「野球に関わる仕事に就くためには何が必要?」投資を学ぶ高校野球部生が考えた

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2023年11月13日 10:41  webスポルティーバ

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奥野一成のマネー&スポーツ講座(40)〜野球に関わる仕事を考える

 昨年度から始まった高校生向けの投資教育。「家庭科」や「公共」の教科書には、「金融」や「決済」、「株式投資」といった言葉が並んでいる。初めての試みに、教える側も試行錯誤が続いているという。

 集英高校の家庭科の授業で生徒たちに投資について教えている奥野一成先生は、野球部の顧問も務めている。3年生の野球部女子マネージャー・佐々木由紀と新入部員の野球小僧・鈴木一郎はその奥野先生から、練習の前後などに、経済に関するさまざまな話を聞くのが日課のようになっていた。それにより、テレビで見る経済ニュースなどにもより深い関心を寄せるようになった。

 前回は、いま話題のチャットGPTなど生成AIについて話を聞いた。夏休みの宿題に使っていいのか悪いのかという問題とは別に、チャットGPTがこれからの社会にどういう影響を与えるかというテーマは、由紀と鈴木にとってとても刺激的だった。前々回のテーマ「最近の株高」もそうだが、経済がダイナミックに動いていることを実感できるからだ。

 それは「将来どういう仕事をしたいのか」とも関係していた。実際、ふたりは「どんな仕事があるのか」「それに就くために今は何をしたらいいのか」といったことに頭を巡らせるようになった。これまで奥野先生から受けてきた「授業」をベースに、何かを実践したいと思うようになったのだ。

鈴木「僕は将来、何らかの形で野球やスポーツに関われることをしたいなと思っています」
由紀「選手ということではなくてもね」
鈴木「そう。試合をテレビで見ながら考えていたんだけど、たとえばプロ野球の選手じゃなくても、野球で生活している人はたくさんいる。審判、監督、コーチ、トレーナー、球団の職員、リーグの運営スタッフ、栄養士、通訳、用具メーカーの社員、ショップの店員、球場の人、メディアの人、カメラマン......」
由紀「既存の仕事もいろいろあるし、以前、先生からうかがってたように、新たなビジネスを立ち上げることができるかもしれないわ(「奥野一成のマネー&スポーツ講座(21)〜高校生のための起業プログラム」)」

【意外とある「野球に近いところ」の仕事】

「そうか、野球やスポーツに関係する仕事に興味があるんだね」と、奥野先生が会話に加わってきた。

由紀「やっぱり好きですから」
鈴木「でも......何から始めたらいいのかな?」

奥野「スポーツ系の青春ドラマによくありがちな話だけど、プロを目指していた子が、あと一歩のところで故障してしまい、プロの道が断たれたことによって意気消沈。まだ17歳かそこらなのに、将来に絶望して大いに悩む......なんてシーンがよくあるよね。

 正直、高校野球の選手でもプロ野球の選手になれる人は、0.1%にも満たない。しかも、レギュラー選手になって活躍するとなると、さらに確率は低くなる。だから、高校野球や大学野球の選手がプロ野球の選手になるっていうのは、とてつもなく高い壁をよじ登らなければならないんだ。

 しかも、プロ野球選手の寿命はとても短い。日本野球機構(NPB)が発表しているデータによると、平均在籍年数は7.7年(2022年10月31日時点、以下同)。戦力外通告をされた選手と、現役引退選手の平均年齢は27.8歳って言うのだから、辞めた後からの人生のほうがはるかに長い。

 これは野球選手に限ったことではないんだけど、プロスポーツ選手は総じて現役のうちは試合のことしか考えていないから、現役引退となった時、自分のセカンドキャリアをどうすればいいのかで、途方に暮れてしまうことがあるという。一見、華々しい世界に見えるけど、そんなのは長い人生のなかでほんの一瞬のことでしかないんだよ。

 そう考えると、そもそも自分が生涯を通じて野球の選手として生活していくということは非現実的なんだけど、それでも野球の世界に関わり続けたいのであれば、次善の策として、何らかの形で野球に携われるような仕事を探すことになる。

 そうなると、ちょっとだけ間口が広くなる。スポーツ用品メーカー、イベントビジネス、スポーツトレーナー、栄養士・・・・・・。直接、野球に関連しそうな職業を挙げただけでも結構な数になるし、たとえば旅行代理店でスポーツ観戦のツアーを企画するとか、飲料メーカーでスポーツドリンクのプロモーションで野球選手を起用するといったことも含めて考えれば、どんな職種でも、野球に近いところで仕事をするのは可能と言えるかもしれないね」

