eスポーツで交流する中学生と高齢者——近畿日本ツーリストとNTT東日本グループが作る「探究学習」

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2024年01月15日 07:01  マイナビニュース

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長野日本大学中学校は、近畿日本ツーリスト、NTTe-Sports、NTT-ME、NTT東日本 長野支店とともに、「eスポーツを用いた探究学習」への取り組みを進めている。12月1日、この探究学習の締めくくりとして、「高齢者向けeスポーツ体験会」が開催された。


○近畿日本ツーリストが行う学校サポート事業



近畿日本ツーリストは、修学旅行を中心とした学校現場との関わりから、学校サポート事業として部活動サポートサービス、PTA業務のアウトソーシングサービスなどを提供している。そして今秋、授業支援サービスがスタート。2024年度以降は学校業務支援サービスの提供も予定されている。



この授業支援サービスの一環として行われたのが、長野県長野市にある長野日本大学中学校(以下、長野日大)の「eスポーツを用いた探究学習」プログラムだ。12月1日、その集大成として生徒が「アムール芹田デイサービスセンター」を訪問し、eスポーツを使って交流する企画「eスポーツレクレーション」が実践された。


○"好き"や"得意"をエントランスゲートに



そもそも探究学習とは、「課題設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という4つのプロセスを繰り返し実践し、「生徒の主体性」から学びを引き出すことを目的としている。



長野日大が中学校で探究創造コースを創設し、今年度で2年目。長野日大で教頭を務める藤巻靖氏は、「総合的な学習を進めていく中で我々が強く感じるのは、中学生も"誰かの役に立ちたい"という思いを強く持っているということです。自分たちの能力でだれか人を幸せにできないか、笑顔にできないかということをいつも考えている中学生はとても多いです」と述べる。


中学生がこういった活動を実際に行うためには、学校側が授業を主催していく必要がある。だが持続可能な機会の創出は簡単ではない。また、生徒自身が実社会と関わりのある課題を主体的に発見し、将来に通用する解決の方策を追求できなければ、探究活動の意味は薄れてしまう。



こういった授業を実現するための施策として、採用されたのが「eスポーツ」だ。藤巻氏は「生徒自身の"好き"や"得意"をエントランスゲートとし、生徒と実社会と繋ぐブリッジとして採用しました」とその狙いについて話す。

○NTTe-Sports、NTT東日本、NTT-MEが授業を担当



しかし、近畿日本ツーリストにeスポーツに関するノウハウがあるわけではない。ここで、eスポーツを専門とするNTTe-Sportsとのパートナーシップが生まれた。NTTe-Sportsの主な役割は、子どもたちが馴染みやすいeスポーツを活用した、探究学習のプログラム作成だ。また、授業では講師として生徒たちを導いていた。



さらに高齢者福祉という地域課題が加わり、NTT東日本 長野支店やNTT-MEの参加も決まる。NTT東日本とNTT-MEは地域の課題解決に強みを持っており、近畿日本ツーリストとNTTe-Sports、そして地域を繋ぐ形で授業のサポートを行ってきた。とくに若手社員は生徒のお兄さん、お姉さん役として活躍。プレゼンの仕方や探求学習における課題の設定・解決策の検討方法など、普段の業務で身に着けたビジネススキルをレクチャー、相互に良い関係を築いていたそうだ。



こうして各社の尽力により、「チームワーク・マネジメント能力」「地域の課題解決」「ICT」という3つの学びを実践できるプログラムが完成。プログラムは全8日間に渡り、「座学/リサーチ・企画」「中間プレゼン」「レクリエーションの実施」「プレゼン」という流れで行われる。



生徒たちは近畿日本ツーリストのオリジナル講義「心のバリアフリープログラム」によって高齢者疑似体験を行い、さらに高齢者施設への訪問を経て介護を要する高齢者の目線を体感し、12月1日を迎えることになった。


本プログラムの講師を担当していたNTTe-Sports 主査の金基憲氏は、生徒たちとともに本番前の振り返りを行う。改めてアムール芹田からの3つのメッセージ「つまらなそうな人がいても、一生懸命話しかけてほしい」「最初に、楽しそうにやって見せてほしい」「みんなが楽しそうな空間を作って、そこに巻き込んでほしい」を伝えるとともに、頑張ってきた生徒たちに向けて「練習は本番のように、本番は練習のように」と自身の言葉を贈った。


