金曜ロードショーで話題の「ズートピア」をレビュー “努力主義”が力を失った2023年現在、ジュディになれなかった我々はどう生きるべきか?

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2023年12月11日 14:30  Fav-Log by ITmedia

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「ズートピア」(出典:Amazon)

 12月8日の金曜ロードショーで放送され、再び話題を呼んでいる「ズートピア」。ディズニー長編アニメーション全61作からリクエストで選抜されたラストの作品ということもあって、SNSでトレンド入りするなど盛り上がりを見せています。

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 文明化された動物たちの楽園”ズートピア”で描かれる、ウサギの警官ジュディと詐欺師ニックによる傑作バディームービー。アニメーションとしての楽しさが詰まっているのはもちろん、”分断”など社会的なテーマにも切り込んだ魅力的な1本です。今回はそんな「ズートピア」についてレビューしようと思います。

●ズートピアのレビュー:2023年現在”努力主義”のジュディを見ると結構ツライ

 2016年に公開され大ヒットした「ズートピア」。公開当時はジュディに感情移入していた人も、今ではニックのほうに強く共感してしまうということもあるのではないでしょうか。時代背景から考えても、コロナ・ショック以降の2023年現在、ジュディのような努力主義は以前よりもやや勢いを失ってしまったところがあります。

 「ズートピア」が公開された2016年は「君の名は。」の大ヒットがあったり、TVドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」が放送されたり”恋ダンス”が流行ったりと、2011年の東日本大震災以降の深刻な空気感からやや楽観的な空気感へ移行していた時期でした。その当時は2020年の東京オリンピック開催を控えていたこともあり、お祭り前の明るいムードが世間を覆っていました。

 さらにYouTuberや起業家の活躍、成功者による自己啓発本やセミナー、オンラインサロンなどが活況となり、個人の努力で人生を変えられるというムーブメントが推し進められることにもなりました。その結果多くの人が「努力は報われる」「自分も成功できる」と考え、努力主義は大きな信頼を得ていたところがあります。ゆえに何があっても諦めないジュディの姿には説得力があり、自分を重ねて頑張れと応援していた人も多かったことでしょう。

 しかし2020年のコロナ・ショックという不運に遭遇したことで、努力の有無に関係なく仕事を失ったり事業をたたむことになったりと、私たちは努力ではどうにもならないことがあるという現実を突きつけられました。

 それに呼応するように”親ガチャ”という言葉が2021年のユーキャン新語・流行語大賞でトップ10入りを果たすなど、努力うんぬんではなく先天的に親の違いによって人生の成功や失敗は決まっているのではないか、という宿命論的なものの見方が強まることになり現在に至ります。

 ”才能がない人はそもそもダメ”という感覚は、難病の少女が健康的な体と恵まれた容姿を持って転生する「推しの子」や天才たちが競い合う「ブルーロック」など近年流行っているコンテンツにも見られる傾向です。”ズートピア”の「誰でもなんにでもなれる」の理念を、無邪気に信じられる人はかなり減っているのが現状と言えるでしょう。

 また1発逆転を意味する”ワンチャン”という言葉が世の中に浸透していることからも、ジュディのように1歩ずつ地道に努力を積み重ねる考え方が2016年当時より信頼を失っていることが伺えます。

 さらに現在私は30歳ですが”バーンアウト(燃え尽き症候群)”でやる気を失っている若者が多いというのも実感として分かるところがあります。

●ズートピアのレビュー:個人的努力論から友情的努力論への転換がカギ

 2020年以降、「どうせお金持ちの子供がお金持ちなんでしょ?」「生まれの違いで決まるなら頑張っても無駄なのでは?」という諦めムードが社会全体を覆い、自分は無理なので”推し”に可能性を投資するという方法を取る人も増えたように思われます。こうした厭世観が漂う時代に、夢を失い詐欺師をしているニックの姿を見ると、他人事には思えないところがあります。

 ニックはキツネであるという先天的なことを理由にいじめられ、夢を諦めてしまったキャラクター。すっかり意欲を失ってしまったニックは、”キツネらしいが自分らしくない”生活を送ることになります。その姿はバーンアウトして意欲を失い、先天性と現状に甘んじる状態にはまった私たちの姿に重なるように見えてなりません。

 しかしそんな諦めモードのニックが、”ウサギらしくないが自分らしく生きる”ジュディと出会い、友情を育む中で自分にも何かできるという自己効力感を取り戻していきます。ウサギという先天性に努力と工夫で抗っていく……そんな頑張り屋のジュディに「あなたならできる」と応援され認められたことで、ニックはエネルギーを得てもう一度頑張ろうと生きるうえでの足場を手に入れることになったのです。

