放送大学名誉教授・高橋和夫氏が日本の中東外交を徹底深掘り!!

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2023年11月30日 06:11  週プレNEWS

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今年7月に岸田首相と会談したサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子。国防や外交の実権を握る

イスラエル・ハマス戦争で混沌とする中東情勢。日本は経済を回す血液ともいえる原油のほぼすべてを中東から輸入しており、アメリカとも欧州とも違う立場で各国と付き合ってきたといわれるが、今後はどうなる? 来年の米大統領選挙が日本と中東の関係に与える影響は?

【グラフ】日本の原油輸入先ほか

* * *

■2019年にサウジで起きた「大事件」とは?

――ハマスがイスラエルに越境攻撃をした10月7日以前の段階で、中東地域のパワーバランスはどんな状況にあったのでしょうか?

高橋 近年の大きな流れは、イランが核兵器保有に向かう動きを止められないと、サウジアラビアはじめ周辺各国が認識したことです。そんな中、2019年にサウジの油田地帯が攻撃される事件が起きました。イランは関与を否定しましたが、誰もがイランの仕業だと考えた。これが二番目に重要な出来事でした。

――では、一番は?

高橋 一番重要なのは、その後に何も起こらなかったことです。サウジはアメリカがイランをやっつけてくれると思った。そのために何兆円もの武器購入契約を結んで爐澆じめ料瓩鯤Г辰討た。それなのにシマが荒らされても助けてくれないなら、もうイランとケンカするわけにはいかない。そこでサウジが謝りを入れ、今年3月には両国の国交回復が発表されました。

一方で、守ってくれるかどうかはともかくお友達は増やしておきたいと、国交回復の仲介役として中国に花を持たせた。また、それらの動きと並行して湾岸諸国はイスラエルとも接近した。このように、みんなが自分の生き残りを考え、パレスチナ問題はそっちのけになっていました。

――国交樹立へ向かっていたサウジとイスラエルの関係、そしてイランの立場は、イスラエル・ハマス戦争によってどう変わると思われますか?

高橋 湾岸諸国は為政者が国民の意向をある程度までは無視できるとはいえ、目の前でこれだけ多くのパレスチナ人が殺されている。事実上関係は続くとしても、近いうちにイスラエルと国交を結ぶのは難しくなりました。

それと、イランとアメリカが思わぬ戦争に転がり込む可能性が出てきた。今はイランもアメリカも、まるで歌舞伎の見み得えとか、空手の寸止めみたいに上手にやっている。

しかし、これだけ米軍が展開する中で、例えば絶対当たらないはずのミサイルが当たってしまって多くの犠牲が出るとか、そういった犹故瓩砲茲辰独新發靴覆い箸い韻覆なる状況が怖いですね。

――イスラエルとハマスは、ようやく4日間の戦闘停止と人質50人の解放で合意したと発表されましたが、戦争の終わりはまだ見えません。どういう状況になればイスラエルは止まるんでしょうか。

高橋 可能性は低いですが、ひとつはイランの影響下にあるレバノンの民兵組織ヒズボラとイスラエルの戦争が始まって、その負担が大きいためにイスラエルがガザ攻撃を止めるというシナリオです。

ただ、常にイランを攻撃するチャンスを狙っているイスラエルに対して、ヒズボラが保有する15万発のミサイルやロケット弾は大きな牽制(けんせい)になっている。イランはこの大切なカードをまだ使いたくないはずです。

また、軍事組織であり政党でもあるヒズボラは、支持基盤の人たちの生活を守る必要がある。ここでイスラエルと本格的に戦えば、その人たちの生活がひどいことになってしまいます。

それより可能性が高く、かつ望ましいのは、やはりイスラエルのスポンサーであるアメリカが本気で止めることです。アメリカの軍事支援なしでは、イスラエルは戦争を継続できませんから。

――バイデン大統領はどこで踏ん切りをつけると考えられますか?