【社会に自分の身を投じてみて...】

鈴木「でも、どんな会社でも野球に関連した部署に必ず配属されるとは限らないですよね」
由紀「いっそのこと、自分で起業してしまうというのはどうなのでしょうか」

奥野「ビジネスの基本は、世の中の困りごとを解決することにあるということは、これまで何度か話したよね。自分にそれができる能力があれば、仕事にできる可能性はある。ただ、ここで大事なことがひとつあって、それをするのが好きか嫌いか、得意か苦手か、ということなんだ。好きで得意ならベスト。苦手だけど好きなら何とかなるかもしれない。

 でも、嫌いで苦手なことだったら苦痛でしかないだろうし、得意でも嫌いなことだったりすると、まず長続きしない。まあ、得意で嫌いなんてことは、そうそうないと思うけど、ここの軸はとても大事だと思う。

 で、もうひとつ言っておくと、鈴木君が言うように、会社に入っても必ず自分の希望した部署に配属されるとは限らないし、だから由紀さんが言うように、起業してしまうという手もあると考えるのは理解できるけど、残念ながら、何のビジネス経験も持ち合わせていないような高校生や大学生が、ちょっとしたアイデアを思いついたからといって起業して成功する確率は、ほぼゼロと思っておいたほうがいい。それが現実の世の中なんだ。

 いきなり夢を打ち砕くようなことを言ってしまったけど、さりとて野球に関連した部署に行くのは難しいという理由から、そういう仕事自体を諦めてしまうのではなくて、どんな世界でもいいから、自分の身を投じてみてほしいと思うんだ。

 少し回り道になるけれど、たとえばそれが銀行だったとしよう。銀行で個人の資産運用ビジネスに携わっているうちに、スポーツ選手のセカンドキャリアに必要な資産運用のアドバイスをするビジネス、なんてことを思いついて、それを仕事にできるようになるかもしれない。とにかく、どんな仕事でもいいので飛び込んでみることをお勧めするよ」

【「競争優位」とは?】

鈴木「問題は、どこかの会社に飛び込んだとして、そこで何をするべきなのか、ということですね」
由紀「どんなことをすれば、自分の夢に一歩近づけるのでしょうか?」

奥野「もし僕が企業の人事部の人だったら、鈴木君や由紀さんが野球好きで、野球に関わる仕事をしていきたいという熱意を買いたいと思う。だけど実は世の中には、鈴木君や由紀さんよりも野球が好きな人、野球に関するさまざまな知識を持っている人、あるいは実際にプレーさせたらもっと上手な人は、ごまんといるよね。

 つまり『野球が好きです』ということだけでは、何の付加価値にもならないし、競争優位にもならないということを、まず覚えておいたほうがいいと思う。

 ではどうすればいいのかということなんだけど、もうひとつの軸をつくることだと思うんだ。

 たとえば、野球の選手の肉体をサポートする仕事に就きたいと思ってトレーナーの資格を取ったとしよう。でも、『スポーツ選手をケアするトレーナー』は大勢いると思うんだ。そこにも厳しい競争があるはず。だけど、たとえば『語学が堪能な野球のトレーナー』となると、おそらく人数は大幅に減るんだよ。これが『競争優位性』というやつだね。

 ダブルキャリアと言って、たとえば医師免許と弁護士資格を両方持っているという人がいるんだけど、それと同じ。他に得意技を持っておくことは大事だと思う。

 その得意技としてお勧めなのは、会計と統計、そしてプログラミングの3つかな。もちろん語学は当たり前の話で、そのうえで、これら3つのうちどれかひとつを身につけておけば、きっと引く手あまたのトレーナーになれる。

 どんな会社でもいいから、まず飛び込んでみて、『自分は野球が大好きなんだ』というアピールを上司の前でしながら、英語の勉強はもちろん、会計と統計、プログラミングのいずれかに精通する。そうすれば、きっと望む仕事に就けるような気がするな」

奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC) 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)。京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実践する日本では稀有なパイオニア。その投資哲学で高い運用実績を上げ続け、機関投資家向けファンドの運用総額は3000億円超を誇る。更に多くの日本人を豊かにするために、機関投資家向けの巨大ファンドを「おおぶね」として個人にも開放している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』『投資家の思考法』など。『マンガでわかるお金を増やす思考法』が発売中。

このニュースに関するつぶやき

  • 結論『努力』しなきゃ何にもならん、そこは昔も今もこれからも変わらん。◯◯だけ(特にスポーツは顕著)やってりゃいい進路指導は愚の骨頂、悪徳顧問やコーチに人生台無しにされないように知恵つけなぁな。
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