慶應幼稚舎初のプロ野球選手 廣瀬隆太の魅力はクソボールを本塁打にする「遠心力打法」

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2023年12月04日 10:31  webスポルティーバ

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 あのホームランは、一生忘れないだろう。昨年のちょうどいま頃だ。愛媛・松山の坊ちゃんスタジアムでの大学日本代表候補強化合宿。つまり、日の丸を背負って戦う大学ジャパンメンバーのオーディションだ。

 選手たちの"実戦力"を試すために行なわれた紅白戦で、両翼100m、センター122mの広大な坊っちゃんスタジアムの左中間の一番深いところ、しかも最上段にライナー性の打球で叩き込んだ選手がいた。飛距離はおそらく140mぐらいだろうか。さらに打った球が「155キロ」の剛速球だったから、二度驚いた。

「そうですね......まあ、真っすぐ一本狙いだったんで、出会い頭と言えば出会い頭かもしれませんね」

 そう涼しげな表情で語ったのが、驚愕のホームランを放った慶応義塾大の廣瀬隆太だ。

 クール......いやいや、クールなヤツが155キロの球を140mも飛ばせるわけがない。表現するとすれば、クールよりも"フラット"だろう。

【次々に飛び出す驚愕のアーチ】

 この秋、廣瀬は最後のリーグ戦の早慶戦でも、レフトスタンドに突き刺さるホームランを放った。そしてそのあとの明治神宮大会でも、いかにも彼らしい奔放で豪快なバッティングを披露して、日本一の原動力となり、有終の美を飾ってみせた。

 廣瀬は、ただの長距離砲ではない。明治神宮大会の準決勝、日本体育大との一戦。その第2打席で、廣瀬はカットボール気味のボールにタイミングを外され、腰砕けのような格好で三塁線にファウルを打った。見た目カッコ悪い打ち方になった時の廣瀬は、次のスイングが怖い。心身の緊張がほぐれ、しっかり修正してくるからだ。

 そして次のスイングで、アウトにはなったが痛烈な打球を三遊間に放った。

「振れてるな、今日の廣瀬......」

 案の定というか、次の打席だ。小さく変化した外角高めに浮いたボールをレフトスタンドに放り込んだ。打った瞬間、ホームランとわかる豪快な一発。レフトの選手は、振り向きもしなかった。

 外角高めを右中間に......というのならわかる。それを引っ張って、スタンドに放り込めるのが廣瀬の怖さだ。バッテリーにとって想定外のバッティングをされるほど、怖いものはない。

「とにかく大きなスイングで打ちたいんですよ。よくドアスイングとか言われるんですけど、僕の場合は、大きなスイングの渦の中にボールを巻き込むように打つイメージ。遠心力打法って言うんですかね」

 さらに、その次の打席がもっとすごかった。今度は内角のストレート。しかも顔ぐらいの高さのボールを左脇は締め、右腕だけで引っ叩いた打球は、さっきよりも低い弾道でレフトスタンドに突き刺さった。

「あの高さのボールを打つのか」という驚きと、「ファウルにならずにホームランにした」という驚き。廣瀬は自分のストライクゾーンで打てる打者だ。だから、あり得ないボール球でも廣瀬にとっては絶好球となる。

【慶應幼稚舎初のプロ野球選手に】

「頭の高さぐらいだったら、平気でスタンドに放り込みますから。実際にアメリカでそういうホームランを打っていますから、隆太は。ピッチャーとしてあり得ないバッティングをされたら、もう攻めようがないです」

 そう証言するのは、ジャパンでチームメイトだった大阪商業大の上田大河(西武ドラフト2位)だ。

 俗に言う「クソボール」をホームランにするには、腕っぷしの強さではなく、技術がないとできない。

「基本、レベルスイングです。フライボール革命でしたっけ......。ああいう無理やりボールを上げるようなスイングはしません。気持ち、ヘッドを立てるようにして、大きなスイングをすれば、自分の場合、打球は勝手に上がっていきますんで」

 これまでハイレベルなアマチュア野球で、廣瀬のような打者を見たことがない。見ようによっては幼さすら感じるようなスイングから、大人でもビックリするような打球を飛ばす。そんなオリジナティーの塊みたいなホームランバッターだから、魅了されてしまう。

 すでに報道されているように、廣瀬は幼稚舎からの生粋の"慶應ボーイ"。そして今秋のドラフトでソフトバンクから3位指名を受けた。聞けば聞くほど、うらやましくなるような環境と才能に恵まれてきたが、来季からはプロ野球という大舞台に挑む。

 スイングの"典型"を重んじる指導者からすれば、「ええっ⁉︎」と思うようなバッティングスタイルかもしれないが、考えに考え、試行錯誤を繰り返した末にたどり着いた「遠心力打法」だったはずだ。

 プロは打ったもん勝ちの世界。どんなに理屈が立派で、スイングが美しくても、結果を残さなければ存在意義はない。一方で、どんなに不恰好な打ち方でも結果さえ残せばOKなのがプロの世界だ。

「廣瀬のホームランを見に行こう!」

 そんな選手になってくれたらいいなと思う。見たこともないスイングから、胸がスカッとすくような豪快なアーチを放ってほしい。

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