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フランツ・ベッケンバウアーが亡くなった。享年78歳はあまりにも早すぎる。個人的には2002年にインタビューしている。日韓共催W杯を数カ月後に控えた時である。
欧州では当時、チャンピオンズリーグ(CL)のイベントとしての価値が急上昇していて、サッカーのレベルそのものではW杯を上回るのではないかと囁かれ始めていた。ベッケンバウアーがかつて所属したバイエルンも、2000−01シーズンに欧州チャンピオンに輝いたばかりだった。
W杯とCLの関係について尋ねてみると、ベッケンバウアーはこう答えた。
「W杯は真剣勝負。まさに戦いだ。CLはお祭り。エンターテインメントだ」
そうW杯の重要性を強調したものである。ドイツが次回2006年のW杯開催国で、ベッケンバウアーが大会の組織委員長に就任していたことも、その理由かもしれない。
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直接聞いたわけではないが、ベッケンバウアーは大会の組織委員長の立場でこうも話していたという。
「ドイツ人は第2次世界大戦の影響で、特に欧州の人々からあまり好かれていない。2006年W杯をそうしたドイツのイメージを払拭する舞台にしたい」
簡単に言える台詞ではないと感銘を受けた記憶がある。
ドイツW杯の開幕戦をアリアンツ・アリーナ(ミュンヘン)で、決勝戦をオリンピック・スタジアム(ベルリン)で行なう理由について語った言葉も印象深い。
「最新式のアリアンツ・アレーナで開幕戦をする理由は、生まれ変わったドイツの現在の姿を世界の人々に見てもらうためだ。ベルリンで決勝を行なう理由は反対に、ドイツが過去に犯した負の遺産を示すことにある」
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1936年に開催されたベルリン五輪は、ドイツがナチスの支配下にあった時代である。巨大な石で覆われた、荘厳なスタジアムのファサードに、軍国主義に染まる当時の面影を偲ぶことができた。
ドイツは2006年のためにこの五輪スタジアムを新たに建て替えることをしなかった。改修に留め、軍国主義に染まる当時の面影をあえて残し、W杯決勝戦の舞台とした。そうした背景に潜むコンセプトに、ベッケンバウアーがインタビューで主張したW杯の重さを見た気がした。
【日本人が『初めて観た』W杯で優勝】
ベッケンバウアー率いるバイエルンが来日し、日本代表と戦ったのは1975年1月5日と7日だった。中学生だった筆者は2試合ともチケットを手に入れ観戦している。
ベッケンバウアーの命日が1月7日なので、ちょうど49年前の出来事になる。友人たち数人と明治神宮で初詣を済ませ、その足で国立競技場に向かったこと。国立競技場のスタンドが2戦とも満杯だったことぐらいしか記憶はない。国立競技場でサッカーを観戦したことはそれまでにも幾度かあったが、満員になったのを見たのはこのバイエルン戦が初めてだったのではないか。日本代表が国立競技場で試合をすれば、たいてい満員になる現在の姿を、当時は想像することさえできなかった。隔世の感とはこのことである。
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西ドイツが自国開催のW杯決勝でオランダを破ったのはその半年前。1974年7月7日の深夜だった。日本のお茶の間にW杯の模様が初めて生放送で流れた記念すべき日でもある。当日は参議院議員選挙だった。各放送局が開票速報を伝えるなか、東京12チャンネル(現テレビ東京)はW杯決勝を放送した。
ベッケンバウアーはその時の主将だった。オランダの主将はヨハン・クライフ。ベッケンバウアーと言えばクライフ。クライフと言えばベッケンバウアー。欧州サッカー史において両者は対の関係で登場する名前だ。
西ドイツ対オランダ。欧州の識者は、1974年のW杯決勝を近代サッカー史の幕開けとなった試合だと位置づける。その後のサッカー史に決定的な影響を与えたのはオランダのトータルフットボールだった。しかし、オランダはその時を含め、W杯決勝に3度駒を進めながらいずれも準優勝に終わっている。一方のドイツはその後も1990年イタリア大会と2014年ブラジル大会で優勝を遂げている。
1990年大会を制したドイツの監督はベッケンバウアーで、監督、選手両方の立場でW杯を制した人物は、ベッケンバウアー、マリオ・ザガロ(ブラジル)、ディディエ・デシャン(フランス)の3人に限られる。そのひとりであるザガロは、ベッケンバウアーが亡くなった2日前、亡くなったばかりだった。これも何かの因縁か。
1974年7月7日、東京12チャンネルでW杯を解説者として伝えた岡野俊一郎さんは2017年に、実況のアナウンサー金子勝彦さんも昨年亡くなっている。さらに言うなら、1974年W杯を現地で取材した数少ない日本人ジャーナリストのひとりで、筆者も薫陶を受けた元毎日新聞運動部記者、荒井義行さんも昨年12月にこの世を去っている。
一方、日本代表は一昨年(カタールW杯)、昨年(親善試合)と、ドイツに対し2連勝を飾った。サッカーは永遠に不滅と言わんばかりである。