『ちいかわご朱印』転売が問題視されるほどの大人気 「御朱印ブーム」なぜ人気が衰えない?

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2024年01月14日 12:01  リアルサウンド

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■『ちいかわ』の御朱印転売に公式が苦言


 1月11日、講談社モーニング編集部が運営する『ちいかわコミック公式』のXが、フリマサイトなどで“護国寺×ちいかわご朱印”が転売されていることを確認したとし、「ご朱印は納経の証としてお授けするもので、ご本尊のご利益を頂戴することと同じ貴重な授与書です。礼を失する行為は慎んでくださいますよう、ご理解よろしくお願いいたします」と、注意喚起を行った。


(参考:【写真】毎日『ちいかわ』といっしょ! 366日かわいく学べる楽しい辞典


 昨年12月21日に発売された『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』の単行本6巻の特装版に付属する「なんか光ってて旅したくなるご朱印帳」を持参のうえ、護国寺を参詣、500円を納めると、ちいかわの顔があしらわれた特別な御朱印を授かることができる。Xには御朱印を手にした人が続々ポストしているが、そのかわいらしさから評判を呼び、連日整理券が配布されるほどの人気を集めている。


 御朱印ブームは2010年代半ば頃と比べるとだいぶ落ち着いたが、依然として人気は高い。京都の東寺や伏見稲荷大社、鹿苑寺(金閣寺)などは休日や観光シーズンになると御朱印コーナーに長蛇の列ができることもある。御朱印はいわゆる記念スタンプとは違う性質のもののだが、御朱印帳を埋めていくことは一種のスタンプラリーのような楽しみがある点が人気が衰えない要因だろう。漫画家の松山せいじも自身のXで御朱印帳が一冊埋まったことを報告していたが、芸能人にも御朱印集めを行っている人は多くいる。


■御朱印ブームが起きたきっかけは


 さて、こうした御朱印、いつからブームが始まったのだろうか。記者が思うに、2000年代後半くらいではないかと推測している。


 記者は建築巡りが趣味なのだが、初めて貰った御朱印は2004年、京都の仁和寺の御朱印である。確か、国宝の金堂の前に御朱印をいただけるスペースがあり、おばあさんが声をかけてくれて、「せっかくの記念だから御朱印でも貰っていかないかい?」と言われたのだ。記者はそれまで御朱印など存在そのものも知らなかったのだが、帳面代は1000円、御朱印は300円でいただけるとのことで、手書きでありがたそうだし安いから貰っておこうと思い集め始めたのである。


 それ以降、いろんな寺院や神社で御朱印を貰ったのだが、旅行をしていると意外に簡単に集まるので面白くなってきた。ただ、当時は御朱印集めをしている若者はほとんどいなかった。ある有名な神社で御朱印を貰おうとしたところ、神職から「あんた20代? 若いのにこんなに年寄り臭いものをよく集めようと思うね」と言われたことがある。御朱印は主力のお守りやお札の陰でひっそりと書かれているものであり、もちろん転売を行う者などほぼいなかったように思う。


 そんななか、若者が積極的に寺院や神社に足を運ぶようになったのは、2000年代半ばに江原啓之の著書がブームになり、パワースポットブームが起きたことが大きな要因ではないだろうか。パワースポットという言葉は秀逸であり、どこか近寄り難い雰囲気があった寺院や神社に若者が目を向けるようになったのだ。その中で、御朱印の注目度も上がっていったように思う。2010年頃には、御朱印帳を持った特に女性を見かけるようになり、記者は驚いた記憶がある。


■出版社も御朱印ブームを仕掛ける


 2010年代になると、出版社からオリジナルの御朱印帳がついた書籍が売り出されはじめる。そして、決定的なブームが起こったのは、2013年に伊勢神宮と出雲大社のダブル遷宮が話題になった時期であろう。「るるぶ」などの旅行ガイドや「サライ」などのシニア向けの雑誌のみならず、若者向けの雑誌やファッション誌までもが式年遷宮の特集を作成。この機会に神社を巡ろうと呼び掛けた。


 また、菊池洋明が編著者となって2016年に出版された『永久保存版 御朱印アートブック』はベストセラーとなった。掲載された美しい御朱印、達筆すぎる筆遣いに目を奪われた人も少なくないだろう。菊池は日本屈指の御朱印愛好家であり、御朱印ブームを定着させるうえで果たした役割は大きいと思う。


 菊池の『永久保存版 御朱印アートブック』の出版をきっかけに、期間限定の御朱印のほか、華やかな和紙やカラフルな朱肉を使ったいかにも映える御朱印、手描きのイラストや特別なスタンプ入りの御朱印なども増加したといわれる。ところが、2010年代後半にフリマサイトが普及すると、こうした特別感ある御朱印をターゲットにした転売屋も増えた。元号が令和に改元された令和元(2019)年5月1日には、明治神宮など著名な神社の御朱印が相次いで転売され、寺院や神社が苦言を呈する事態になったのも記憶に新しい。


■御朱印をいただく意味を考える


 ちなみに記者の親族には神職がいて、伊勢神宮系統の神社をやっているのだが、まだ御朱印はない。地方の寺院や神社ではそもそも御朱印をやっていない例が珍しくなく、関係者ですら御朱印を知らない例もあったのだが、最近はブームに乗って始める例が増えているようだ。お守りのように在庫を抱える必要がない点も、メリットと捉えられているようだ。


 昨今の神社の経営事情については胡原おみと西山倫子+モノガタリラボの漫画『氏神さまのコンサルタント』が詳しい。漫画の中では神社の立て直しに奮闘する主人公たちの姿が描かれているが、現に後継者不足や財政難に悩む神社は増えており、社殿の管理が行き届いていない例も見かける。


 御朱印ブームはそういった寺院や神社にとって渡りに船といったところだと思うが、信仰と経営の狭間で悩んでいる関係者も多いと聞く。御朱印とはそもそもいったい何なのか。信仰とはいったい何なのか。転売屋から買った御朱印は意味があるものなのか。『ちいかわ』の御朱印転売騒動を機に、そういったテーマについて今一度考える機会としたいものである。


(文=山内貴範)


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