早くも生成AIの反動? 漫画家・ひな姫が語る、アナログ回帰の理由「心の底から感動できるのは手描きの絵」

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2023年11月28日 12:01  リアルサウンド

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デジタル、AIの次はアナログ回帰か

  近年、漫画やイラストの世界ではAIに関する議論が盛んになっている。特にAIに関しては、XなどのSNS上で話題にならない日はないだろう。その一方で関心が高まっているのが、昔ながらの手描き、すなわちアナログの技法によって描かれたイラストだ。各地で漫画家の原画展が盛んに開催されたり、動画投稿サイトでは手描きのメイキング動画なども多く投稿されている。デジタルの進歩が急速に進み、さらにAIが登場した反動で、原点に回帰する動きといえるのかもしれない。


  それまでCGで絵を多く描いてきた漫画家のひな姫も、アナログの魅力に開眼した一人である。11月7日に発売された『くっ殺せの姫騎士となり、百合娼館で働くことになりました』の4巻の表紙の線画もアナログで制作したという。ひな姫はアナログ画材を多く買いそろえ、X上にはアナログのイラストを多数UP、さらにサイン本などでは見事な水彩画を披露し話題になっている。CG、そしてAIが話題になる中で見出される、アナログの魅力とは何か。じっくりと話を伺った。








アナログとデジタルそれぞれのメリット

――ひな姫先生が、万年筆や水彩画材など、アナログな画材に注目されるようになった理由はなんでしょう。


ひな姫:アナログイラスト、特に水彩画を始めたきっかけは、5〜6年ほど前、「マンガ図書館Z」が主催した漫画家が色紙を描くコミッションイベントですね。当時、僕は漫画の作画は完全にデジタルに移行していたのですが、特別な1枚を描き下ろすということで、アナログカラーの画材を探していました。その中で出会ったのが、水彩絵具です。


――ひな姫先生は1999年にデビューされていますが、デビュー当時の画材はアナログだったのでしょうか。


ひな姫:「月刊少年マガジン」で原作付きでデビューしましたが、この頃はアナログでした。その後、2000年代にPhotoshopやComicStudioなどを導入しています。初期の頃は、アナログでペン入れをして、Photoshopでトーンを貼り、ComicStudio4.0で仕上げるという流れでしたね。ComicStudioは4.0になってから性能がよくなり、重宝した記憶があります。


――アナログからデジタルに移行されたとき、メリットとして感じたことはありますか。


ひな姫:デジタルに移行してよかった点は、リテイク(修正)が何回でもできること。間違ってもゼロから描き直す必要がなく、線を引き直したり、色を塗り直したりができるわけです。反転が自在にできるのも良かったですね。アナログの頃は苦手な右向きの顔を描くときは、いったん左向きの絵を描き、透かして裏からなぞっていました。デジタルなら左向きを描いて、ボタン一つで右向きにできます。


――今では当たり前に誰もが使いこなしている機能ですが、それまでアナログで描かれていた方にとっては、何から何まで衝撃だったことのがわかります。


ひな姫:あと、アシスタントをしていた立場からすると、トーン貼りが異常に早くできるのはデジタルの圧倒的な強みだと思いました。トーン切れを起こす問題がないのもいいですよね。締切り直前ほど、大事なトーンがなくなって途方に暮れることがありましたから。




アナログに回帰したのは講師との出会い

――デジタルのメリットを享受したからこそ、再びアナログの魅力に目覚めたわけですね。ひな姫先生はなぜ、水彩画を描かれるようになったのでしょうか。


ひな姫:もともと水彩絵具について関心はあったのですが、ちょうど「世界堂」で水彩絵具の実演販売があったんです。実演をされている講師の方も、販売員の方も、とにかく画材に詳しくていろいろ教えてくれたんですよ。子どもの頃に不透明水彩を使ったことはありましたが、高級な水彩絵具なんて、もちろん見るのも使うのも初めてでした。「これまでの絵具と全然違う!」と感動したのを覚えています。


――「世界堂」の講師のレクチャーで、参考になったことはありますか。


ひな姫:学校の美術では、授業が終わるとパレットを洗わされていましたよね。講師の方は、それではもったいない、と言ってきたのです。絵具をずっと出したままにおけば端で偶然いい色ができていたりするから、洗わないほうがいいとのこと。パレットを育てるという感じでしょうか。これには目から鱗でしたね。


――良い講師と出会えてよかったですね。


ひな姫:筆を選んでもらい、教えてもらった通りに絵具を買い求めました。講師の方がまた来店すると聞いた時には、わざわざ出かけて手ほどきをしてもらったほどです。


水彩特有の表現に魅了される

――さて、ひな姫先生はドイツのSchmincke(シュミンケ)の絵具を愛用されているそうですね。その魅力はどんなところにあるのでしょうか。


ひな姫:何といっても発色がいいので、キラキラした絵に向いています。彩度の高い絵を描くなら、間違いない選択だと思います。個人的に好きな色は黄色系ですね。青色系もパレットで溶いているだけでもきれいで、透明度が高いんです。


――絵具単体のデザインも所有欲を高める雰囲気で、いいですよね。並んでいるだけで美しいというか。


ひな姫:水彩絵具は物自体が綺麗ですよね。そして、気に入った色で色見本を作っていく作業も楽しいです。僕はこの絵具を手にするまでは、イラストは画材よりも腕前が大事だと思っていました。けれども、実際は紙や絵具など、画材によって印象がだいぶ変わるんだとわかりました(笑)。


