違法手口や密輸ルートも現地で調査! 東南アジアの闇経済を潤す"日本車密輸天国"の実態!

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2023年11月30日 07:21  週プレNEWS

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バンコクの外れにある街・チェンゴンの自動車ショップ。あらゆる車の部品が集積している


今年9月、払い下げられた自衛隊車両が海外流出しているとして防衛省は対応に当たると発表した。だが、問題なのは自衛隊車両だけじゃない。今、あらゆる車種の日本車が海外に密輸されている。そしてその中心のひとつといえる国がタイだ。その実態を突き止めるため、日本の密輸に詳しい関係筋やタイ現地の業者を徹底取材した!

【写真】国内の密輸現場を撮影

■盗難車が行き着く先

「写真はダメだ。軍人たちに見られているかもしれない」

川岸でカメラを構えると、タイ人の男に撮影を制止された。彼が周囲を警戒するのも無理はない。ここは日本から不正に輸出されてきた自動車の密輸拠点だからだ。

タイの首都バンコクから車で北西へ10時間ほど走ると、メソトという小さな国境沿いの街に着いた。茶色く濁ったムーイ川の対岸はミャンマーだ。泳いで渡れるくらい川幅が狭いため、対岸を歩くミャンマー人の姿を、肉眼でもはっきりと見ることができる。


日本政府は、軍が支配するミャンマーを正式な政府として認めない立場だ。そのため今年2月にはミャンマーへの新規ODA(政府開発援助)を停止し、民間人に対しては約80億円の人道支援を行なう方針を決めている。

だが、水面下で日本を代表する工業製品がミャンマー軍や軍幹部らを潤しているとしたら――。

今回、この地を筆者が訪れた目的は、輸入が禁じられた日本の中古車や盗難車が、このメソトを拠点に東南アジアへ売りさばかれているとの情報をつかんだからだ。そして、この街で潜入取材を試みると、自動車密輸の元締とされる人物にたどりついたのだった。

今年10月中旬、千葉県某所で1台の大型トラックが砂ぼこりを巻き上げながらヤードの中に吸い込まれていった。ヤードとは自動車などを修理・解体する作業場で、多くは周囲が鉄の板に囲われて中の様子をうかがい知ることはできない。

「違法なヤードの中では外国人たちが盗難車をバラバラに解体しています。盗んだ車を海外で売り払うためですよ」

そう話すのは、産廃業を営む日本人の男性だ。

全国各地で後を絶たない高級車の盗難事件。今年10月にも、千葉県や埼玉県でレクサスなどの高級車45台を盗んだ外国人の窃盗グループが摘発されたばかりだ。

こうした窃盗団は、「ハコ屋」とも呼ばれている。

「ハコ屋の多くは外国人で、盗難車は解体業者に引き渡され、さらに輸出の手配役に引き継がれる」(全国紙の社会部記者)


千葉県では、今年の自動車窃盗の件数が全国で最も多い(今年9月末時点)。ヤードの数も県内に600以上あるとされ、全国有数の規模だ。

警察庁が発表している犯罪統計資料によれは、22年の自動車盗難件数は全国で5734件に上るが、把握できていないものを含めれば、その数はさらに膨れ上がるだろう。

日本損害保険協会のまとめでは、全国で盗難被害に遭った車種として多いのが、ランドクルーザー、プリウスなど(2022年調査分)で、高級車も目立つ。

「日本車は性能が良く海外では人気です。しかし、海外には中古車の輸入規制がある国も多い。例えば、パキスタンやバングラデシュなどは輸入できる車の年式に規制があり、古い車は輸入できません。ところが、窃盗グループは輸入規制がある国々にも車を密輸できるルートを持っているのです」(前出・産廃業者)

そうした輸入規制がある、代表的な国のひとつがタイだ。タイでは19年に、海外からの中古乗用車の輸入を原則禁止する省令を出した。しかし、タイ国内を走る車の約8割以上が日本車で、その中には中古車が多く紛れ込んでいるのだ。

