サッカー日本代表の2023年を福田正博が評価 上田綺世の存在感アップに「久保竜彦と同じレベルの身体能力がある」

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2023年12月03日 10:11  webスポルティーバ

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福田正博 フットボール原論

■11月のW杯アジア2次予選2連戦に快勝したサッカー日本代表。福田正博氏に2023年の森保ジャパンの成長を評価してもらった。

【攻撃力が落ちない日本代表】

 サッカー日本代表は11月のW杯アジア2次予選で、ミャンマーにホームで5−0、シリアにアウェーでも5−0と2連勝した。「格下相手に勝ったくらいで」という意見もあるが、格下といえども何が起きるかわからないのが"本番の難しさ"。そのなかで、相手をしっかり圧倒したことを評価している。

 実はこの2試合を観ながら、日本代表への考えを改めた部分がある。9月のヨーロッパ遠征での親善試合でドイツ代表に勝った頃は、「ピークが来るのが早すぎるのでは?」と心配していた。しかし、それ以降の試合を観ながら、「まだ日本代表はピークを迎えていない」と考え直している。

 ここでいうピークとは、コンディションの意味合いではない。力が頂点に達したという意味だが、日本代表の力はまだまだ向上する余地が大きいと感じた。

 その理由のひとつは、攻撃陣のメンバーが流動的に起用されているなかで、誰が出場しても攻撃力が落ちないところだ。11月シリーズは三笘薫(ブライトン)を故障で欠き、中村敬斗(スタッド・ランス)、前田大然や古橋亨梧(共にセルティック)も代表活動には不参加。それでもまったく攻撃で手詰まりになることがなかった。

 それが可能だったのは、上田綺世(フェイノールト)が存在感を示してくれたからだ。彼にはカタールW杯以前から大きな期待を寄せていただけに、ようやくといった気持ちもある。だが、彼の秘めるポテンシャルはこの程度ではないだけに、今後は三笘や久保建英(レアル・ソシエダ)といった周囲の能力の高い選手たちとの連携力が高まっていった時に、どんな活躍を見せてくれるかは楽しみでならない。

 上田に期待する理由は、彼のように最前線でボールをおさめられるFWが日本代表に加われば、戦い方のバリエーションが増えるからだ。以前は大迫勇也(ヴィッセル神戸)がその役割を担っていたが、大迫が代表を外れるようになってから1トップを務めた前田、古橋、浅野拓磨(ボーフム)といった選手はタイプが異なる。彼らの持ち味はスピードでDFラインと勝負するところだ。

 ただし、上田にもDFラインの裏を取るスピードはあるし、なにより彼には圧倒的な身体能力の高さがある。その能力の高さは久保竜彦(元サンフレッチェ広島、横浜F・マリノスほか)と同レベルだと思っている。Jリーグが始まって30年が経つが、歴代日本代表のなかで久保竜彦ほどフィジカル能力の高かった選手はいない。

 久保竜彦はその高い能力を生かした奇想天外なプレーを見せたのでわかりやすかったが、上田は教科書通りのプレーをすることが多いだけに身体能力の高さは目立たない。だが、上田が何気なくやっているプレーのなかには、実は身体能力が高くなければできないことが多いのだ。

 例えば、相手がいながらもジャンプして来たボールを胸でトラップするプレー。これを試合中にやれるFWはJリーグには少ない。久保竜彦、上田のほかは、こうしたプレーができるのはFW起用された時の田中マルクス闘莉王(元浦和レッズほか)くらいだった。

【メンバーの年齢構成のバランスが取れている】

 また、いまの日本代表は、選手たちの年齢構成のバランスが取れていることが好成績につながっている面がある。

 30歳前後の遠藤航(リバプール)、伊東純也(スタッド・ランス)、南野拓実(モナコ)などの経験ある選手たちがいるが、チームの主軸は三笘、冨安健洋(アーセナル)、板倉滉(ボルシアMG)などの東京五輪世代だ。今年から新たに日本代表に招集されている毎熊晟矢(セレッソ大阪)もここに名を連ねるが、この世代の選手層の厚さ、レベルの高さがいまの日本代表の強さの根幹となっている。

