年商30億円でも赤字! 趣味の本屋・書泉が生き残るために仕掛けた"復刻重版"という突破口

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2023年12月02日 13:21  週プレNEWS

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「鉄道ファンの聖地」や「プロレスの聖地」と言われる神保町の書泉グランデ


東京都は神保町・秋葉原に店舗を構える中規模書店、「書泉」が元気だ。

経営は赤字続きの状態ながら、2023年3月に1冊の書籍を「書泉グループ独占販売」で復刊させ、結果的にシリーズ3作で累計約3万部も売り上げたのだ。3万冊もの拡販につながったのは、「書泉グランデ(神保町)」に勤めるひとりの書店員の発案によるものだった。

出版業界全体で売り上げの落ち込みが続く中、都心部で本を売り続ける「書泉」の内情とはいったいどんなものなのか。約1年前に代表取締役に就任した手林大輔氏に話をうかがった。

■転職先は「赤字書店の社長」

――書泉の社長に就いたきっかけを教えてください。

「普通に転職サイトで見つけたからです(笑)。ミドル用の転職サイトサービスに登録して、ある日サイトを眺めていたら『へぇ〜、社長の公募とかあるんだ』と思って。前職は教育業界にいて、幼児向け知育コンテンツの制作や新規事業立ち上げに携わっていました。キャラクターの音楽コンテンツを作ったり、エンターテイメントを意識した仕事だったので、転職先もエンタメ業界に行きたかったんです」

――書泉はよく利用していたんですか?

「ぜんぜん! 昔、神保町で働いていたんですけど、書泉は素通りしてもっと大きい三省堂さんに......(笑)。書泉か〜、そういえばあそこにあったなぁ、あの本屋さんか!と思って」


――(笑)。今年、書泉が『中世への旅 騎士と城』(白水社)を復刻重版しました。300部買い切り、という特殊な条件がなぜ通ったんでしょうか? 通常、書店の販売形態は出版社へ返品できる「委託販売」です。「買い切り制度」を選択すれば、書店が在庫を抱えるリスクもあるのに......。

「それは、僕がだまされたから(笑)。企画の始まりは、書泉グランデで働く大内学くんというメンバーでした。彼は中世ヨーロッパにも詳しく、中世騎士の甲冑フル装備を自前で用意できるマニアでもあるんですが、彼ひとりの情熱をもって300冊の買い切りによる仕入れに繋がりました。」

――「だまされた」というのは?

「300冊の買い切り、という数字を聞いて、僕が『どのくらいで売れるの?』と聞いたら、『1年で売れます!』とはっきり言い切られたから(笑)。そのときは僕も転職してきたばかりで、はっきり言って委託販売や返本制度のことをあまりよくわかっていなかった。本屋が本を(買い切りで)仕入れて売るのは、別に普通のことだろうと思ってたんです、あはは。」

――蓋をあけると、300冊はなんと2日間で売り切れました。

「ツイッター(現X)で作家のSOW先生がツイートしてくださって2日間で! あっという間でしたね。ちなみに、うちくらいの規模感の本屋だと、新しく出た1作品につき、20冊から30冊動くと「まぁまぁ売れたなぁ」という感覚なんですよ。だから2日で300冊という数字はかなりすごい記録だと思いました。」


――そこでオンライン販売もすることになり、最終的にはシリーズ3作を復活重版し、累計3万冊という売り上げにつながったと。

「『中世への旅 騎士と城』は、元々は歴史を学ぶ本だったと思うんです。でも今回の購入者は純粋な歴史ファンだけではなかった。

歴史ファンの周辺には、中世が舞台のゲームやマンガといった中世ファンタジーのコンテンツファンが多くいます。そしてさらには、そのコンテンツファンを取り囲むように、二次創作を楽しむファンが大勢いたから、そこまで拡大したのではないかと思います。これは予想外でした」


――同じシリーズが3万冊も動いたことで、読者の姿がはっきりと浮かんできたような感じなのでしょうか?

「まさにそうですね。コアな中世歴史ファンから二次創作ファンへと、同心円のように広がっている読者イメージがぼんやりと見えてきた。マニアックな書籍でも、それを必要としてくれる層は、もっとボーダーレスに広がっているような実態がわかったんです。」

――その経験が、さらに次の中世モノである『鉄腕ゲッツ行状記〜ある盗賊騎士の回想録』(白水社)の復刻重版につながった。

「はい。『鉄腕ゲッツ』は、SNS上で中世ファンの方3人ぐらいが『次に出してくれないかな』と呟いていたんですね。で、大内くんに聞くと「売れます!」と。じゃあそれやってみるか、とすぐ決めました」

――次もたった3人の声で買い切りを決定した。

「告知したら、一気に933冊の予約が来ました。これで、書泉グランデだけで『1000冊』という具体的な目標数値をはっきり打ち出せるんだ、と実感しました。税込3080円の本が、うちで約1000冊は売れる。それなら、やっぱり他の分野の本でもやってみようと」


――1000という数字はやはり大きいものですか。

「大きいです。1冊3000円の本であれば、300万円が計上できる。書泉の規模だと、300万という数字が事業に与えるインパクトはかなり大きいんです。300万円が動く書籍イベントを10回やったら、3000万円になるわけですから。さらに1冊の本の売り上げに対し、3〜4割の利益の還元があったら、会社にとってはとてもよい施策になります」