○高齢者の方も思わず声が出るeスポーツ



授業を終えた生徒たちは、バスに乗ってアムール芹田デイサービスセンターへ移動。ついに「eスポーツレクレーション」の本番が開始された。プレイするゲームは、バンダイナムコエンターテインメントの「太鼓の達人 Nintendo Switchば〜じょん!」。各班ごとに工夫した設営を行っているうちに、続々と高齢者が入場。生徒たちの表情に緊張の色が見えてくる。


レクリエーションで最初にすることは、高齢者に対するゲームの説明だ。ほとんどの高齢者はテレビゲームで遊んだ経験に乏しく、ルールも操作方法も楽しみ方も分からない。そんな高齢者に向けて、生徒たちはこれまでの授業を通して考え抜いてきたプレゼンテーションを行う。「どう説明したら分かりやすいか」「どう伝えたら楽しそうか」、どの班も趣向を凝らした説明を行っていた。


今回は"太鼓を叩く"という分かりやすい操作だったこともあり、高齢者のみなさんも興味津々。生徒たちのアシストを受けながら、時間の許す限りゲームをプレイをしていた。また中学生が訪問して交流してくれるという点も、刺激や喜びになっていたようだ。


実際に参加した高齢者は、「面白いね、久しぶりに太鼓を叩いたよ」「リズムを取らなくちゃいけないから、頭の体操にもなりそう」「孫がやってるのを見たことはあったけど、自分でやると難しいね」「ここって爺婆ばっかりだからね、やっぱり若さも必要なのよ」「長野日大の生徒さんが来てくれて本当に嬉しいよ」と楽しそうに話してくれた。


生徒を代表して感想を語ってくれたのは、一年一組の宮澤周司さん。宮澤さんは、レクリエーションへの心構えや教え方の工夫について、次のように述べる。



「高齢者が笑顔でいられるように自分も元気出して明るく取り組む。つまらなそうにしている方がいたらその人の横に行き、同じ目線で話す。そういうのを意識して本番に臨みました。高齢者の方はいきなり体を動かすと痛いとか、疲れたとなってしまうので、準備体操をしっかりしてもらってから取り組んでもらうように工夫しています。終わった後も、体に疲労を残さないようクールダウンの時間を設けました。みんな楽しんでくれて、『またやりたい』って言いながら帰ってくれたので、ほっとしました」(長野日大 宮澤さん)


また、eスポーツと高齢者の関わりについて、「高齢者の笑顔が溢れ出しているところを見て、ぜんぜん生き方が違う高齢者と若者が、eスポーツを通じて繋がり合える将来があるのかなと思いました」と、当日の感想を語ってくれた。

○eスポーツが持っている大きな力



今回のレクリエーションを振り返り、NTTe-Sportsの金氏は、「NTTe-Sportsとしてもかなり挑戦的な取り組みでした。ですが、なにより生徒たちの学ぶ意欲や工夫が想像よりはるかにすごかったです。『好き』『関心』『得意』を中心としたことが奏功したのかなと思いました」と話す。


金氏はここまで4回授業を受け持ったそうだが、一番印象深いのはやはり「みんなでスポーツレクリエーションを実際に体験しよう」の回だったという。普段からゲームを遊んでいる子はもちろん、遊んでいない子も一丸となって盛り上がり、応援も自然に発生したという。これはeスポーツが持っている大きな力と言えそうだ。そして、その盛り上がりは本番でも高齢者の間で起こっている。



「高齢者レクリエーションは過去にも行っていますが、今回が一番盛り上がっていると思います。やはり学生たちが高齢者の方に寄り添い、自分で企画を考えて、とにかく一生懸命やったというのが一番大きいでしょう。eスポーツのデジタルアクティビティとしての魅力はもちろんありますが、若い世代が一生懸命向き合ってくれるということが高齢者の方には一番のレクリエーションなのかもしれません」(NTTe-Sports 金氏)


社会的にもeスポーツの認知は広がりを見せており、競技、興行、スポーツなどさまざまな可能性が広がっている。NTTe-Sportsは、そういった側面も教育に取り込んでいくことを目指しているという。



「競技という側面だけでもリーダーシップ、チームワーク、スポーツマンシップなどいろいろな学びがあります。チームスポーツですから、コミュニケーション能力やマネジメント能力も学べるでしょう。エンターテイメント産業として捉えると、映像の編集や配信、イベント運営などさまざまな専門性があって成り立つものでもあり、それらすべてが学びのコンテンツになります。そういったポテンシャルを最大限引き出しながら、eスポーツ業界の発展、eスポーツ文化の普及に貢献していけたらいいなと思っています」(NTTe-Sports 金氏)



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