――紙はどんなものを使っていますか。


ひな姫:紙はドイツのセザンヌというブランドの水彩紙を使っています。水を使って絵具をのばしたとき、水彩らしさが出てきます。水彩特有のぼかしも楽しめますし、グラデーションを塗った時のにじみ具合が好きなんですよ。水遊びのような感覚で楽しめますね。


――ぼかしは水彩の魅力だと思いますが、一発勝負なので失敗するとたいへんですよね。


ひな姫:いえ、水彩は意外とやり直しがきくんですよ。特に、いい紙を使っていると耐水性が高いので、しくじった時に重ねて塗って、修正できるメリットがあります。あと、筆も使っているうちにすぐボロボロになるイメージがありますが、やはり良い筆だと毛先がばらけにくい。1,000円未満の筆とは大違いで、良い筆を買った方が長く愛せるメリットがあります。


仕事でもアナログ絵を描く機会は増えている

――万年筆を使ってキャラクターの線を描くこともあるそうですね。


ひな姫:万年筆は、プレゼントされたのをきっかけに使うようになりました。万年筆って、手紙などの文字を書く筆記具というイメージですよね。絵を描くのにも使えるのかな、と思ったらこれが結構描けるんですよね。1,000円くらいの万年筆でも、顔料インクならきれいな線になりますし、漫画も問題なく描けます。僕は、つけペン(注:漫画家が原稿を描くときに使うインクをペン先につけて使うペン)は紙に引っかかって描きにくいと感じることがありました。対して、万年筆はつけペンよりも滑らかな線が出せますね。












――仕事でもアナログ絵を描く機会は増えていますか。


ひな姫:そうですね。販促でサイン本を描くときなどや、販売用の色紙などには積極的に水彩絵具を使うようにしています。実際、ファンの方にも喜んでいただけるんですよ。


――また、SNSを見るとアナログを始めようという人が増えているように思います。


ひな姫:実は、デジタルは意外と機材を揃えるうえで、高いんですよね。デジタルが出始めた当初は、トーンや絵具など、消耗品の画材を買い足さなくていいから安いという点がメリットとして挙げられていました。ところが、考えてみたら、いきなりタブレットやソフトを買うと数十万円かかってしまうのです。アナログなら数千円から始められる。だから、入門用としてもふさわしいと思います。あと、ずっと付き合える画材が見つかると、絵を描くことの楽しさを忘れないでいられるのかなと最近感じるようになりました。


CG、AIの今後について思うこと

――おっしゃる通りで、子どもがデジタル機器をそろえるのはかなりハードルが高い。対して、アナログは数百円で始めることもできるし、絵を描く醍醐味が味わえるということですね。アナログの需要は今後、高まっていくとお考えでしょうか。


ひな姫:需要というより、僕が感じるのは、アナログ作業はとにかく楽しいということですね。1人でYouTubeの解説動画を見ながら描いていると、1〜2時間ずっと集中しているので、自分でも驚くくらい。友達で集まってみんなで描くのも楽しいです。先日、レンタルスペースを借りて水彩お絵描き会をやったのですが、4時間があっという間でした。


――そういう交流の場はいいですね。


ひな姫:ミニ色紙やATCというとても小さなカードに、オリジナルやアニメの絵を描いて交換したのですが、それをどうやって飾ろうかなんて考えるのもまた楽しくて。ありきたりな言い方ですが、こういう絵は体験も一緒に記録されている特別な一枚ですよね。これは、チェキ人気にも共通するものがあるような気がします。




――この先、CGの鑑賞の仕方なども変わっていくかもしれませんね。


ひな姫:CGは、あれだけの緻密な作画はとにかく大画面で鑑賞したいです。駅のデジタルサイネージで推しの絵を見るような体験を、自宅でもしたい。100号の絵を6畳の自室に飾るのは難しいですが、例えばMeta QuestのようなVR機器で自分だけの空間に好きな絵を大きく飾って、好きな時に鑑賞したら……きっと、楽しいと思うんです。


――昨今話題のAIに関しては、ひな姫先生はどうお考えですか。


ひな姫:AIイラストに限らず、最近、動画生成AIというのを見たのですが、素直に凄いと思いました。ニュースにもなった岸田総理の映像ではなく、かわいい女の子がちょっと動くものです。これでRPGゲームのキャラデザができたら、無限に作ることができそうだなと思いました。


――マスコミでは、漫画家やイラストレーターがAIイラストを毛嫌いしているような論調で語られることが多いですが、実際は少数派ですよね。ひな姫先生も、AIの凄さには感心しておられることがわかります。


ひな姫:そうなんですよ。……ただ、絵を描く仕事に限っては、AIに頼り切ってしまうイラストはどうなのか? と思うことはあります。自分がアナログ絵に戻ってきたきっかけは、先ほどの色紙を描く企画で絵具の美しさに感動したことでした。この感動が相手に伝われば、絵が少々下手でも許されるのではと思いましたから(笑)。言葉が強いですが、AIイラストを見てまだ心の底から感動したことが無いので、読者の方にも伝えたい感動が無くて……感動すれば、ころっと態度を変えると思うのですが(笑)。


――創作には、楽しさや喜びが大事だということですね。


ひな姫:だから、自分は当分アナログを頑張りたいと思っています。アナログは沼ですね。しかも、楽しい沼だと思いますから、おすすめです。


■プレゼント

今回の取材中に、ひな姫が描いた水彩イラストを1名にプレゼント。



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