大谷翔平のドキュメンタリー映画の監督が感じた、地方から規格外スターが生まれた理由「都心だとスケールダウンにつながるリスクもあった」

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2023年12月06日 10:41  webスポルティーバ

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大谷翔平ドキュメンタリー映画

時川徹監督インタビュー 後編

(前編:大谷翔平の緻密な目標に松井秀喜が驚き 時川徹監督が明かす制作秘話>>)

『ディズニープラス』で配信されている大谷翔平のドキュメンタリー映画『Shohei Ohtani - Beyond the Dream』。大谷本人や関連の深い人たちへのインタビューを通じて、二刀流への挑戦と大成までの経緯に迫っている。

 本作の監督を務めた時川徹氏へのインタビュー後編では、大谷の地元・岩手で感じた規格外のスターが育つ要因、プレー以外で「天才」と感じた部分に関して語った。

【規格外のメジャーリーガーが誕生した理由】

――大谷選手が生まれた岩手県は、菊池雄星投手(ブルージェイズ)、佐々木朗希投手(ロッテ)など、球界を代表する逸材を輩出してきた地域でもあります。時川監督がロケで感じた岩手県の印象や、多くのスター選手が誕生している理由などを聞かせてください。

「作中で大谷選手が『普通の人になりたい』という目標を書いていましたが、地元の方いわく、『とにかく普通でいたい』と思っている人が多いと聞く岩手の県民性も影響しているそうなんです。"普通"でいることが美徳とされる地域で、なぜ規格外のメジャーリーガーが誕生したのか。その理由を僕なりに考えてみた結果、『大谷選手が自由にのびのびと過ごせる環境が整っていたことが大きいのではないか』という結論に至りました。

"地方"だからこそ、やりたいことをやれたのではないかと。長年の伝統や厳しい上下関係が重視されるような都会のマンモス校に通っていたら、大谷選手は二刀流に挑戦できなかったかもしれない。都心部でレールに乗っかったような人生を送らなかったからこそ、スケールの大きな選手になれたんじゃないかと僕は思っています。

 今作に登場するマイク・トラウト選手やペドロ・マルティネズ投手、石川県出身の松井秀喜さんも都会ではないエリアで生まれ育ち、スターへの道を歩んでいます。穏やかで伸び伸び過ごせる"地方"で、自分のやりたいことを突き詰めることによって育まれる才能もあると思いますし、岩手から大谷選手をはじめとするさまざまな有力選手が誕生する一つの理由になっているんじゃないでしょうか」

――作中で紹介されている、高校1年生の大谷選手が書いた「8球団からドラフト1位指名を受ける」という夢にもスケールの大きさを感じました。

「よくも悪くも、まだ現実を知らなかったからこそ、自由な夢が見られた部分はあるのかなと思いました。先ほどの話につながりますが、プロ野球などの情報も多く入ってくるだろう都心の名門校に通っていたら、周囲に対する遠慮や恐れの気持ちが芽生えて、スケールダウンにつながるリスクもあったと思います。思い描いた夢をそのままの形で実現させていくすごさや、未来の可能性を信じることの大切さは、僕も作品作りを通して感じた部分です」

――大谷選手は大きな夢を描く一方で、幼少期から野球の基本を大切にしてきた印象もあります。

「そうですね。野球を始めた時から、『何事も一生懸命やる』とか『打ったら全力で1塁まで走る』というところを意識していたのがわかりました。そのあたりも、野球に対して真摯に向き合っていることの現れなのかなと思います」

――日本ハム時代に背番号11を譲り受ける形になったダルビッシュ有投手(パドレス)との対談では、国籍などに言及する場面もありましたね。

「ダルビッシュ投手はイランにルーツがあるので、幼い頃からさまざまなことを経験してきたことも大きいでしょうが、踏み込んだ発言を聞いた時に『勇気があるな』と思いました。MLBはさまざまな国籍の選手たちが活躍しているように見えますが、アジア人選手の割合はたった数%にすぎません。

 彼らが直面する可能性があるのは、露骨な人種差別というよりは、日本でも話題になることがある"体育会系の悪ノリ"に近いんじゃないかと。アメリカだけの問題ではなく、日本にも同様に存在しているものだと思います」

――対談の際、会話のトピックはどのように決めていったんですか?

