「やっぱり現場が好き」週に5日、訪問看護師として働く82歳の女性が実感した“ひとつしかない私の命”

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2023年11月19日 06:00  週刊女性PRIME

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訪問看護師・江森けさ子さん

「長野は元気な高齢者が多いところ。私も負けられません」

 そう話す江森けさ子さん(82)は松本市内の自然豊かなエリアで「峠茶屋訪問看護ステーション」の管理者をしている。自身も訪問看護師として毎日、走りまわっている。

週5日、訪問看護師として働く82歳の女性

 訪問看護師とは、在宅で療養生活を送る人の家を訪問し、主治医の指示のもと医療処置や看護を行う仕事だ。

「安心して暮らせるよう、健康状態のチェックや、薬の管理などをしています。今、担当する利用者さんは3、4人。医師と一緒に訪問することも」(江森さん、以下同)

 また、私はこの訪問看護ステーションの管理者でもあるため、初めて訪問看護を利用するお宅に行き、説明する役割も担っている。

「週5日事務所に出勤し、8時半から17時半まで働いています。訪問先は減りましたが、申請書類作りなどの書類作りや手続きが多いのが、いちばん大変……。やっぱり現場が好きなんですよ」

 江森さんは、今は松本市に編入された四賀村で生まれ育った。18歳で准看護師となり、23歳で結婚。転勤族の夫とともに移り住みながら看護師を続け、32歳で看護師資格を取得。静岡県内の看護専門学校で23年間教員を務めた。

「定年退職後は、夫と地元に戻って晴耕雨読の生活をするのが夢だったんです。でも、Uターンしてみたら高齢者が元気で輝いてる。地域を支える活動をしたいと、高齢者を介護することを思い立ちました」

 夫を巻き込み、2003年にデイサービスを行う宅老所「峠茶屋」を開所。名称には、人生の坂を歩み続けてきた高齢者に、お茶を飲んで一服してもらいたいという思いを込めた。6年後、認知症患者を抱えたご家庭からの相談が増えたことから、グループホームも開設する。

「基準よりスタッフを多く配置し、人との交流を重視しています。テレビは置かず、認知症患者さんの個人史に向き合いながら記憶や言葉を引き出したり、思い出の歌をみんなで歌ったり。寝たきりにさせない工夫をしています」

闘病で自身の命を実感、諦めない看護がテーマ

 しかし71歳のとき、突然の強いめまいに襲われ、後頭蓋髄膜腫が判明する。

「難しい手術だったので『術後も働けるかな』というのがいちばんの心配事でした。偶然のラッキーが重なって予定どおり手術でき、自分が生きていることに涙が出ました。これまで多くの人の生死に携わってきましたが、初めて“ひとつしかない私の命”を感じました。貴重な体験です」

 この経験を生かしたいと考え、2014年、73歳で訪問看護ステーションを開設した。

「大きな手術を体験したことで術後のフォローの大切さを意識しました。誰の命でも大切に思い、諦めないという気持ちで看護を続けたくて。静岡時代の同僚が非常時には応援に来てくれ、本当に助かっています」

 今の役割があるので健康でいなければという思いも強い。

「3年前までは朝5時に起きてウォーキングをしていたのですが今はやめてしまい、カーブスに通っています(笑)」

 ここ4年、江森さんはシングルマザーの長女一家の生活のサポート。平日は毎日、夕方から娘宅で3人の孫の世話と家事をしているという。

「意外にも娘の家への移動が仕事から離れるスイッチになって、ストレスが減りました」

 自身が楽しいからと続けているという看護と介護。

「70年間、看護をやってきたおばあさんの話を、これからも若い人に伝えていきたい。後進を育てつつ、もう少し年をとり、時短勤務になっても感動のある看護を続けることが私の夢ですね」

江森けさ子(えもり・けさこ)/2000年まで病院や看護専門学校などで看護職に従事。リタイア生活を送るため故郷(現松本市)に戻るが、介護に携わるように。著書に『老いも死も自然がいいね』(農文協)。

(取材・文/松澤ゆかり)

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