9人に1人が乳がんの時代 約50年患者を支えてきた下着メーカーが今対峙する福祉とビジネスの狭間での葛藤

4

2023年11月30日 08:30  ORICON NEWS

  • 限定公開( 4 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ORICON NEWS

世界的に罹患者数が増加している乳がん
 ガンの治療によって起こる“見た目”の変化に寄り添うケアのことを「アピアランスケア」と言う。近年はアピアランスケア製品の購入費用を助成する自治体も増え、社会的認知が広がりつつある。一方で製品を手掛ける企業側には、「福祉をビジネスにしていいのか?」といった葛藤もあるようだ。アピアランスケア製品を扱って50年余りの歴史がありながら、これまで積極的な宣伝をしてこなかったワコールに、必要な人に製品を届ける使命感と「福祉とビジネスの両立」のジレンマについて聞いた。

【漫画】ある日“しこり”に気づいて…“乳がん”のその後がわかるエッセイ

■1974年に誕生「乳房の手術をされた方からご相談が寄せられるようになったのがはじまり」

 大手下着メーカーのワコールが展開する「ワコール リマンマ」は、乳房を手術した女性に向けて体の負担を軽減し、バストシルエットをきれいに整えるインナーウエアを開発・販売するブランドだ。

「リマンマのスタートは1974年。日本で乳がんの集団検診が少しずつ行われるようになった1960年代半ば頃より、乳房の手術をされた方からご相談が寄せられるようになり、社長直轄の社会福祉課を設置したのがその始まりでした」(ワコール リマンマ課・課長 松本静香さん)

 それから約50年。ユーザーの声に真摯に耳を傾けながら、商品開発を重ねてきた。今年3月に発売された「ぷるるんメッシュパッド」は、軟質樹脂3Dプリント技術を活用することで自然なバストに近い触感と高い通気性を実現。「年々増加の傾向にある乳がん患者に寄り添う術後パッドのあり方を大きく革新するものづくり」として評価され、「2023年度グッドデザイン賞」「グッドデザイン・ベスト100」を受賞している。

「このたびの受賞には大きな自信と勇気をいただきました。ただ、課題はたくさんあります。何よりリマンマそのものの認知をどのように適切に広げていくべきか、今もまだ悩みながら手探りをしています」

■「必要とされる方に届けたい」時代の変化も相まってぶつかった新たな課題

 これまで、ワコールの他のブランドが華やかなCMや広告を打つ一方で、「ワコール リマンマ」では積極的な宣伝活動を行なってこなかった。

「リマンマは社会福祉課の設置から始まったように、営利を追求するものではなく、必要とされる方に届けるブランドです。そのため積極的な宣伝活動はそぐわないとして、これまでは主に病院にカタログやサンプルを置いていただいたり、医師会にご説明するといった認知活動をしてきました」

 乳がんは、女性にとって最もかかりやすいがんであり、心身身に大きな負担がかかる。罹患者の方の気持ちを第一に考えるというブランドの方針も、宣伝を控えた理由の一つだったようだ 。

「ただこうした私たちの考えが結果的に本当に必要とされている方にも届きにくくしているのではないか──。実際、お客さまの中にも手術からだいぶ経ってからリマンマを知ったとおっしゃる方もいて、『このままでいいのだろうか』といった葛藤を感じていました」

 乳がんを取り巻く社会的受容は変わりつつある。かつては罹患をひた隠しにする人も多かったが、昨今はSNSを中心にオープンな情報交換がされている。また北斗晶やアンジェリーナ・ジョリー、元SKE48の矢方美紀など、自身の体験をシェアする著名人も増えた。

「これまでリマンマは必要とされる方に向けて届けたいという思いでいました。しかし乳がんの正しい理解のためにも、必要とされていない方も含めて多くの方に知っていただくことには、大きな意義があるのではないかと昨今の社会変化を受けて考えるようになっています」

 認知を広げる取り組みの第一歩として、今年の夏にはインスタグラムの公式アカウントを開設した。SNSを利用することで、検索機能の一環として活用する方や顧客へより情報を届けやすくなっている。

「フォロワーがなかなか伸びないのが悩みではありますが、お知り合いに罹患を知られたくないというご事情もあるかもしれません。ただフォローはなさらなくても、ふと目に留まる方が1人でも増えることで、ひいては必要とされる方に口コミなどで少しでも早く届くきっかけになることを願っています」

■来年で50年目も「まだ道半ば」 乳がん罹患若年化で高まるアピアランスケアの重要性

 「ワコール リマンマ」の選び方や着用の仕方は一般の下着とは異なるため、専任アドバイザーが相談を受けるリマンマルームを設置している。そのほか無料相談会を全国各地で実施しており、開催予定はホームページやインスタグラム、フリーダイヤルで確認できる。いずれも営利が目的ではなく、試着や採寸、相談は無料だ。

「リマンマルームはプライバシーに配慮してマンツーマンの完全予約制です。ただ全国6カ所と限られていますので、より多くの方に利用していただけるよう、年内にはオンラインの相談サービスも始動する予定です」

 今後は商品ラインナップもさらに充実させたいと松本さんは前向きに語る。

「これまでリマンマではインナーウエアのほかにスポーツ用ブラや水着なども展開してきました。今後も様々な趣味や娯楽のシーンをサポートする商品を通じて生活の質(QOL= クオリティオブライフ)向上と女性の「自分らしく美しくありたい」という気持ちを応援していきたいと思います」

 かつてがん罹患者向けの製品は、体の負担を軽減することに重きが置かれてきた。しかしどんなときも楽しみを諦めることなく、自分らしく美しくありたい。そうした心の豊かさをサポートするアピアランスケアは、がん罹患者の増加とともにますます重要となっている。「ワコール リマンマ」の認知活動は「まだ道半ばです」と松本さんは語るが、約50年目にしてその一歩を踏み出したことには大きな意義があるはずだ。
(取材・文/児玉澄子)

    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定