阪神・村上頌樹を変えた巨人・岡本和真から奪った三振 クビ覚悟で挑んだプロ3年目に何が起きていたのか

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2024年01月09日 10:31  webスポルティーバ

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阪神・村上頌樹インタビュー(前編)

 38年ぶりの日本一を果たし、オフになっても虎戦士のメディア露出が続いている。そのなかには、もちろん村上頌樹の姿もある。開幕から31イニング無失点のNPB記録から始まり、終わってみれば10勝をマークし、最優秀防御率(1.75)のタイトルを獲得。さらにNPB史上3人目となる新人王とMVPのダブル受賞。昨年末に行なわれた契約更改では、球団史上最高となる875%アップの推定6700万円でサイン。プロ2年間0勝の右腕にいったい何が起きたのか。

【戦力外覚悟で挑んだ3年目】

── 1年前の契約更改のことを覚えていますか。

村上 とくに話すようなこともなかったので、流れ作業みたいな感じで書類にサインをして、「ありがとうございました」で終わったと思います。

── 2021年に入団してから2年間は一軍未勝利。2年目の2022年は一軍登板はありませんでした。

村上 だから2023年は、結果を出さないと危ないんじゃないかという気持ちになっていました。

── 危ないというのは、戦力外も覚悟したと?

村上 そうですね。タイガースは若い選手が多く、大学から来て3年、一軍で何もしていなかったら危ないなと。とにかく結果を出さないとあとがない、という感じにはなっていました。

── 2023年の結果次第では、25歳で野球人生が終わることも頭にあったと? ユニフォームを脱いだら、何をしようかと考えたりしたことも?

村上 ありました。でも、何ができるかって考えたら、野球以外のことは浮かばなくて......。野球で頑張るしかないなと思いました。

── 小坂将商さん(智辯学園/野球部監督)に頼んで母校のコーチをするとか?

村上 ハハハ(笑)。

【ストレートの質が向上】

 今でこそ笑って語る村上だが、2023年の成績次第ではいま頃どうなっていたかわからない。あらためて村上のプロ入り後の成績を見てみると、1年目はファームながら10勝(1敗)、防御率2.23の成績を残し、最多勝、最優秀防御率、最高勝率(.909)のウエスタンリーグ投手三冠に輝いた。2年目もファームで最優秀防御率(2.23)、最高勝率(.700)の二冠を達成。さらに連盟表彰外ながら最多奪三振(74)も記録した。

 しかし一軍登板は1年目の2試合のみ。ファームでこれだけの結果を残しても一軍に呼ばれないことに強い危機感を抱き、「何が足りないのか?」と自問自答の日々。それでも目指すべきものは見えていた。

── プロ3年目、一軍で結果を出すために何が必要かと考えていましたか。

村上 真っすぐです。一軍を考えた時、ここが足りないというのははっきりしていて、真っすぐの質がもっとよくなればと、常に考えていました。

── 高校時代から、小柄ながらしっかりヒジを上げて投げ込む回転の効いたストレートが一番の武器でした。しかし、プロではそのストレートが足りなかったと?

村上 ファームなら、それまでの真っすぐでも通用したんです。でも一軍になると通じない。だから2022年と2023年で何が一番変わったかと聞かれたら、真っすぐだと。ストレートの質が変わりました。

── 2022年1月に青柳晃洋投手との自主トレが大きかったという記事を見ました。

村上 ホントにそこです。

── 具体的にどのようなアドバイスを受けたのですか。

村上 しっかり左足を着いてから、自分の力を一番出せるタイミングで投げる。この感覚がバチっとはまったんです。軽く投げている感じでもボールがいくようになったんです。

── それまでは左足を踏み出してすぐ投げにいっていた?

村上 速いボールを投げようとすると腕に力が入って、足が着いたら腕で投げにいってしまっていたんだと思います。それをイメージとしては、腕で投げるのではなく足で投げる。その感覚で投げるとストレートの平均球速も上がりましたし、質も上がりました。

── 左足を着いてから投げるという話を聞くと、智辯学園3年の時に取材させてもらったことを思い出します。当時、投球時に大事にしていることとして「変化球の時こそしっかり腕を振る」「テイクバックでは力を抜き、リリーフで力を集中する」、そして「左足を着いてから投げる」の3つを挙げていました。左足を着いてから投げるというのは、当時から意識していたことですよね。

村上 もともとそこはあったんですが、いろいろ取り入れすぎて迷っていたタイミングで青柳さんに『左足を着いてから』と言われて......。もう一回、ここを信じようとやった結果、はまったんです。ずっとやっていたことだったので、すんなり『この感覚かな』って入っていけたんだと思います。

── 自主トレ段階から、ストレートの変化を感じたのですか。

村上 まだ全力で投げていないのに、これかなという感覚が徐々に増えていきました。キャンプ、オープン戦でさらにその回数が増え、いい感じのままシーズンに入っていけました。

【自信をつかんだ岡本和真との対戦】

 オープン戦3試合(8イニング)を無失点で終え、初の一軍開幕。開幕2戦目の中日戦(京セラ)でシーズン初登板(1回無失点)を果たし、2度目の登板は2021年8月28日以来となる先発での巨人戦(東京ドーム)。ここで村上は7回まで巨人打線にひとりもランナーを許さない完璧な投球を披露。完全試合継続中の8回に交代となったが、この試合で村上がもっとも印象に残る場面として挙げたのが、高校の先輩でもある岡本和真との対戦だった。

── 初回三者凡退のあとの2回、先頭で打席に立った岡本選手の第1打席。カウント2--2から、捕手の坂本誠志郎選手の要求はアウトローのストレート。その勝負球が真ん中高めにいきますが、岡本選手はフルスイングで空振りしての三振でした。

村上 自分のイメージでは「高めに強い球を」と思って、誠志郎さんの構えたところよりちょっと高めを狙って投げて、そこで空振りがとれた。コースは少し甘かったですが、自分としてはほぼイメージどおりの1球でした。

── 高めのストレートで空振りをとれたことが大きかった?

村上 そうですね。変化球ではなく、取り組んできた真っすぐで三振がとれた。岡本さんから空振り三振を奪えたことで、「今年は一軍でやれるんじゃないか」という自信につながりました。

── あの回は、岡本選手のあと、中田翔選手をセカンドゴロ、坂本勇人選手は真っすぐで空振り三振に打ちとりました。

村上 あのイニングはほんとによかったことを覚えています。そのなかでも岡本さんはイニングの先頭打者でしたし、もし出塁を許していたらどうなっていたかわかりません。結果的に三振をとれたことで、リズムよく抑えられたのもあったと思います。

── もし岡本選手に打たれていたら、あの試合も、この1年もどうなっていたかわからなかったと?

村上 ベストボールではなかったですけど、1年を戦う自信がついた。それくらい大きな1球でしたね。

後編につづく>>


村上頌樹(むらかみ・しょうき)/1998年6月25日、兵庫県生まれ。小学1年生で野球を始め、中学時代は硬式のクラブチーム「アイランドホークス」に所属。智辯学園高に進学し、1年夏からベンチ入り。1年夏、3年春夏と甲子園出場を果たし、3年春のセンバツでは全5試合をひとりで投げ抜き優勝。高校卒業後は東洋大に進み、1年春からリーグ戦に登板し、3年春は6勝無敗、防御率0.77の成績を残し優勝に貢献した。20年のドラフトで阪神から5位指名を受け入団。プロ3年目の23年、10勝6敗、防御率1.75の好成績を挙げ、18年ぶりのリーグ制覇、38年ぶりの日本一に貢献。新人王とMVPをダブルで受賞した

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