大家コーチがDeNAの若手を変える、カットボールと10分ブルペン

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2024年02月07日 16:01  webスポルティーバ

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 神奈川県横須賀市にある横浜DeNAベイスターズのファーム施設。練習中のブルペンを見ると若手ピッチャーがコーチのもとに集まり、ときに笑顔を交えつつ、真剣に指導者の言葉に耳を傾けている。

 その輪の中心にいるのは、今季から二軍投手コーチに就任した大家友和だ。

「僕は指導というよりも、選手の力を発揮させたいという気持ちの方が強いんです。持っている力をすべて出すためのサポートをしてあげて、足りないものや伸ばすべき部分は自分で判断してもらいたい。結局、最後は自分だと思うので、自ら判断できるところまで引っ張っていってあげたいですね」

 大家は自身のスタイルについてそう語るが、「最後は自分自身」という言葉に重さを感じてならない。まさに大家の現役時代は、自分自身との戦いだった。

 大家は京都成章高から1993年のドラフトでベイスターズに3位指名され入団。一軍で結果を残すことはできなかったが、憧れだったメジャーに挑戦するため1998年に自由契約となり、ボストン・レッドソックスとマイナー契約を交わす。

 以後、メジャー昇格、マイナー降格を繰り返し、故障に見舞われながらも10年間アメリカでプレー。メジャーでは通算202試合に登板し51勝をマークした。

 2010年にベイスターズに復帰して2年間を過ごすと、その後は日米独立リーグのマウンドにも上がり、41歳となった2016年のシーズンをもって現役引退。まさに波乱万丈の24年間にわたるプロ生活だった。

「僕は人と違った行動をしたからこそアメリカでプレーできたわけで、考えていることが違うというのは自覚しています。もちろん、自分が思っていることがすべて正しいとは思っていませんし、常識とは何かという話にもなりますが、そこは人の意見も柔軟に取り入れながらやっていきたいと思っています。とにかく選手から何を聞かれても答えられるように準備だけはしています」

 昨年、指導者としてオファーを受けた際、かつて世話になったベイスターズへの恩返し、そして新たなチャレンジとしてコーチ業に興味を示した大家だが、同時にDeNAがどのような取り組みをしているのか関心を持ったという。

 大家が現役の頃は、まだDeNA体制ではなかった。今年で7年目のDeNAは、かつての苦しい時代とは比べものにならないほど、球団としてもチームとしても成熟し、発展を遂げている。大家は言う。

「僕らの時代と比べてどうこうという話ではありませんが、今のファームは素晴らしい環境だと思いましたし、球団も含め、まだまだレベルアップできる可能性があると感じました。あと、若い選手を起用することに対しての恐怖心というものをチーム自体が持っていない。試合で使いながら若手をうまく成長させていく。時に選手たちはモチベーションのアップダウンがあるのですが、その波をなくすことが僕らの仕事だと思っています」

 昨年、奄美大島で行なわれた秋季キャンプからチームに合流した大家だが、特筆すべきは、今年4月に好投した2年目の京山将弥やリリーフとして新境地を開きつつある9年目の国吉佑樹にカットボールを伝授したことで、彼らのピッチングが一新され、成果を上げていることである。

 手元で動くカットボールは、大家がメジャーで戦うための武器としていたボールのひとつだ。

「カットボールに限らず、いろんな球種を教える際に重要なことは、それぞれ狙いが違うということです。同じ球種であっても、選手によって意図や肝の部分が異なるんです」

 選手によって、カウントを取るボール、決め球、あるいは他の球種を生かすため......といった具合に、1つの球種でも使い方は千差万別だという。

「あとは、彼らがどのように自分の形に変化させていくのかが重要になります。もちろん、球種の狙いや意図は説明しますが、大事なのは感性やその後の研究になってきます」

 2年目の飛躍を遂げた京山は「カットボールのおかげで投球の幅が広がった」と語った。その話を大家にすると、こんな答えが返ってきた。

「京山は非常にまとまりのあるピッチャーで、彼のよさを引き出すためにもカットボールが必要だとは思っていました。ただ、僕としては使っても使わなくてもよかった。いずれ使うというか、必要になる日が来たらそれでいいし......やはりそこは本人次第。

 京山は頭のいいピッチャーですし、何かを与えさえすれば、使い方を何種類も考えることができる。まあ、子どもの頃から知っている選手ですし、そこに関しての心配はまったくしていませんでした」

 実は、京山は中学時代、大家がメジャーでプレーしているときに設立した草津シニアに所属しており、古くから知る間柄である。

 また、大家の発案で春季キャンプからファームで行なわれているのが"10分間ブルペン"だ。1回のブルペンを10分で区切り、希望すればもう10分投げることができる。10分間で投げられるボールは約40球。物足りなさを感じるのではないかと思うが、メジャーではこれが主流だったという。この"10分間ブルペン"を導入した意図を、大家は次のように語る。

「10分が基本ですが、スケジュールや状態を確認しながら20分投げたいという選手がいれば認めています。それも含めて選手たちと密にコミュニケーションが取れますし、彼らにとっても自分の状態をしっかり把握できるようになったので、一定の成果はあると思います」

 まずは自分の状態を管理し把握する。考える力を育てるという意味でも、非常に効果的なやり方と言えそうだ。

「ダラダラやってもしょうがないですし、目的を持って、10分間という時間を大切にしてほしい。わずかな時間しかないなかで、どのような準備をしなければいけないのかというところにまで考えが及んでくると、より効果はアップすると思います」

 大家はアメリカ時代、特にマイナーでは長時間のバス移動があり、到着後すぐにゲームということも少なくなかった。わずかな準備で最高のパフォーマンスを発揮するにはどうすればいいか、苦心してきた過去がある。それゆえの"貴重な10分間"というわけだ。

「その作業の繰り返しが、引き出しの多さにつながってくるんです」

 大家はアメリカに渡り、ブレイクスルーを果たしたわけだが、自らの道のりを鑑(かんが)み、言葉は適切ではないかもしれないが"一流"と"二流"の差は、どういった部分に表れると考えているのか。

「自分のことを知ろうとするのか、それともしないかでしょうね。まあ、僕も自分自身のことを理解しているかといったらそうじゃないかもしれないですけど、わかろうとすることが大事。自分の足りない部分、いいところ、悪いところを理解しようとする姿勢があれば一流に近づけると思います」

 有望な若手投手が多いベイスターズだが、大家としては若い選手を育成する喜びはもちろん、経験のあるピッチャーたちがいい準備をして一軍で結果を残すこともすごく嬉しいという。

 ここにきて、先発、リリーフにやや疲れが見え始めてきたベイスターズ投手陣。"苦労人"というひと言では言い表せないキャリアの持ち主である大家の、ファームからのバックアップに期待したい。

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