 この世代がここから選手として成熟期へ向かうのに加え、その下のパリ五輪世代を含めた若手選手たちが頭角を現わしつつあることも、日本代表への見方をまだ伸びしろがあると変えた理由だ。

 左MFで三笘に次ぐ存在になりつつある中村、右サイドバック(SB)の一番手になりつつある菅原由勢(AZ)、11月の日本代表戦に追加招集されて日本代表デビューを飾った佐野海舟(鹿島アントラーズ)は2000年生まれ。

 佐野はミャンマー戦の後半開始から出場したが、堂々とプレーしていたことに頼もしさを覚えた。持ち味のボールを奪うところだけではなく、攻撃面でも積極的な姿勢を見せてくれた。相手が格下だったとはいえ日本代表のデビュー戦で、味方の錚々たる顔ぶれに萎縮してしまうケースもあり得たなかで、あのプレーぶりだ。

 守備的MFの序列で遠藤、守田英正(スポルティング)に次ぐ3番手にしてもいいくらいだったし、実際にそうなる日は遠くないのではと思っている。

 こうした若い世代の台頭を期待しているポジションがSBだ。右は一番手に菅原由勢がいて、毎熊晟矢が二番手としてサポートする形ができつつあるが、左も同じようになれば、ますます楽しみが増すはず。

 現在の左SBは中山雄太(ハダースフィールド)と伊藤洋輝(シュツットガルト)が務めているが、どちらの選手も守備やフィードのところでの安心感はあるものの、スプリントのスピードが足りない。相手や試合展開に応じて中山や伊藤と使い分けができるスピードのある左SBの台頭を期待している。

 なぜなら左MFには三笘という個人技で勝負できるカードがいるからだ。左サイドでスピードのある選手がオーバーラップして三笘への相手マークを剥がせれば、三笘の攻撃力をさらに活かせる。

【テレビ中継がないことが心配】

 これで年内の日本代表活動は終わりになる。W杯アジア2次予選は3月から再開されるが、その前に1月にはアジアカップが控えている。日本代表は1月1日に国立競技場でタイ代表との親善試合から2024年の幕を開ける。今年以上のすばらしい一年に向けた船出となることを期待している。

 最後に日本代表のテレビ中継について触れたい。今回のW杯アジア2次予選ではシリア戦の試合中継がなかった。放映権は、W杯本大会はFIFA、アジア最終予選はAFCが持っているが、アジア2次予選は各国サッカー協会にある。今回はシリアとの交渉において折り合いがつかずに中継を断念したとのことだが、本当に残念だった。

 日本代表の試合は限られた数しかない。そのなかでライト層をどれだけ巻き込めるかは大きなテーマだ。サッカーファンだけが支持してくれればいいという考えもあるが、そこにライト層を巻き込んでいくことが大きなうねりになり、競技の発展へとつながっていく。

 今年3月に行なわれた野球のワールドベースボールクラシック(WBC)を思い出してもらえればわかりやすいだろう。野球ファンの熱量だけで、日本中があそこまで盛り上がることはなかったはずだ。

 WBCとW杯アジア2次予選の格下との対戦を同列にするわけではないが、スポーツが発展していく観点に立てば、何とか中継にこぎつけられなかっただろうかと思う。

 つまり懸念しているのは、今回のシリア戦が前例になってしまうことだ。今後同様の状況になった時に、シリア戦という前例があるからと中継を見送る判断をしやすくなってしまわないか心配している。

 中継されないことが重なれば、ただでさえ試合数が少ない日本代表は、サッカーファン以外にとっては馴染みの薄いものになってしまう。これから先も日本サッカーが発展していくにはJリーグも大事だが、やはり日本代表の盛り上がりも欠かせないだけに、今後は中継されない事態が起きないようにしてもらいたいと思う。

福田正博 
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。

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