『ワンピース・オン・アイス』で無良崇人が得たヒントとフィギュアスケート界の課題とは

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2023年12月25日 10:31  webスポルティーバ

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無良崇人 インタビュー 『ワンピース・オン・アイス』編

 2014年四大陸選手権男子金メダリストで、現在はプロフィギュアスケーターとしてさまざまなアイスショーに出演している無良崇人さん。2023年夏には『ワンピース・オン・アイス〜エピソード・オブ・アラバスタ〜』に出演し、『ONE PIECE』主人公のモンキー・D・ルフィに立ちはだかる強敵、クロコダイル役を演じて大きな反響を呼んだ。年末のインタビューで、当時の思い出を振り返ってもらった。

【フィギュアスケートの敷居を下げたショー】

ーー2023年8月と9月に横浜と名古屋で開催された『ワンピース・オン・アイス』。数カ月が経ちましたが、思い返すことはありますか?

無良崇人(以下同) じつは、いまだにロス感があります。ついこの間もリハーサルの時の映像を見返して、こういうアイスショーがもっとあるといいな、と思ったりします。

 言い方が難しいんですけど、今のフィギュアスケート界は選手個人のファンの方が多いように感じているんです。だから、その選手が引退してしまうと一緒に離れてしまう。もちろんなかには他の選手も応援していて引き続き見てくださる方もいますが、人気選手が引退すると見てくれる方は減ってしまう。

 そんな状況を打開するには、フィギュアスケートは敷居が高いと感じる方も多いと思うので、もっと気軽に多くの人に触れてもらう機会を増やしたい。そういった意味で、『ワンピース・オン・アイス』はそれに成功した例だと思うんです。

『ワンピース・オン・アイス』は、ふだんのアイスショーとは違うことがいくつかありました。普通ならチケットはスーパーアリーナとかリンクにできるだけ近い席から埋まっていくんですが、今回は近い席だけではなくて上のほうの席からも埋まっていって。ちょっとお試しで見てみようと来てくれた方が多いのかなって。

【すごく幸せな時間を味わった】

ーー本番に向けての稽古はいかがでしたか?

 僕は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの『ワンピース・プレミア・サマー2023』を見に行かせていただきましたが、フィギュアスケートとはファンの規模が桁違いなんですよ。アニメや『ONE PIECE』の影響力ってすごいなって。だからこそ、たくさんいるファンの皆さんに受け入れてもらえるものを僕らはやらなくちゃいけないというプレッシャーはありましたし、演じる側として生半可な気持ちで挑んではいけないなと感じていました。

 もちろん、僕らスケーターも『ONE PIECE』がすごく好きだったので、「ここはこう動いたほうがそのキャラクターっぽくない?」と話し合いながら稽古できましたし、演出の金谷かほりさんや振付けの宮本賢二先生をはじめとするスタッフや運営の皆さんと一丸になってショーをつくり上げていけたんじゃないかなって。

 やればやるほど『ワンピース・オン・アイス』の輪が大きくなるというか、絆が強くなっていく。すごく幸せな時間を味わっていたなと思いましたし、携わることができてよかったなと思っています。

ーーぜひまた続編をやってほしいですね。

 本当に楽しかったですし、またやりたいですね。アイスショーでやりたい『ONE PIECE』のエピソードがたくさんあるんですよね。だから、「あれもやれるよね」「じゃああの役は誰がやる?」みたいな話は皆でしていましたね(笑)。

【クロコダイルファンからも絶賛の声】

ーー無良さんのクロコダイル役は本当にすばらしかったです。

 そもそも僕は悪役ってやったことなかったんですよ。最初から悪役やりたいっていう人もあまりいないじゃないですか。悪い役って大体クセが強いし(笑)。でも、演出の金谷さんが「私が悪役に惹かれるのは、どういう経緯で悪に染まっていったのかを想像するのが好きだから」っておっしゃっていたんですね。「なぜこうなったのかを考察して演出していくともっと面白くなる」って。

 そうやって話し合いながらつくっていったのが、あのクロコダイルでした。このセリフはこういう心境だからこんなことを言ったんじゃない?とか想像したり。なるほど、そういう目線なのかと勉強になりましたね。

 悪役目線で『ONE PIECE』を見ることも今までなかったし、クロコダイルファンの方に直接、「自分が思い描いていたクロコダイルをそのまま氷の上で表現してもらってうれしい」と声をかけていただいたことも本当にうれしかったです。

ーー悪役を演じる面白さに触れたんですね。

 こういうヤツがいたら嫌だなっていうのを動きで見せるのも面白かったですね。視線とか、首の角度とか、どういう順で振り向いてどういう角度で止まれば悪く見えるのかとか。仕草で感情を演技するってすごく面白いなって。俳優さんたちのすごさがわかりましたね。

ーー他にやってみたいキャラクターはありますか?

 好きなキャラクターがいっぱいいすぎて難しいですね(笑)。やってみたいシーンはやっぱり「頂上決戦」かな。あれは名シーンですよね。そうなると誰がエース(ルフィの兄)をやるんだって話になるし、(宇野昌磨さんが演じた)ルフィはいるけど麦わらの一味の出番が少なくなっちゃうんですけどね。あと、誰かに「空島編」のエネルをやればって言われたことがあったなぁ(笑)。

ーー本田真凜さん、望結さん姉妹もインタビュー時に「空島編」を希望していました。

 あのエピソードは動き的にもスケートと相性がいいと思うんですよね。あとはインペルダウンとかいいエピソードがたくさんあるから、ぜひもう一回、『ワンピース・オン・アイス』をやりたいという思いは強いですね。つくる方は大変でしょうけど(笑)。

 ショーを通じてスケートファンが『ONE PIECE』を、『ONE PIECE』ファンがスケートを面白いなと思ってくださった方はたくさんいると思うので、異なるジャンルの垣根を超えて興味を持つきっかけになれたんじゃないかなと思っていますし、また機会があればぜひ見に来てほしいなと思っています。


【ワンピース・オン・アイスから得たヒント】

ーー来年1月下旬に出演される福岡でのアイスショー『BIS F24』にもこの経験が活きてくると思いますか?

『ワンピース・オン・アイス』は、スケートを見てみようかなと思う方を増やすいいモデルケースとなったと思うので、この経験からヒントを得て福岡のショーにつなげていけたらなと思います。従来のショーにはない新たな発想のショーなので、どういう反響になるのか楽しみであり不安でもありますが、やっぱり新しいものをやっていかないと。

 コーチとして選手を育てることも大事ですが、新しいことに挑戦してたくさんの方にスケートに触れてもらい、広めていくことは僕らプロができる恩返しであり、必要なことかなと思っています。

ーー2024年3月のアイスショー『notte stellata 2024』にも出演が決まりましたね。

 前回出演した時にゆづ(羽生結弦さん)の想いが溢れているアイスショーだなと感じましたし、3月11日の東日本大震災を追悼するアイスショーに参加させてもらえることはありがたいことだなと思います。グループナンバー含めていろいろあると思うので、そういった部分も楽しみにしていただければと思います。



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【プロフィール】
無良崇人 むら・たかひと 
1991年、千葉県生まれ。フィギュアスケートのコーチをしていた両親の影響で、2歳からスケートを始める。現役時代には、GPシリーズのフランス杯やスケートカナダで優勝、2014年四大陸選手権を制覇。全日本選手権で3位5回。2018年に競技を引退し、現在はプロスケーターやコーチ、解説者として活躍している。

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