■業者が語る密輸のテクニック

取材を進める中で出会った、ある在日パキスタン人男性は、匿名を絶対条件に、タイへ中古車を密輸する手口を教えてくれた。そのひとつが「ニコイチ」と呼ばれる手法だ。

「ヤードの中で車の屋根、ドアを取り外し、ボティをまっぷたつに切断する。後でつなぎ合わせやすい形で切るんです。それをコンテナに積み、部品や鉄くずとして、タイのレムチャバン港に運ぶ。港でトレーラーに載せ換え、コンテナはメソトに運ばれる」

そして現地に着いた後、部品を組み立てて元どおりの姿にするのだ。

「車種にもよりますが、1000万円で販売される中古車を切断して送ると、およそ800万円の値がつく。だから、安く買いたい業者からは切って送れと依頼されます」

実は盗難車も、同じルートで海外へと密輸されているという。

「盗難車の場合、車体番号を削れば問題ありません。走行距離を示すメーターも1万5000円ぐらい払えば、日本の業者が改竄(かいざん)してくれる。最近の高級車には位置情報がわかるチップがエンジンの下などに隠されていることがありますが、それもコンピューターで解除できます。程度の悪い事故車だって部品としてさばける」

彼の証言によると、日本からの出国時やタイの港の税関では、コンテナの中身についてほぼノーチェックだという。

「向こうのバイヤーがタイの港で役人を買収しているので、今まで見つかったことはありません」


驚くのは、密輸されるのは、一般的な乗用車だけではないことだ。

〈高機動車流出「車体 自衛隊時のまま」所有のタイ人 解体し輸出、再生〉

読売新聞でこんな見出しの記事が報じられたのは今年9月16日のこと。高機動車と呼ばれる自衛隊車両が、タイの民家にあったことを報じたものだ。本来、払い下げられた自衛隊車両は、機密保持の観点などから海外への持ち出しは禁じられ、国内で解体・破砕し、鉄くずとして処理されることになっている。

木原稔防衛相は9月19日の会見で、約3億円の予算をかけて東南アジアを中心に自衛隊車の国外転売ルートを調査する意向を示した。

別のパキスタン人は言う。

「自衛隊車両は10年以上前から海外に送っている。払い下げた車を扱う業者は宇都宮や新潟などにあり、乗用車と同じようにコンテナに載せて運びます。自衛隊車両とわからないよう車体を白く塗り替えることもあります」

そして、こう続けた。

「メソトには密輸を仕切っている人物がいます。もし彼に接触できれば実態がよくわかるでしょう」

■軍事政権の金稼ぎに使われる日本車

東南アジアを舞台にした日本の中古車密輸ルートを追うためタイに飛んだ。

11月初旬、タイ郊外のミリタリーショップを訪ねた。

「うちはインドやタイ、サウジのブローカーから自衛隊車両を仕入れています。彼らから不定期に買わないかと連絡が入るんです」(店員)

同店では、自衛隊のジープも高機動車も30万バーツ(約120万円)で販売していたが、高機動車にはエンジンがついていないという。

さらにタイには切断された車やエンジンばかりを扱う部品工場街が複数ある。そのうちの2ヵ所を取材すると、どちらも日本車が山積みだった。

「このレクサスは2万5000バーツ(約10万円)だよ」

年式の古いレクサスのフロントバンパー部分だけを売っていた業者は、そう話した。

「記者であることは絶対に隠さなければならない」

X氏の連絡先を筆者に示しながら、ある取材協力者はそうくぎを刺した。

X氏とは、メソトで日本車の密輸を取り仕切る人物だという。そのX氏は取材に応じない上、記者だとバレたら身に危険が及ぶかもしれないというのだ。


タイに渡って5日目、筆者はメソトに到着した。忠告どおり、日本の経営者が観光ついでに事業を視察するとの設定で、X氏とコンタクトを取ることにした。すると意外にもすぐにOKは出て、いよいよ潜入取材を試みることになったのだ。

面会に指定された場所は、X氏の経営する会社。そこは「フリーゾーン」と呼ばれ、関税がかからない特別な地区だった。広大な敷地を白く高い壁が囲み、外から中の様子を見ることはできない。

