トヨタのスポーツカー、未来はどうなる? 「FT-Se」から考える

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2024年01月15日 11:41  マイナビニュース

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4年連続で世界販売首位を獲得して勢いに乗るトヨタ自動車。ここ最近でも新型「アルファード/ヴェルファイア」の発売、「センチュリー」のSUVタイプ登場、新型「ランドクルーザー」の発表と話題に事欠かないが、スポーツカーの新車は久しく見ていない気がする。今後のトヨタ製スポーツカーはどうなるのか。「FT-Se」というクルマから考えてみたい。


トヨタの薄型バッテリーが電気自動車を変える?



トヨタは「ジャパンモビリティショー2023」で新たな電気自動車(BEV)の提案となる3台のコンセプトモデルを出展した。レクサスの新型セダン「LF-ZC」、SUVのトヨタ「FT-3e」、そして、未来のトヨタ製スポーツカーを暗示する「FT-Se」だ。



これらの3台は骨格=プラットフォームを共有し、いずれも薄型バッテリーを搭載している。バッテリーのサイズは既存のものと同じでありながら、高いエネルギー密度を実現することにより、航続距離を1,000kmに伸ばすというのがトヨタの解説だ。



バッテリーの高さを抑えることで実現した低い車高が3台の特徴になっている。床下にバッテリーを敷き詰めるBEVは、どうしても床面が高くなりがちで、乗員の乗車位置も上がってしまう。その結果としてルーフが高くなり、クルマとしても全高が高くなるというのがこれまでの通例だった。


航続距離を伸ばすには大きなバッテリーを積む必要があるので、前後の長さ(ホイールベース)も伸ばさざるを得ないのがBEVの宿命だった。結果的に(長い航続距離を確保した)BEVは、大きなクルマになってしまう。



その点、薄型バッテリーを用いたトヨタのBEVコンセプトモデルは、デザイン面や室内のレイアウトに自由度が生まれてくる。トヨタ BEVファクトリー プレジテントの加藤武郎さんは「航続距離は1,000km、充電時間は20分。この小型バッテリーのコンポーネントはクルマの形を変えます。つまり、小は大を兼ねるということです」とコメントしていた。

スポーツカーにとって最も大事なものは?



このプラットフォームを使って、トヨタはどんなスポーツカーを作っていこうと考えているのか。トヨタ GAZOO Racing Company GRデザイングループ主幹の飯田秀明さんの話をもとにひも解いてみたい。


まず、「スポーツカーとして低いこと」が重要だと飯田さんは語る。つまりは、パッと見てのわかりやすさとカッコよさだ。



これにはBEVならではの新しいフォルムがキーとなる。エンジンを積まないBEVでは、フロントを思い切り低くすることが可能なのだ。フェンダーをボンネットやベルトラインよりも高い位置にできるのがBEVスポーツカーの強み。そうすることで四輪を強調できるし、運転していてもタイヤの位置がつかみやすくなる。コーナリング時のライントレース性が向上するわけだ。

飯田さんは、電気で走ろうと内燃機関を積んでいようと「“カッコいいこと”がスポーツカーにとっては重要」としたうえで、「薄型のバッテリーを使って、いかに新しく見せられるか、新しいスポーツカーが提案できるかが課題であり、(FT-Seでは)それができたと思う」と自信を示した。


カッコよさと新しさの両立は難しい?



“カッコよさ”と“新しさ”は、実は相反するキーワードでもある。



私たちがクルマを見てカッコいいと感じるのは、これまでに見たカッコいいクルマ(例えばスーパースポーツカー)を連想するからだ。新しいクルマを見たときも、意外に古典的な部分にカッコよさを感じていたりするものである。古典的なカッコよさを担保しつつ新しさを感じさせるのは、実は至難の業だといえる。このあたりについての飯田さんの見解はこうだ。



「人がホイールベースの中心にいるのは非常に大事で、これによりクルマは意匠的なバランスが取れた姿になるのですが、あえてFT-Seでは人を前に出しました。それは、『前後重量配分のバランスをいかにとるか』という機能的側面を考慮してのことです。ただ、そうすると、パッと見てFFのクルマに見えてしまいかねません。それでは意味がないので、カウル(ボンネット)とベルトラインを低くしてフェンダーを強調しました。ここが、FFのクルマとも古典的なスポーツカーとも異なる最も大事なポイントだと思ってデザインしたんです」(以後、カッコ内は飯田さんのコメント)


古典的なスポーツカーとの差別化を図るため「ボディライン」にもこだわった。「これまでボディラインは、曲面や大らかな面で作ることが多かったんですが、新世代のBEVには、そうした古典的な要素はあまり入れたくありませんでした」とのことだ。



とはいえ、ボディでスポーツカーならではのパワー感は表現したい。そのためにはどんな立体にすればいいのか。



「折り紙細工のような面よりも、古典的な大らかな面の方が見る人はパワーを感じるんです。では、どうやって新しいテイストと古典的なものを混ぜるのか。そこに苦労しました」



工夫したのはリアフェンダーだ。サイドから見ると、ドアハンドルあたりからリアフェンダーが大きく弧を描くように盛り上がっていく。通常であれば、そのまま丸い立体を形成し、大きなタイヤとともにパワー感あふれるデザインになる。しかしFT-Seでは、その頂点部分がスパッと水平方向に切り取られたような印象の造形になっている。そうすることで「パワーもありながらパッと見は非常にフレッシュで、新しいスポーツカーであることを印象づけています」という。


人間は馴染みのあるものとは別のデザインアプローチを目にすると、違和感から否定的な反応をしてしまいがちだ。それは当然なのだが、このFT-Seには、あまり否定的な気持ちがわいてこない。理由は、古典と先進性をうまく融合させているからだろう。例えば、フロント周りを低くしてフェンダー(タイヤの上部)を高くするというアプローチにしても、市販車ではあまり見られない造形だがF1などでは一般的であることから、市販車に取り入れられたとしても意外と受け入れられる要素なのではないだろうか。



いずれにせよ、BEVになることでクルマのデザインはどんどん変わっていく。トヨタが開発している薄型バッテリーが実用化となれば、自由度はさらに高まるはずだ。FT-Seは、その第1歩と捉えるべきだろう。トヨタはこの姿を見る人の目に馴染ませながら、徐々に新しさの部分を強調していくはずだ。そうすることで、違和感なく新しい“カッコよさ”を定着させていけるからだ。



内田俊一 うちだしゅんいち 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験をいかしてデザイン、マーケティングなどの視点を含めた新車記事を執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員。 この著者の記事一覧はこちら(内田俊一)

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  • 思うにマニュアルのエンジン車とか、えらく贅沢な乗物だったんだな。若い頃にその贅沢を思いっきり享受できたことに感謝せんとね(;´∀`)
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