ソフトバンク・小久保裕紀が目指す新時代の監督像「今の選手には経験や感覚を伝え続けるだけでは響かない」

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2024年01月12日 10:51  webスポルティーバ

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ソフトバンク・小久保裕紀監督インタビュー(後編)

前編:小久保裕紀新監督に聞く「なぜ3年間優勝できなかったのか?」はこちら>>

 小久保裕紀監督は現役時代、猛練習で鍛え上げられ、誰もが認めるチームリーダーとなった自負がある。だからといって、指揮官となった今、昔と同じやり方でやろうとは考えていない。小久保監督が目指す理想の監督像とは?

【4番を中心に考えていく】

── 時代というところで言うと、昨年の秋季キャンプはある意味、新時代を象徴する取り組みだったなと思いました。

小久保 技術練習に技術練習を重ねてからウエイトトレーニングに行くのか、それとも技術練習をしてウエイトをしてから再び技術練習をするのか。その違いだけだと思います。昼間のいい時間にグラウンドが空いていたから練習量が少ないように映ったと思いますけど、野手のほうは球場で打撃練習を2カ所ずつ、屋内練習場も同時に使って行なっていたのでバットはしっかり振っていたと思います。また、午後の練習は"自由練習"として選手自らメニューを考え、コーチやスタッフにも選手のほうからお願いをして手を貸してもらうなどの取り組みを行ないました。自分で考えてやろうという選手にとっては、いいキャンプだったと思います。

── そのなかで課題は?

小久保 自分で考える能力がまだ足りない選手にはもう少し準備期間を設けて、事前にヒアリングを行なうなどのアプローチ方法があったのではないかというのが反省点かなと思います。経験年数の浅い若手の場合、たとえば守備でも自分の課題克服のためにどんな練習をすればいいのかわからない。守備コーチを活用すればいいのに、どう頼んでいいのかわからない。だけど、選手が考えて動くまではコーチから促すのはやめよう、首脳陣から口出しをしないという球団の方針もありましたから。キャンプでそうならないよう事前準備は必要でしょう。

── ただ正直、小久保監督が現役時代は「練習の虫」と評される方だったので、てっきり猛練習のキャンプになると思っていました。

小久保 うーん、でも現役の時も秋のキャンプは実際そんなにやっていなかったと思いますよ。そのイメージは春じゃないですか。それもチームの全体練習の打撃時間が長すぎて終わってから個別練習をしていたので、日暮れまでやっていただけ。練習量自体は今の選手たちもやっていますよ。

── 春季キャンプは秋とは違う内容に?

小久保 春は全然違いますよ。秋は個人の練習。春は連係などチームとしての動きがメインになりますから。選手たちには、クールごとの練習メニューなどを全部球団のアプリで流そうと思っています。

── いま考えている新たな取り組みはありますか?

小久保 アイピッチ(※)を打ったことがない主力選手がけっこういます。それは全員のメニューに組み込もうと思っています。また、クールごとに1回はフリーバッティングを1カ所にして、走者や守備者をしっかりつけて、より実戦と同じ形でやる練習を取り入れようかと。その日は振り込む量は減るので、足りないと思った分は個別練習でやってもらう。
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── 小久保監督の目指す野球のメッセージにもなる練習ですね。

小久保 そうですね。僕はクリーンアップというか4番打者に関しては細かいサインを出すつもりはない。4番を中心に考えていこうという野球観。一方でそれ以外の選手は勝つための戦術、サインも当然あります。戦術の決断を下すのが監督。それによって動くのが選手です。僕が作戦を立てた時に、選手から「なぜ?」という疑問が出ない準備をしないといけないですし、首脳陣と選手という位置関係が崩れない組織をつくりたい。人間的にどちらが上とかじゃないんです。立場、役割が違うだけ。あくまで首脳陣として選手の上に立ち組織を運営する。その代わり、うまくいかなければ監督の責任。勝敗も監督の責任です。そのような役割分担、位置関係だけはどんな組織においても崩してはいけないと思っています。

【勝利を背負うのは監督と主力選手】

── 野手に関しては、柳田悠岐選手と近藤健介選手のふたりだけがレギュラーと明言しました。その狙いは?

小久保 ふたりしかいないでしょう。ファン100人に聞いてください、レギュラー誰ですか?って。そうしたら彼らしか(名前が)挙がらないでしょう。

── 昨シーズンまで数多く試合に出ていた選手も例外ではないと。

小久保 試合には出ていたけど、誰もが認める数字は残せていないでしょう。そういうことです。

── 二軍監督から一軍監督の場合には「世代交代」という言葉がついて回ります。ただ、小久保監督は「あくまで主力に期待」と口にしています。

小久保 そうですよ。だって給料の安い選手に期待したらかわいそうでしょう。選手には自分の城を築くまで「チームの勝利のために貢献する」というワードは使うなって言っています。勝利を背負うのは監督と主力選手。入団会見とかでハンコを押したように「チームの優勝に貢献します」って言いますよね。それが育成選手でも。いや、まず支配下に上がることでしょう。自分の目標をどこに置くかってすごく大事なんです。育成選手が優勝に貢献しますっていうコメントっていうのは、はっきり言って達成不可能なんですよね。だからそういうところは正してあげたほうがいいんですよ。成功者は必ずきちんと目標設定して、届くか届かないところからステップアップしていく。夢を語るのはいいけど、やっぱりきちんとした目標を設定しないと。

