【今週はこれを読め! SF編】月面都市で語られるいくつかのクリスマス物語〜村山早紀『さやかに星はきらめき』

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2023年11月21日 11:31  BOOK STAND

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『さやかに星はきらめき』村山 早紀
《桜風堂ものがたり》シリーズなどで知られる人気作家、村山早紀が自ら「SFが書きたい」と表明し、それに〈SFマガジン〉編集長(当時)、塩澤快浩が呼応。かくして実現したのが本書である。
 人類が荒廃した地球から離れて数百年後、人間は猫を祖先とするネコビト、同じく犬由来のイヌビトと共生して、太陽系を中心とする領域で暮らしていた。この物語の主な舞台となるのは、月面都市〈新東京〉である。
 主人公のキャサリン・タマ・サイトウはネコビトの腕利き編集者であり、いま『愛に満ちた、人類すべてへの贈り物になるような本』に取りかかっていた。いろいろな時代の、心温まるクリスマス物語を集める企画である。この企画をめぐり、彼女の元へさまざまな者がやってくる。
 第一章「守護天使」では、同僚編集者であるイヌビトのレイノルド。
 第二章「虹色の翼」では、校正者であるトリビトのアネモネ。トリビトは鳥に似た種族だが、ネコビトやイヌビトと異なった歴史を経て、人類と共生するようになった。
 第三章「White Christmas」では、雑誌編集部の編集長リリコ。リリコはキャサリンの子どものころからの友人であり、古き人類(昔風の表現をするなら「普通のヒト」)だ。
 第四章「星から来た魔女」では、銀河連邦から来た広報担当者リョクハネ。銀河連邦はたくさんの異星知性種族によって構成されており、人類は新参者である。
 第一章は十二月中旬、第二章は二月、第三章は夏、第四章は秋と季節はめぐる。各章のなかでひとつずつクリスマス物語が披露される構成だ。それぞれのクリスマス物語の背景として、かつての母星である懐かしい地球の運命、そして人間がたどった切ない歴史が垣間見える。また、SFならではの設定(往年の名作SFを思わせるアイデアが嬉しい)と、クリスマス物語らしいファンタジイ要素(奇跡が訪れる夜)がブレンドされており、それが独特の優しい風合いを醸しだす。
 最終章「さやかに星はきらめき」に至り、季節は冬。キャサリンが一年がかりで編集した本が完成した。書店に並ぶ実物の本、ページをめくる手ざわりのある本。この物語に登場するひとたちはみな、本を愛している。そして、キャサリンのところへ思いがけない人物が訪ねてくる。ここでもうひとつ、新しいクリスマス物語が語られる趣向だ。
 村山早紀はこの作品で枠物語の形式を効果的に用い、過去のひとびとが残した思いを、未来へむかう希望へとつなげてみせる。
(牧眞司)


『さやかに星はきらめき』
著者:村山 早紀,岡本 歌織,しまざき ジョゼ
出版社:早川書房
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