高橋 基本的には来年の大統領選挙を見据え、世論をどう判断するかですね。前回バイデンがなぜトランプに勝てたかというと、ひとつは若い層の投票率が高かったこと。しかし、アメリカの若い層はイスラエル支持に乗り気ではなく、しらけて選挙に来なくなってしまうかもしれない。

もうひとつはアラブ系の存在です。アラブ系アメリカ人は全人口の1.3%程度ですが、スイングステートのひとつであるミシガン州では3%くらいいる。

彼らの多くは前回、民主党に投票しましたが、次回はこのままだと第三党に入れるか、あるいは選挙に行かない選択をする可能性がある。総じて、歴代大統領はイスラエルを支持しておけばノーリスクでしたが、今は事情が違うということです。

■イランが湾岸諸国の油田を破壊する可能性

――次に、日本の立場についてです。そもそもこれまで日本の中東外交は何を目指してきたんでしょうか。

高橋 大きいのはエネルギーの確保です。ただ、日本政府は口ではそう言いつつ、実態としてはマジメにやってこなかったと言わざるをえないと私は思います。

1973年の第1次石油危機のとき、日本の石油輸入の中東依存度は約77%でした。ただし、そのうち半分近くを占めていたイランは供給を止めませんでしたから、本当に危なかったのは全体の40%程度です。

ところが、今の日本の中東依存度は96%。すべて湾岸諸国からで、そのほとんどがサウジとUAE(アラブ首長国連邦)です。革命が起きたら倒れてしまうふたつの君主国にここまで依存するエネルギー政策は異常ですよ。

それに対し、例えば中国の中東依存度は約6割。価格が高くついても、アフリカやラテンアメリカからも買っているからです。日本は商業ベースで企業にやらせていますが、そうなれば当然、みんな一番安くて買いやすい中東に集中する。政府は補助金を出してでもほかのエネルギー供給元を開発すべきです。

――日本とイランの関係はどうでしょうか。アメリカとイランの関係とは少し違う印象を受けます。

高橋 日本が石油危機で学んだのは、アメリカについていくだけでは油が買えなくなる可能性があるということ。だからイランともなんとか仲良くしようとしていますが、やはりアメリカに求められたらイランの石油は買わない。イランから見れば「いいやつだけど頼りにはならない」相手です。

それと、もうひとつ指摘しておくべきことがあります。石油危機の際、日本は「イスラエルは全占領地から撤退すべき」との立場を明確にしました。実際、ガザやヨルダン川西岸地区の状況はイスラエルによる国際法上違法な占領行為ですが、その後はアメリカに気を使ってか、日本政府はあまりそのことをはっきり言いません。

しかし、もしそれでいいなら、例えばロシアがウクライナを占領してもそれを悪いとは言えない。それに、そもそも日本は韓国に対して竹島を返せとか、ロシアに対して北方領土を返せとか言っているわけです。相手がイスラエルだろうがロシアだろうが、占領はよくないという筋を通すのがあるべき姿でしょう。

――中東に日本を嫌いな国はないともいわれますが、実際のところ日本は「都合のいい部外者」か、それとも「情勢に関与しうるプレイヤー」か、どちらでしょうか。

高橋 日本の評判がいいのは間違いありません。部外者か、力があるかは、ちょうど真ん中くらい。あれだけお金を出しているから力がないとは言わないけれど、それをうまく使ってきたとも言えません。

例えば、パレスチナ問題にはアメリカ、EU、ロシア、国連の「カルテット」という4者協議があります。日本はロシアよりよほどパレスチナの支援をやってきたのに、そこに入れていない。

当時の田中眞紀子外務大臣と外務省がケンカしているうちに枠組みができてしまったという事情もありますが、はっきり言えば外務省の失敗です。

それと、日本はパレスチナ自治政府とは付き合っているけれど、ハマスとは付き合いがない。テロ組織に認定しているから当然といえば当然なんですが、実際にガザで支援活動をするなら、支配しているハマスと話をせざるをえない。ノルウェーなどはそうしていますし、日本もそのあたりをもう少し考えてもよかったと私は思います。

――最後に、来年の米大統領選は日本の中東外交にどんな影響を与えるでしょうか。

高橋 もしトランプが勝ったらサウジは喜ぶでしょうね。バイデンもトランプも守ってくれないのは同じですから、人権のことなどあれこれ言わず、ビジネスで付き合ってくれるほうが都合がいい。

逆にイランはおびえるでしょう。1期目では再選を視野に入れてイラン攻撃を控えたとの見方もありますが、今度はもう次を考える必要がない。しかし、イランはアメリカに勝てませんが、あっさり潰れることもありません。

もしアメリカに攻撃されたら、2019年にその力を見せつけたように、米軍基地がある湾岸諸国の油田施設を破壊する可能性が高い。日本としては最悪のシナリオも考えておいたほうがいいと思います。

●高橋和夫(たかはし・かずお) 
放送大学名誉教授。大阪外国語大学ペルシア語科卒業、コロンビア大学国際関係論修士。クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。『アラブとイスラエル』『中東から世界が崩れる』『イランvsトランプ』など、中東情勢を中心に国際政治に関する著書多数。

写真/共同通信社 時事通信社

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