オリックス・山下舜平大インタビュー(後編)
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驚異の21歳、山下舜平大(オリックス)。インタビュー後編では、野茂英雄(元ドジャースほか)から伝授されたフォークや、次々と逸材が開花するオリックスのトレーニング、自身が描く未来像について掘り下げてみた。
【野茂英雄直伝のフォーク】
── 2023年春のキャンプで野茂さんからフォークを教わったそうですね。今までの感覚と何が違ったのでしょうか?
山下 今までは「どういうフォークを投げたいのか?」というのがはっきりしていなかったんです。春のキャンプでたまたま野茂さんが教えに来てくださって、たまたま山田久志さんが「ちょっとおまえ、聞いてこい」と言ってくださって。
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── あ、自発的に聞きに行ったんじゃないんですね(笑)。
山下 いや、行けないですよ(笑)。それで聞いてみたら、イメージが湧きやすかったというか。ボールの軌道、投げ方。めちゃくちゃシンプルだったんですけど、自分のなかで「そういうことか」と思う部分がありました。そこから試行錯誤して、今では自分のモノにできた感じがあります。
── 「イメージが湧きやすかった」という部分をもう少し教えていただけますか?
山下 ボールの握りが一番大きかったんですけど、狙う場所とか、「こういうフォークから始めよう」というベースになる考えができました。今はツーシーム系とかスプリット系とか、いろんな種類のフォークがありますよね。野茂さんはガッと落差の大きなフォーク。自分は「これがフォークだ」と勝手に思って、投げ始めました。
── 山下投手のフォークはストレートの軌道からスッと落ちる印象もあります。
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山下 バッターが途中まで真っすぐと思ってくれたら、それは理想ではありますね。
── 今は3球種でやりくりしていますが、今後は持ち球を増やす考えはあるんですか?
山下 もちろん、増やします。
── おぉ、「もちろん」なんですね。
山下 しんどいです。
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── しんどい!(笑)
山下 いや、しんどいというか、これから先を考えたら絶対に必要なので。もうひとつ増えるだけで、もっと真っすぐでバッターを差せるようになりますし、カーブへの意識が頭からもっと外れるはずなので。
── 相手に研究もされるはずですからね。
山下 そうです。バッターは毎年進化していくので、自分が現状維持だと負けるので。
── 今のところ、「この球種を投げたい」と考えている候補はあるんですか?
山下 あるんですけど......そうですね。
── 今はまだ秘密ですか?
山下 まだ確実かはわからないので。でも、何個かはあります。
【走り込みは意味を持ってやるかが大事】
── 2023年は腰椎分離症で戦線離脱しましたが、腰の具合はいかがですか?
山下 もう全然、大丈夫です。トレーニングはバンバンやっています。今は基礎体力を上げて、キャンプに向けてブルペンに入っていこうかなと。
── 腰椎分離症は発育期のアスリートに発症することが多いですが、山下投手の場合もまだ体が大人になりきっていないということでしょうか。
山下 中学生とか高校生に出やすい症状みたいですね。防ぎようはあるとは思うんですが、この職業なので。開き直ってやっていきます(笑)。
── トレーニングという意味では、今のオリックスはNPBの最先端ではないでしょうか。次から次へと投手の育成に成功し、才能が花開いています。
山下 他球団のことはわからないんですけど、トレーナーさんの知識は常に勉強になることばかりです。若手選手にはチームとして決められたトレーニングメニューがあるんですけど、バランスのいい内容で、そこにプラスして自分でも考えられるようにセットされているので、やりやすい環境です。とくにランニング量が必要最低限というところが、自分には合っているのかなと(笑)。
── そんなに走りたくはない?(笑)
山下 もちろん、アジリティー(敏捷性)やスピード系を高めるために走ることはありますし、長距離を走ることもあります。要はバランスが大事というか。ランニングで疲れて、ほかのメニューが疎かになってしまうのはどうなのかなと。正解なんてわからないですけど。
── ダルビッシュ有投手(パドレス)がX(旧Twitter)上で「身体に必要以上に負荷がかかり、人によっては選手生命を絶たれる」と、走り込みに疑問を呈したこともありました(2020年3月11日)。山下投手も、そのような考え方でしょうか。
山下 意味を持ってやっているかどうかが大事じゃないですか。意味を持って長距離走をするチームもあるでしょうし、それは否定しません。オリックスの場合はバランスを考えてメニューが組まれて、そのおかげで今の自分がいると思います。
【いい人になりたい】
── 今後、山下投手のなかで「こんな選手になっていきたい」「こんな人間になりたい」という思いはあるでしょうか?
山下 「選手」ですか? 「人間」ですか?
── できれば、どちらもお聞きしたいです(笑)。
山下 選手だったら、わかりやすく言えば侍ジャパンに入れる選手。代表に入れるのが30人しかいない、わずかな選手しか立てない場所じゃないですか。この前、NPBアワードに出た時も、周りを見たら「やっぱり」と思う選手ばかりでした。毎年、アワードに戻ってこられる選手になりたいですね。
── 「人間」としてはどうでしょうか?
山下 人間としては、そうですね......。「いい人」になりたいですね(笑)。
── いい人ですか(笑)。身近にいますか?
山下 オリックスの先輩はいい人ばかりですよ。比嘉(幹貴)さん、平野(佳寿)さん......。自分もそんな人間になっていきたいですね。
── 宮城さんはどうですか?
山下 宮城さんですか? まあ、いい人ですけど、あの人もまだ発展途上なので(笑)。
── 今、アマチュア球界で「少ない球種で勝負する」という投手が少しずつ増えているように感じます。実践してきた山下投手としては、どう感じますか?
山下 えぇ〜、やめたほうがいいんじゃないですか(笑)。
── やめたほうがいい!(笑)。やっぱり、苦しいですか?
山下 苦しいです。マジで。
── それはやり通した人間じゃないと、わからない境地ですよね。
山下 いや、意味が大事だと思います。「真っすぐに時間をかけたいから」などと目的がはっきりしていなければ、やる意味はないのかなと。
── 高校時代の山下投手にとっては、「ストレートを磨くため」という意味があった。
山下 そうなんです。意味があるかどうか。
── 「山下投手みたいになりたいから」だけでは、意味が薄いわけですね。
山下 そうです、それはちょっと違うと思います。うれしいですけど、「憧れるのをやめましょう」という感じですよね(笑)。
── 最後に名言をいただき、ありがとうございました(笑)。2024年も山下投手の投球を楽しみにしています。
山下 ありがとうございます!
山下舜平大(やました・しゅんぺいた)/2002年7月16日、福岡県生まれ。小学3年で野球を始め、三宅中では軟式野球部に所属し、福岡選抜入り。福岡大大濠高では1年秋からベンチ入りし、2年夏はエースとして県ベスト8入り。20年ドラフト1位でオリックスに入団。プロ3年目の23年、開幕投手で一軍デビューを果たし、9勝3敗、防御率1.61の成績を残し、パ・リーグ新人王に輝いた