「僕が事前に聞きたいトピックを提示して、その後は流れに任せて進めていきました。前振りはほとんどなく、2人の会話のキャッチボールがそのまま収められています。とにかく、アットホームでリラックスできる環境を整えることに腐心しました」

【当たり前のことを、当たり前にできる天才】

――日本ハム時代の監督である栗山英樹氏に、大谷選手が「本当に二刀流ができると思っていましたか?」と、問いかける場面もありました。栗山氏との出会いは「二刀流」の実現に欠かせなかったように思うのですが、2人のやりとりをどのように見ていましたか?

「これは僕の憶測にすぎませんが、どんな指揮官の下でも大谷選手は二刀流に挑戦し、素晴らしい結果を残せたんじゃないかと思います。二刀流を実現できた一番の要因は、やはり大谷選手自身が『二刀流を成し遂げられる』と信じていたことにあると思います。

 ただ、栗山さんも『オートマシーンの歯車』という例えをしていましたが、大谷選手の『二刀流に挑戦したい』という気持ちを汲み取り、実現させるまでの道のりを整えていった栗山さんとの出会いは重要だったと思いますね」

――満票でア・リーグMVPを獲得した2021年には、キャンプイン当初に「二刀流のラストチャンス」という声もありましたが、それをはねのけて見事に結果を残しましたね。

「おそらく、厳しい状況を乗り越えることさえも、大谷選手にとっては"普通"のことにすぎないのでしょう。僕から見て、大谷選手は"当たり前のことを、当たり前にできる天才"に映りました。他の人にとっては特別なことであっても、大谷選手にとっては自然なことにすぎない。『特別なことをしている』という感覚はあまりないんじゃないかなと思いました」

――「将来は大谷翔平選手のようになりたい」と思う子供たちが多いと思いますが、周囲の大人たちはそれをどのように見守るべきだと思いますか?

「現在の大谷選手の目覚ましい活躍は、本人の強靭な意志と努力、栗山さんをはじめとする周囲の方々が大谷選手の性格に合った方法を取り入れて、挑戦を全力でサポートしたことによるものだと思います。きっと『その子の個性に合った育て方』があると思うので、それを見極めながら、できる限り大人は型にはめようとせずに、そっと見守りつつ、適度に放っておくくらいが丁度いいんじゃないかと思います」

◆大谷翔平のドキュメンタリー映画『Shohei Ohtani - Beyond the Dream』

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【プロフィール】
時川徹(ときかわ・とおる)

ロサンゼルスを拠点とする映像監督。幼少期をアメリカとインドネシアで過ごす。東京大学を卒業後、広告代理店の電通でCMプランナーとしてキャリアをスタートしたあとに独立。パリとロンドンで音楽とファッション業界のディレクターとフォトグラファーとなり、映像制作の道に入る。短編映画『NOODLE SOUP』と『A BOX』は、ボストン、サンパウロ国際映画祭、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、レインダンス映画祭などに正式上映され、『浮世絵ヒーローズ』はHotDocsに正式出品された。伝説のロックバンドKISSとの音楽ドキュメンタリー 『KISS vs. MCZ 』はメルボルン国際ドキュメンタリー映画祭のオフィシャル・コンペティションに選出され、ニューカッスル国際映画祭ではブレイクスルー・フィルムメーカー賞を受賞した。現在はロサンゼルスを拠点とする企画制作会社RIVERTIME ENTERTAINMENT INCの代表を務める。

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  • 父が田舎育ちで文武両道の銀行員になり、僕を含む3人の子供たちは都会育ちで運動音痴になったのと同じで、田舎の子供は毎日すごく運動するから。
    • イイネ!4
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