――買取りなら取次を通さずに出版社と直接契約する手法もあるので、書店に入る利益率も少し上がるというわけですね。委託販売の場合、書店側の利益は売った値段の2割程度と聞きます。

「はい。現代の『本屋』というものは、普通に経営していたらまずうまく収支があわない仕組みになっている気がします。昔は雑誌や本がよく売れていたから成り立っていましたが、今では事情が違いすぎます。たとえ日本中の本屋が全部つぶれても、本を買うだけならAmazonがあれば困らないわけですから。僕だってAmazonは便利だなって思いますよ」

――注文したら2〜3日で届きますしね......。

「そうなんです。だけど、僕はそれでもやっぱり『本屋はなくならないよ』と思っています。それは本を買う以外に、書店にくる理由がお客様に対して創れると思っているから。雰囲気やイベント、予想していない本やグッズとの出会いを楽しむために足を運んでくれる。だから店側は、お客さんが来てくれる理由をしっかり作り続けないといけない。

ただ、今の時代に書店経営できちんと稼ぐためには、年商を100億にするか、あるいは月商100万ぐらいで、とにかく自分ひとりだけご飯を食べられればいいやと割り切るかのどちらかではないか、と僕は思うんです」


――紀伊国屋書店を目指すか、最近流行りの個人書店になるか......中規模の書店経営は特に厳しい。

「書泉の年商は30億円はあります。ところが30億でも赤字経営ってとっても不幸だなと僕は思ったんですね。じゃあどうするか?といったとき、やはり利ざやを稼ぐしかないと。つまりは"本屋発"の商品を作るしかないだろうな、と単純に考えたんです。」

――そして書泉限定発売の復刻重版につながった。

「そもそも書籍は、販売を終了する商品の方が圧倒的に多い。世の中には、かつては出回っていたけども、もうすでに売っていない本がたくさんとあります。その中から、もう一度『自分たちが売りたい!』『たくさんの人に読んで欲しい!』と思うものを選んで売れば、結果的にはオリジナル商品を作っていることに近いわけです。」

――書店員さんの発案によって書籍を復活させ大きく売り上げたことは、SNSや新聞で大きな話題を呼びました。

「『中世への旅』シリーズ3部作は、コンテンツをいちから作らず、『書泉にしか無い本』を売ることができるという貴重な経験になりました。書泉独自の買い切り本を作れば、書泉で買う理由や書泉にわざわざ来る理由ができるわけです。そして原価面でいっても、書店側に入る利益の割合が通常より上がる。こういう流れが見えたので、今後も挑戦し続けるべきだ、と思いました。」


――ただ最終的に『中世への旅』シリーズは、書泉専売でなく全国の書店で買えるようになりましたよね。

「それは、うちだけでは届く層がやはり限られてしまうと感じたからなんです。12書店128店舗が加盟している「大田丸」という法人で、共同販売事業に参加しているんですね。ここで『他の書店さんも販売してみますか?』と聞いてみた。すると京都の大垣書店さんと、東京・町田の久美堂(ひさみどう)さんが仕入れることになりました。ただ久美堂さんは書泉グランデと同じ東京の店舗です。うちで売れたあとに、久美堂さんで同じ本が売れるか、ちょっと心配でした」

――京都の書店であれば、関西圏ということで読者のニーズがまだありそうです。でも町田の人なら、すでに書泉で買ってしまっている可能性は高いですよね。

「でも結果的に、久美堂さんでもしっかり売れたそうなんです。それを聞いて、『町田のお客さんまで書泉グランデの声が届くわけじゃない。自分たちの販売力だけではまだまだ』だと思い知らされました。

たったひとつの書店が独占的に再販して終わりというのは、やはり非常にエゴイスティックだと。そこで『いろんな人に本を届ける』ために普通に版元の白水社さんから全国の本屋さんで買ってもらえるようにしてもらいました。もちろん自分たち専売の本をゆくゆくはいろんな同業のお店と組んで販売してみたいなとも考えています」

■手林大輔(てばやし・だいすけ)
株式会社書泉・代表取締役社長。1970年生まれ、富山県出身。1993年から2022年7月まで、教育業界大手会社の幼児向けコンテンツ制作分野にて活躍。2022年7月に退職し、同年9月より現職。スーツを着用することは少なく、Tシャツスタイルで現場に赴く

■株式会社書泉
都心と関東近郊を中心に「書泉」、「芳林堂書店」の4店舗を展開する。神保町「書泉グランデ」、秋葉原「書泉ブックタワー」はアイドル・鉄道・格闘技などなどエンタメ各分野の専門書籍に強く、キャッチフレーズは「アタマオカシイ本屋」。親会社は株式会社アニメイトホールディングス 
「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」特設ページはこちらから

取材・文/赤谷まりえ

【写真】書店なのにフロアに並ぶ「甲冑」(私物)

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  • 国会図書館のデジタル配信が進んでも、実際に手に取りたい層はあるわけで、実需の調査次第ということかもしれませんね。
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