「ひこにゃん」生みの親・もへろん、彦根市との軋轢から電撃的な和解 そして未来に向けた「絵本」への意気込み

1

2023年10月27日 12:01  リアルサウンド

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真

  現在のご当地キャラクターブームをつくったキャラクターといえば、滋賀県彦根市のマスコット「ひこにゃん」であろう。ひこにゃんは、イラストレーターのもへろんによってデザインされ、平成19年(2007)の「国宝・彦根城築城400年祭」に合わせて誕生。そのゆるさと愛らしさから、瞬く間に大人気となった。


  様々な問題を巡って、もへろんと彦根市の間に溝が生まれた時期もあった。しかし、歴史的な和解を果たした結果、ひこにゃんのイラストが次々に誕生してファンが歓喜している。そんなひこにゃんの生みの親であるもへろんが、来年の3月頃に、ひこにゃんの絵本を出版するという。絵本は多くのファンや、地元・彦根市の子どもたちを喜ばせるに違いない。ますます盛り上がるひこにゃんと、創作に懸ける意気込みについても、もへろんに聞いてみた。



歴史的和解に大注目!

――令和3年(2021)7月8日に行われた、もへろん先生と彦根市の共同会見は大きな話題になりましたね。


もへろん:彦根市さんとはこれまでいろいろありましたが(笑)、これからは作者と市が協力し、ひこにゃんの様々な企画を展開していこうという会見でした。現在の和田裕行市長が就任して3〜4か月のときに、会見の打診があったんです。本当に驚きました。


――この記者会見の前にも、もへろん先生は彦根市と協力してひこにゃんの別ポーズなども制作されていました。水面下では様々な歩み寄りもあったのでは、と推測します。


もへろん:大久保貴前市長の頃からも、作者と何かしらの協力はできないか」とお声掛けがあって、ひこにゃんの新しいポーズや、LINEスタンプ、「いいのすけ」という忍者のキャラを制作していました。そして、和田市長になってからはさらにひこにゃんを発展させていこう、という話になったのです。和田市長は良い意味で市長っぽくない、気のいい兄ちゃんという感じの方なのです。長くビジネスをやっていた方なので人当たりもよく、考えも柔軟で、ありがたかったですね。



ひこにゃんの誕生まで

――私事になりますが、もへろん先生と僕は誕生日が3日しか違わないんですよ。そんなこともあって同年代のクリエイターとして大変注目している存在なのですが、ひこにゃんをデザインされたのもかなりお若い頃ですよね。


もへろん:ひこにゃんを作ったのは20歳くらいのときですね。京都タワーの「たわわちゃん」と、阪急のハイキングの「ぴょんちゃん・のんちゃん」も、実は同じ時期に作っているんです。


――なんと、あの3組は同い年なのですか!


もへろん:同期の3組ですね(笑)。僕の中では兄弟のような存在だと思っています。ぴょんちゃんのんちゃんとたわわちゃんが同じくらいのタイミングで発表になって、僕のキャラクター作家としてのデビュー作です。その半年後に生まれたのがひこにゃんですね。


――そもそも、ひこにゃんのデザインをなぜ担当することになったのでしょうか。


もへろん:大阪で父がデザイン会社をやっていて、僕もそこに所属していました。ある時、イベント会社の方から、彦根市で今度「国宝・彦根城築城400年祭」があるからロゴマークとキャラクターでコンペをやっていると、連絡があったんです。うちだけではなく、何社かに声をかけたらしいですね。


――ひこにゃんのデザインも、コンペの段階で具体的な指示があったのでしょうか。


もへろん:それはありませんでした。創作にあたり、彦根にちなんだ様々な逸話を探したのですが、その中に招き猫の発祥のお話があったんです。東京の豪徳寺が舞台の招き猫伝説にインスピレーションを受け、私がアレンジを加えて「赤い兜の白猫」案を制作しました。そしてその案が採用されたのです。ひこにゃんという名前は公募で決まったんですよね。ちなみに、「国宝・彦根城築城400年祭」ロゴマークは父の作品です。


 


シンプルな造形ゆえに展開しやすい

――今見ても、ひこにゃんは神が降りてきたとしか思えないほど、奇跡的な造形だったと思います。デザインが生まれたときのことを覚えていますか。


もへろん:当時は僕も若かったので、クオリティがいいのかどうかの判断ができないので、とにかく全身全霊で一生懸命にデザインをしました。無我夢中だったのか、気分が乗っていたのか、勢いがあったと思います。もともと、僕はキャラクターはシンプルに仕上げることが信条だったので、構成するパーツをなるべく少なくするんです。何個か案は描いていると思いますが、一発目でパッと描いたものを手直ししていくパターンが多く、ひこにゃんもそんな感じだったと思います。


