしていただきたいです」とアピールした。


今後、少子高齢化はさらに進むだろう。これまで人の手に依存することが多かった第一次産業こそ、いまDXを推進しなければならない分野かもしれない。効率化された新しい時代の農業が浸透することに期待したい。(加賀章喜)

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  • 問題は信頼性。ハウスと野良では、求められる耐久性も違う。
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