入り口のゲートではガードマンが厳重に警戒し、こちらの車をひそかに撮影している様子も見えた。敷地に入ると約1000台の日本車が並ぶ。日本でも入手困難な最新型アルファードは、走行距離が"0"だ。レクサスからホンダまで、あらゆる車種を取りそろえていた。そして、従業員に案内されオフィス棟に入ると、ついにX氏との対面のときが来たのである。

「ようこそ」

短髪に浅黒い肌をしたタイ人のX氏。一瞬、怪訝(けげん)そうな表情でこちらを見た後、愛想笑いを浮かべた。太く大きなゴールドの指輪をはめ、腕には金色に光る高価そうな時計。イスラム教徒であるX氏は40代。父の代からここで貿易会社を営んでいるという。簡単な自己紹介を済ませ、彼に自衛隊車両も扱っているかと聞くと、こう話した。

「つい1週間くらい前、4台の自衛隊のジープが届いた」

車はバラバラになって届いたため同社で組み立て、3台はミャンマーに売ったと言った。残りの1台はエンジンが切断されていたため売り物にならなかったと話す。

「自衛隊の車はミャンマーの軍事マニアが買っている」

当初X氏はそう説明したが、後の会話から、こうした車をミャンマー軍の関係者が使っていることをにおわせた。ただ、ミャンマーでは、21年から一部を除き乗用車の輸入は禁止。そのため、自衛隊車や密輸した中古車は国内で車両登録ができず、公道を走れないはずだ。

「もちろんミャンマーで未登録車に乗ると刑務所へ行くことになる。ただ、軍の高官なら新車を買うときにナンバーを多めに発行してもらえるんだ。その余ったナンバーを中古車に取りつければ公道でも乗れるようになる」(X氏)

つまり偽装ナンバーをつけた密輸車が公然と使われているというのである。


日本からフリーゾーンに車を運び入れ、タイ以外の第三国に輸出するビジネス自体は合法だ。ところがX氏の会社では、輸入された部品を敷地内で組み立てて、国内で販売もしている。さらに輸入が禁じられたミャンマーに税関を通さず日本車を密輸しているのである。

「主な仕入先は、信頼できる日本の友人の会社」

そう言ってX氏は愛知県の会社名を挙げた。ほかにも東京、群馬、千葉、大阪に仕入れ先があるそうだ。

そのX氏が敷地内を案内してくれることになった。筆者の後にはひと言も発しないパキスタン人の従業員がついて回ったが、こっそりと会話を録音されていたことに気づいた。

X氏は親日家のようで次第に饒舌(じょうぜつ)になっていき、専用の港を見せてくれると言った。その港は会社の裏手にあり、地元住民も容易に立ち入れない。対岸にはミャンマーが見え、小船が2隻停泊していた。

「この船に車を積んで、向こう岸に運ぶ。向こうで荷を受け取るのはミャンマー軍だ」

そう話し対岸を指さした。ミャンマー側には密輸の際に使う作業小屋が見える。この小屋はX氏がミャンマー軍の幹部に資金援助をして造ったものだと得意げに話した。


「日本からの車はミャンマーの軍人が自分で乗ったり、国内で売って商売をしたりする」

密輸された日本車は軍や幹部の資金源になっていた。話を続けるX氏に、ミャンマーの軍人はビジネス相手として信用できるのかと聞いた。すると彼はスマホを取り出し、不敵な笑みを浮かべながら画面を見せてきた。そこには軍服を着た男がX氏と肩を寄せ合う姿が。

「軍のボスと一緒に写真をたくさん撮っている。この写真があれば相手は裏切れない」

前述したとおり、日本政府はミャンマーの軍事政権を正式な政府と認めていない。しかし、日本から密輸された自衛隊車などの日本車が、タイを経由してミャンマー軍や幹部を潤わせている構図がそこにはあった。

日本車が東南アジアの闇経済に貢献をしている――。今回取材した例は、ほんの氷山の一角に過ぎないのだろう。

取材・文/甚野博則 撮影/郡山総一郎

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