――ということは、もへろん先生のデザインは最初の閃きが重要なのでしょうか。


もへろん:ひらめき型ですね。性格的にものぐさなところがあって、長い時間をかけるのが嫌なので、シンプルに仕上げる方が合っていたのかなと思います。あと、考えすぎて足し算と引き算をしすぎすると、はじめの勢いが死んでしまいますからね


――そういったシンプルな造形ゆえ、認知されるのも早かったのではないかと思います。もへろん先生のキャラって、子どもでも絵に描きやすいですし、グッズ化もしやすい造形が特徴です。着ぐるみも作りやすそうですよね。


もへろん:作りやすいのかなあ(笑)。僕が思うに、見た目がシンプルだと脳に優しくて受け入れやすく、最初にみたときにホッとなれる気がするんです。僕はキャラクターを自分のそばにいて欲しい存在、自分が笑っていて欲しい姿という感じでデザインするんですよね。もしかすると、僕と波長の合う方にも喜んでもらえているのかなあ、と思ったりしています。


もへろんはカービィが好き!?

――クリエイターの方にインタビューすると、どうしても子どもの頃の話を聞きたくなります。もへろん先生が絵を描き始めたのはいつ頃なのでしょうか。


もへろん:5〜6歳、幼稚園の頃には描いていました。なにしろ両親がデザイン会社を営んでいたくらいなので、絵に関しては身近な環境でしたね。兄も漫画家志望だったので、家の中ではいつも紙に走り描きをしているんです。そんな環境だったので、むしろ何も描いていない方が変な感じで、自然とペンを持って絵を描いていました。


――現在のキャラクターの造形に影響を受けた作品はありますか。


もへろん:カービィが好きだったんですよ。あと、ムーミンとか、ほわっと丸っこくて手足が生えている、やわらかいものに惹かれる性格でした。小さいころからかわいらしい、愛らしいキャラクターがそばにいてほしいという妄想が大きかったですね。漫画も『ドラゴンボール』とか「週刊少年ジャンプ」の作品にお世話になったし、好きだったけれど、当時の少年漫画って、戦って、爆発して、という感じでバトルが激しいじゃないですか。僕は自分の隣にいて欲しい、味方になってほしいキャラクターの方が頭に浮かんでくるんです。


――初めてオリジナルのキャラクターを生み出したのは何歳の頃でしょうか。


もへろん:小学校3年生のころに、「さくさくくん」を作りました。このキャラが僕の創作の原点ですね。今では自社のイメージキャラクターとなっています。僕にとってはウォルト・ディズニーのミッキーみたいな、もうひとりの自分です。


――もへろん先生は子どもの頃、どんな性格だったのでしょうか。


もへろん:人といるのが苦手で、一人でいるのが好きでした。外に出るよりも、一人で絵を描いたりゲームをしていたり、内側で過ごすタイプでしたね。我が家はそういう人が多い家系で、みんな内向的なんですよ。内向的だからこそ、世の中と渡り合うスキルを創造性に変えていけるのかもしれませんが。


ひこにゃんの大ヒットの反響

――話をひこにゃんに戻します。ひこにゃんは発表されると程なくしてマスコミに取り上げられ、大ヒットしました。周りからの反響はどうでしたか。


もへろん:先ほどお話したように、僕は基本的にインドアで内向的なので、あんまり外を意識しないんです。周りの人もひこにゃんが凄い人気だと言ってくれたけれど、どれだけのものか、まったくわかっていなかったんですよ。ひこにゃんがテレビのニュースに出たときも、映してもらえてよかったなあ、と呑気に見ていたのです。


――後になってからは「ひこにゃんはかわいいから、ヒットは当然だった」と言えると思いますが(笑)、当時の関係者でここまでのヒットを予想していた人はいないのではないでしょうか。


もへろん:僕もそうですが、当時の彦根市さんもまさかこれほどの反響があるとは、思いもしていなかったと思います。


――その後、もへろん先生は、せっかく人気が出たのでひこにゃんの今後のためにも前向きに話し合おうと提案されたんですよね。


もへろん:原作者として協力しようと申し出たのに、当時は彦根市さんに話し合いのテーブルについていただけませんでした。また、当時はひこにゃんがグリーティングで流行りの芸人の真似をしたり、作者のイメージとかけ離れた行動もしていたんです。僕には著作者人格権があります。ひこにゃんは作者が創作した当初の世界観を大切にして欲しいと、改善を持ち掛けたんです。


――我が家でもキャラクターのデザインをしていますので、その気持ちは痛いほどわかりますね。


もへろん:僕はあくまでも、協力しましょうというスタンスでしたが、彦根市は話し合いの席にはつかないという反応でした。それはもう、本当につらかったですね。イラストレーターとしてデビューしたばかりだったのに、いきなりどん底に突き落とされた感じで、落ち込みました。


