ジュビロ磐田のJ1昇格を支えた絆 「チームのために、という選手が揃っていた」

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2023年11月13日 11:01  webスポルティーバ

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 86分、ジュビロ磐田の山田大記、松本昌也の二人が交代で下がったあたりからだろうか。目の前の試合よりも遠く離れた会場の様子を気にする気配が、ザワザワと立ち込め始める。いくつかのFKがあり、主審のやたらと細かすぎる注意で、無駄に再開まで長くかかり、試合そのものが間延びしたこともあるが、時間が過ぎるのが、やたらと遅く感じられた。

「終わった! 終わった!」

 スタンドの一角で奇声が上がった。他会場の結果が、徐々にスタジアム全体に伝播する。情報を得たベンチの選手たちも、暴発しそうなほどにウズウズと体をねじらせる。ピッチに立つ選手たちは、リアルタイムの情報は知らされていなかったという。ラストプレー、敵チームのロングスローの流れから混戦になりかけたが、どうにかクリアした。

 試合終了を告げるホイッスルが鳴り響くと、ピッチになだれ込んだ選手が戦っていた選手たちと抱き合った。自分たちが勝ち取ったものを確信し、笑顔の花が咲く。首脳陣も入り乱れ、感極まって涙を流す選手もいた。

「"仲間のために"というの(思い)が、今のチームは強い。このメンバーで最後に笑えてよかったです」

 主将である山田は言ったが、そこに昇格の理由が集約されていた。

 11月12日、宇都宮。J2最終節で、磐田は栃木SCの本拠地に乗り込み、1−2と逆転で勝利を収めている。清水エスパルスが水戸ホーリーホックに敵地で1−1と勝ちきれなかったことで2位に順位を上げ、逆転でJ1への自動昇格を勝ち取ったのだ。

 序盤、磐田はトップ下に入った山田が見事にボールを出し入れし、トランジションで違いを見せる。何度もカウンターを発動。後藤啓介などがいくつも惜しいシュートも浴びせた。

 だが、未成熟なチームにありがちだが、ゴールが決まらなかったことで勢いが落ちる。途端に連続性を失い、無理なトランジションでピンチになるなど、ちぐはぐなプレーが見られる。そして23分、ズルズルとラインを下げてしまったことで、ボールホルダーを自由にし、楽々とクロスを放り込まれると、ディフェンスはマークもボールを見失い、一撃を食らった。

【最終節で見せた「成長の証」】

 90分をとおして課題と言える点が出たが、それも現状では織り込み済みだった。

「たとえ失点しても、落ち着いて自分たちのサッカーをしよう」

 キャプテンの山田は事前にチームメイトたちに伝え、伏線を張っていた。

 そのおかげか、磐田はじわじわと反撃に転じる。栃木は人海戦術で守備を固めていたが、ゾーンの意識は低く、簡単にギャップに人が入れる状況で、そこにボールを出し入れすることで押し込んでいった。FKからたて続けにシュートを放つなど、アクシデントも含めて何かが起こる可能性は高まっていた。

 そして41分、ショートコーナーを受けたドゥドゥが30メートルくらいの位置から思いきって右足を振った。そのシュートが相手を掠めて、わずかにコースが変わってゴールネットを揺らした。

「先に失点して苦しい状況に追い込まれましたが、そこで奮い立って、"我慢して戦ったら点が取れる"というところは成長の証なのかなと。それは長いシーズンを戦ってきて身についたことです」(磐田/横内昭展監督)

 磐田は後半もペースを握ったまま、優勢に試合を展開した。そして62分、高い位置でボールを持ったセンターバックのリカルド・グラッサが、左サイドのドゥドゥにつける。ドゥドゥが幅を取って、インサイドのギャップに入った左サイドバックの松原后にパス。松原は反転から左足でクロスを折り返すと、ファーサイドから入ってきた松本がヘディングで合わせ、逆転弾に結びついた。

「2020年の最終節も栃木戦でゴールしていて。シーズンの最後らへんは、(ゴールする)いいイメージがあります」(松本)

 値千金のゴールだった。松本はチーム最多タイの9得点目だったが、他にもジャーメイン良、ドゥドゥが9得点で並び、上原力也が8得点、後藤が7得点、金子翔太、松原が6得点。突出したゴールゲッターはいなかったが、どこからでも点が取ることができた。

<全員でゴールを奪い、全員でゴールを守る>

 そのスローガンは、チームの絆とも密接に結びついていたと言えるだろう。

【J1挑戦に向けて】

 シーズン開幕前から、磐田はハンデを背負っていた。FIFAの補強禁止処分(コロンビア人FWと結んだ契約が規則違反とされた)で、選手を新たに獲得することができなかった。否応なく、現有戦力での戦いを強いられた。そのせいで、下馬評も低かった。

 だが彼らは"弱点"を利点にした。降格したメンバーと手に手をとって戦うことで、結束を強化。同じメンバーで戦うことで、お互いの良さ、悪さはわかっていたし、コンビネーションは上積みするだけでよかった。それが全員攻撃全員守備を可能にした。

「チームのために、組織のために、という選手が揃っていました」

 山田は言う。

「(一昨シーズンにJ1昇格し、昨シーズンにJ2降格した)主力が残ってほぼ3年になるので、絆は"すごい"あります。(補強禁止処分による)戦力は心配していなかったですね。(連敗がなかったのは)負けた後もブレずに、迷いなく戦うことができました」

 1−2とリードすると、磐田は危なげなくゲームを閉じていった。栃木の攻め手がハイボールでのパワープレーなど限られていたのはあるだろう。しかし緊張度の高い試合をミスなく勝ちきったのも、成長の証拠だ。

 シーズンを通した戦いで、日本代表選手やJ1得点王を擁する清水を上回っての昇格は価値がある。ただ、FC町田ゼルビアに大差をつけられたのは事実で、J1挑戦に向けては安穏とはしていられない。

「"J1に上がって戻る"というのを繰り返さない。そのために、J2での戦いをJ1につなげられるように......」

 横内監督は会見の最後に言った。2024年、磐田がJ1に戻ってくる。

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