 情報があふれ混沌としている今の時代、何を足場にして頑張ればいいか分からずパニック状態に陥ったり、無力感にやられてしまったりすることもあるでしょう。しかしジュディに引っ張り上げられて厭世観と無力感を吹き飛ばしたニックのように、友に認められたから・友を助けたいから頑張るという”友情”を足場にしてやり直せる可能性はあります。

 2010年代にあった個人的な努力の神話は破綻しかけていますが、友と一緒に頑張る・仲間と一緒に立ち向かうという友情的努力論はあり得る形なのかもしれません。

●ズートピアのレビュー:”分断”や”差別”が進行した現代に刺さり過ぎる内容

 「ズートピア」には公開当時から”人種差別”のテーマがあると言われていました。「ズートピア」が制作されたアメリカでは、もともと人種差別が大きな問題であったこともあり、草食動物と肉食動物を人種に置き換えて描いているという論評が良く見られました。

 しかし「ズートピア」によって差別や分断が見直されることはなく、その後トランプ政権が樹立してからの人種差別や、ホワイトカラーとエッセンシャルワーカーの賃金格差による分断など、社会が抱える差別や分断はより先鋭化してしまったところがあります。

 一時期安定しているように思われた世界情勢も、相次ぐ紛争や戦争で混乱を極めている状況で、人種や宗教、イデオロギーによる分断・対立が深刻化しているのは明らかでしょう。

 日本でも高齢者を”老害”と呼ぶ一方で若者を”Z世代”と持ち上げて世代間対立があおられ、その他にも賃金格差や働き方、ジェンダー、政治思想などあらゆるところでその違いから分断や対立が生まれています。

 SNS上に悪口と陰謀論がまん延し、物事を単純化して悪者を作り出すような風潮が強まっている状況です。こうした差別や分断が加速した時代だからこそ、「ズートピア」はもう一度見なければならない作品なのかもしれません。

●ズートピアのレビュー:差別を生み出す”単純化”と”一般化”の病

 「ズートピア」が教えてくれる重要なことの1つは、差別や分断は情報の”単純化”と”一般化”によって起こるということです。劇中でも狂暴化して失踪した動物たちはみんな肉食動物だったという報道から、肉食動物に対するヘイトが強まる結果を招いていました。

 狂暴化が確認されたのが肉食動物だけだったという情報から、狂暴に関連する要素として”かつて肉食動物は草食動物を食べていた”という生物学的理由をくっつけて、肉食動物=狂暴という印象を強力なものにしていきます。ここで起きているのは、まさに狂暴化したのは肉食動物だけという単純化と、肉食動物は全員危ないという一般化です。

 これは差別や偏見が起きる時の典型的なパターンです。人種や国籍、性別、宗教、思想、出自などある1つのまとまったグループを見つけて、彼らに関する一部の悪く見える情報を集めて悪者に仕立て上げるというやり方です。劇中ではベルウェザーが肉食動物に特殊な薬を投与することで、肉食動物だけが狂暴化したように演出していましたが、この手の演出は現実でも違う形で頻繁に起こっています。

 フェイクニュースも含め情報が氾濫している今の時代、人々は情報の海でパニック状態に陥っているため、少しでも分かりやすい情報を求めています。混乱している中「こいつらが悪者だ!」と分かりやすく画一化してくれると、考えるストレスがなくなりパニックからも解放されるので、どうしても単純化・一般化された情報が魅力的に見えてしまうのです。

 しかしそれはベルウェザーのような人物が仕組んでいる情報操作かもしれません。そのため悪者扱いしそうな時はいったん立ち止まって、別の角度から情報を集めることが大切になります。

 またジュディのように自分自身の中にも差別意識があるのだと、自覚するのも重要なことだと言えます。どんな人でも偏見や差別意識は持っているので、まずはそれをしっかりと見つめて言動に出さないよう配慮することが求められます。

 しかし人間なのでそれでも常に完璧に振る舞うことは難しく、差別感情が表に出ることもあるでしょう。大事なのは差別的な言動が出た後の対応で、ジュディがニックに泣きながら謝ったように、しっかりと訂正し謝罪することが大切です。そうやって真摯に向き合えば、ジュディとニックのように逆に仲を深めるきっかけになることもあるでしょう。

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