――その後、ひこにゃんに対してはどう向き合っていたのでしょうか。


もへろん:距離を置きながらチェックしていましたが、自分の思いと違う動きを目にするのは苦しかったです。でも、やっぱり自分の分身であるキャラクターのことって、忘れられないんですよね。いろいろあっても、何か自分ができることがあるなら協力したい、という思いは常にあったんです。


キャラクターの本格的な展開へ

――その後、電撃的な和解が実現し、和田市長と今後の展開について話し合いを持たれたわけですが、具体的にどんな話をされたのでしょうか。


もへろん:第1弾の提案として、ひこにゃん制作当初の原作設定を公表して欲しいとお願いしました。男の子なのか女の子といった性別や、どこに住んでいて、何歳なのか、兜を脱いだらどうなっているのかという設定が今まで公表されていなかったので。その取り組みが形になったのが、今回のひこにゃんの絵本です。ひこにゃんがお城に住んでいて、お殿様や仲間がいて仲良く暮らしている場面や、他のキャラクターとのやりとりが描かれています。


――そういう設定があると、キャラクターがイキイキしてきますよね。それに、キャラクター展開でいえば、グッズも作りやすくなるのではないでしょうか。


もへろん:ひこにゃんはお団子が好きという設定です。それだけでも、ひこにゃんに様々な表情やシーンが生まれてきて、想像が何倍にも膨れ上がります。原作やキャラクターの背景を示すことは、やはりキャラクターを長く愛してもらうためには欠かせないと思います。


――今回の絵本で、今まで知られていなかったひこにゃんの姿が見えてくるわけですね。


もへろん:ひこにゃんの性格や、どんなふうに笑ったり、泣いたりするんだろう、というところを感じてもらえたらと思います。ひこにゃんを取り巻く環境も、やわらかく、かわいく仕上げているので、楽しんでいただきたいですね。和田市長もお気に入りの、わるにゃんこ将軍という悪役も出ています(笑)。


もへろんは今後、どんな仕事をするのか?


――もへろん先生は、現在も関西を拠点に様々なキャラクターを生み出していますね。


もへろん:今年7月7日に「株式会社もへろんスタジオ」を設立しました。「ひこにゃん」や「たわわちゃん」、他にも私の手がけた様々なキャラクターを展開していく企画を考えています。また、今年の3月より「ひこにゃんに関するブランドコンサルタント」を彦根市より拝命し、彦根市の皆さんがいろんな方面にプッシュしてくれているので、ひこにゃんに全力投球です。そして、9月29日には彦根市四番町スクエアに、僕が監修して「ひこにゃんショップ1号店」がオープンしました。


――おおっ! それは素晴らしいですね。


もへろん:ひこにゃん関係の創作は、どんどん行っていきたいですね。あとは、僕自身の芸術作品も手掛けていきたいんです。最近、画家という存在に憧れを抱くようになってきたんですよ。


――それは大きな変化ですね。絵画に関心を持たれるようになったのは、何か心境の変化なども影響しているのでしょうか。


もへろん:若い頃は、自分を守るためにかわいらしいキャラクターを描いてきましたし、35歳まではキャラクター一本でやっていこうと考えてきました。一方で、ある程度の世の中の知識を持つようになってから、作風も徐々に変わってきたんですよ。キャラクターは僕にとってライフワークなのでやめることはありませんが、並行して様々な活動も行っていければと思います。


――なるほど。もへろん先生の今後の展開が楽しみですね。


もへろん:世間知らずな部分がまだまだあるので、いろいろと勉強しながら創作していきたいと思いますが、自身の感情であったり、社会への思いなども芸術という形で表現していければいいなと考えています。



■プレゼント

もへろんサイン入り「わるにゃんこ将軍」ぬいぐるみ、ひこにゃんのクリアファイル4枚、アクリルスタンドをまとめて1名にプレゼント。

【応募方法】
リアルサウンドブックの公式X(旧Twitter)フォロー&該当ポストをリポスト/リアルサウンドブック公式Instagramをフォロー&投稿をいいね&コメントいただいた方の中から抽選でプレゼントいたします。
当選者の方には、リアルサウンドブックの公式Xまたはリアルサウンドブック公式InstagramアカウントよりDMをお送りいたします。
※当選後、住所の送付が可能な方のみご応募ください。個人情報につきましては、プレゼントの発送以外には使用いたしません。
※同一の方による複数アカウントからのお申し込みが発覚した場合、ご応募は無効とさせていただく場合がございます。(XとInstagramについては重複とみなさず、それぞれご応募を承ります)


※営利目的の転売は固くお断りいたします。


リアルサウンドブック 公式X(旧Twitter):https://twitter.com/realsound_b
リアルサウンドブック 公式Instagram:https://www.instagram.com/realsound_b/
(※Instagram上で、上記URL以外の「リアルサウンド」を名乗るアカウントには十分にご注意ください)


<応募締切> 2023年11月15日(金)23:59まで


    ランキングゲーム・アニメ

    前日のランキングへ

    オススメゲーム

    ニュース設定