東京ヴェルディが示すJ1昇格以上の価値 J2の15年間にも「緑の勇者」は日本サッカー界に多大な貢献を果たしてきた

1

2023年12月04日 06:21  webスポルティーバ

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真

 J1からJ3までJリーグには日本全国に多くのクラブがあるなかで、誤解を恐れずに言えば、東京ヴェルディは必ずしもJ1に昇格する必要のないクラブだった。

 もちろん、彼らがそれを目指していないとか、それにふさわしい力がないとか、言いたいわけではない。J1に昇格せずとも、Jクラブとしての本分のひとつである選手育成において際立つ成果を残している、という意味においてである。

 Jリーグに属するクラブの多くは、日本最高峰リーグであるJ1を目指し、そこでの優勝を夢見ているはずだ。必ずしもそうではないクラブがあっても、それぞれの目標に応じてチームを強くしたいという気持ちに変わりはないだろう。

 チームの「強化」は、Jクラブとしての本分。何より強化し続けなければ、J1にたどり着くどころか、J3にとどまることさえままならなくなる。

 だが、それと同時に、Jクラブには選手の「育成」も求められている。

 Jリーグが各クラブにアカデミー(育成組織)の保有を義務づけているのは、単にトップチームが強くなればいいというのではなく、選手育成もまたクラブの大事な役割だと考えているからだ。

 現在Jリーグでは、J1からJ3のカテゴリーによって人数の違いはあれど、ホームグロウン(HG)選手の登録も義務づけられている。

 HG選手とは、ひと言で言えば、クラブが自前で育てた選手のこと。21歳までの間に3年以上在籍することで、そのクラブのHG選手としての条件を満たすことになるが、その多くはアカデミー出身者である。

 しかし、アカデミー出身の選手をトップチームで活躍するまでに育てるのは、決して簡単なことではない。

 参考までに今季J2最終節全11試合のメンバーリストを見てみると、控えも含めた登録メンバー18人のなかにHG選手が2人以下だったクラブは16もあり、うち6クラブは1人も入っていなかった。強化と育成の両輪を駆動させ、クラブを運営していくことが、どれほど難しいかを物語る数字だ。

 そんななか、東京Vのそれは4人。ジュビロ磐田の8人、大宮アルディージャの7人に次ぐ人数のHG選手が登録されているのである。

 しかも、東京Vにおいて特筆すべきは、自前のアカデミーで育てた多くの選手をトップチームでプレーさせているだけでなく、上位カテゴリーであるJ1のクラブから求められるほどの選手を多数育てていること。つまりは、他クラブで活躍しているアカデミー出身選手が非常に多いということだ。

 中島翔哉、前田直輝ら、他のJ1クラブを経て海を渡った選手もいれば、畠中槙之輔、渡辺皓太のようにJ1制覇に大きく貢献した選手もいる。

 最近では、山本理仁、藤田譲瑠チマというパリ五輪世代の中心選手が、東京Vのアカデミー育ちだ。

 その他も含めてJ1クラブ、あるいは海外クラブでプレーする現役選手は数多く、仮にJクラブがアカデミー出身者だけでチームを編成するとしたら、おそらくJ最強チームが完成するのは東京Vで間違いないだろう。

 三笘薫が川崎フロンターレで、遠藤航が湘南ベルマーレでそうであるように、アカデミー出身者の活躍は、たとえそれが他クラブでのものであっても、それぞれのクラブの"勲章"であることに変わりはない。

 加えて、ある特定の時期に限らず、現在進行形でコンスタントに優れた選手を輩出しているという点においても、東京Vの育成力は特筆に値する。

 とはいえ、結果として卓越した育成力が仇となり、トップチームの戦力を安定させることが難しくなったことも否めない。

「このチームは毎年主力が流出している。私が就任した去年も、夏に2人、オフに4人が移籍した。シーズンが終わったら主力がいなくなるのが当たり前だった」

 チームを率いる城福浩監督がそう話しているとおりだ(移籍した全員がアカデミー出身選手だったわけではないが)。

 J1クラブから求められるほどの選手がアカデミーから育っていることは誇らしい反面、喜んでばかりはいられない現実があるのもまた事実。皮肉なことに、育成が成果を挙げれば挙げるほど、トップチームの強化は厳しい状況へと陥っていった。

 東京Vが最後にJ1を戦った2008年からJ1復帰まで15年もの月日を要したのは、育成の大きな成果と表裏一体の代償を支払わされたことと決して無関係ではないだろう。

 しかしだからこそ、そんな東京VがついにJ1昇格を手にしたことには、名門復活というだけではない意味がある。

 今季J2で常に上位争いを繰り広げてきた東京垢蓮J1自動昇格となる2位以内に入ることはできなかったが、J1昇格プレーオフ進出クラブでは最上位となる3位を確保。J1昇格プレーオフ決勝では清水エスパルスと1−1の引き分けに終わったものの、"引き分けでも勝ち上がり"というリーグ戦上位のアドバンテージを生かし、今季J1昇格筆頭候補だった清水を退けた。

 小学生時代から東京Vのアカデミーで育った、キャプテンのMF森田晃樹がうれしそうに語る。

「今まで積み上げてきたものはいっぱいあるが、一番はリカバリーパワー。ミスしても周りの選手が取り返すとか、リカバリーする。その言葉の裏にはどんどんチャレンジしていけという意味もあって、それが今日の試合でも、すごく大きな力を持ったと思う」

 かつてJリーグ初代王者として栄華を誇った"緑の勇者"も、J2で過ごす時間が長く続き、潤沢な予算で望むままに選手を集められるクラブではなくなった。

 だが、その間、魅力ある選手を何人も育て上げ、日本サッカー界に多くの人材を送り出してきてもいる。決して無為に時間を過ごしてきたわけではない。

 優れた人材を輩出し続け、育成の成果と表裏一体の困難も受け入れ、ようやく手にした強化の成果。そこには単なるJ1昇格という以上の価値がある。

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定