── キャプテン時代も若手選手にそのような話をされていたのを覚えています。

小久保 そうですね。チームでやらなきゃいけないことから外れた時は叱りました。美しさということで言えば、チームは負けたけど自分は3安打猛打賞......そんな時に帰りのバスで上機嫌でしゃべったり、ロッカーでペチャクチャしゃべったり。逆にチームは勝ったけど自分は5タコで、チームは盛り上がっているのにひとりだけポツンと不貞腐れて輪に加わらないとか。それは美しくないですよね。ルールじゃないですけど、団体競技ですので、チームとして動く時に足を引っ張るようなことはしたらダメ。そういう人たちをいっぱい見てきた。そういう雰囲気を正せるロッカー(ルーム)の設計者、文化者が大事。ロッカールームのリーダーは絶対に必要なんです。

── 今年のホークスはキャプテン制を廃止しましたが、誰にそれを期待したいですか?

小久保 期待というか、そういう危機感をもっているのは中村晃とか今宮健太だと思いますよ。ロッカーのいい設計者、文化者としてやってもらえばいいかなと思います。その立場を務めるのは監督じゃない。選手同士で声が挙がるものなんです。

── たとえば、監督の意思を選手たちに伝えるために、誰かひとり伝達者のような存在を置くなどは?

小久保 そうすると、その人のさじ加減でどうにでも動けてしまう。それは組織としてものすごく危険なんです。どの組織にも言えることですが、今の時代にはそぐわない。

【データサイエンスを積極活用】

── また、首脳陣では奈良原浩ヘッドコーチを招へいしました。その狙いは?

小久保 僕が現役の時に一番足りなかった起用方法やキャリアの積み方を経験されていることですね。僕は2年目の途中から4番を打たせてもらい、ほぼサインも出ることなく、守備固めや代走の経験もありません。でも奈良原さんは、そのような選手たちの気持ちのケアとか準備のさせ方とかにすごく敏感な人。だから侍ジャパンで監督を務めた時も奈良原さんにヘッドコーチをお願いしました。

 もうひとつはホークスを外から見た観点。固定観念というのはなかなか変えられないもの。それならば、奈良原さんから見て選手やチームがどう映っているのかを聞いて、それを反映するのがいいと。秋のキャンプ期間だけでも、新たな気づきや発見もありました。ただ、それは戦術的なところ。選手よりも先にメディアに出るのはよくないので、いまここでお話しするタイミングではないかなと。

── ソフトバンクは野球にデータサイエンスを積極活用しています。さらに色濃くなっていく気配もありますが、いかがでしょう?

小久保 それはめちゃくちゃあると思います。とくに投手陣のほうは、米国で2年間コーチ経験のある倉野信次コーチがチームに復帰しましたし、その経験を一軍から四軍まで統一した育成プログラムのなかに落とし込んでいくことになると思います。

── 今後、データサイエンスによって野球が変わっていく可能性も?

小久保 ホークスだけではなく、それが今の日本また世界の野球界で主流になりつつある。だから我々首脳陣も勉強し続けないと、すぐに置いていかれます。今の選手たちは最先端の知識を学べる機会が多い。我々が経験や感覚を伝え続けるだけでは、選手には響かない。

── 3月のペナント開幕戦はビジターでのオリックス戦です。今のソフトバンクにとって、最も倒さなくてはいけない相手だと思います。

小久保 もちろんです。

── 143分の1なのか、それともやはり開幕は特別なのか?

小久保 まだ考えてないですが、一軍監督の初陣なので143試合のなかの1試合でいこうと思っても、そうならないと思う。だったら大いに意識する開幕3連戦にしようかな。ただガッつきすぎたら、コーチには僕を止めるように事前に話しておきますよ(笑)。


小久保裕紀(こくぼ・ひろき)/1971年10月8日、和歌山県生まれ。星林高から青山学院大に進み、92年のバルセロナ五輪で学生から唯一日本代表に選手され、銅メダル獲得に貢献した。93年、逆指名(ドラフト2位)でダイエー(現・ソフトバンク)に入団。2年目の95年にレギュラーに定着し、本塁打王に輝く。99年にも打点王のタイトルを獲得した。03年オフに巨人に移籍し、07年にFA権を行使して古巣に復帰。09年からはキャプテンとしてチームをまとめ、11年には日本シリーズでMVPを獲得。12年には通算2000本安打を達成し、同年限りで現役を引退。引退後は13年から17年まで侍ジャパンの監督を務め、21年にソフトバンクの一軍ヘッドコーチ、22、23年は二軍監督、24年から一軍監督として指揮を執る

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  • どうも怪しい(笑)名球会ゴルフも1人だけピンクの短パン履いて浮いてたしな(笑)
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