日本通信とドコモが音声相互接続で合意 MVNOが「ネオキャリア」になって実現することは?

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2024年02月14日 23:11  ITmedia Mobile

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日本通信とドコモが音声通信網とSMS網の相互接続で合意した

 日本通信とNTTドコモが2月13日、音声通信網とSMS網の相互接続で合意した。日本通信が翌14日に発表した。これにより、MVNOである日本通信と、そのユーザーがどのような恩恵を受けられるのか。同日の会見で、代表取締役会長の三田聖二氏と、代表取締役社長の福田尚久氏が説明した。


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●これまでのMVNOで実現できていないこと


 日本通信はドコモの設備の一部を借り受けてサービスを提供している。中容量プランの中では頭1つ抜けて安価な「合理的30GBプラン」を打ち出すも、月額料金はそれまで提供していた「合理的20GBプラン」と同じ2178円(税込み、以下同)のままだ。


 2007年の総務大臣裁定により、データ通信網の相互接続は実現しているが、音声通話はMNOからの卸サービスとして提供されており、相互接続はできていなかった。加えて、「音声部分の卸料金が高すぎる」(福田氏)ため、音声通話に関してはデータ通信のように安価なサービスの提供が難しい。


 それが老舗MVNOの日本通信が抱える悩みの種であったという。


 もう少しかみ砕いていえば、これまで国内外全MVNOは携帯キャリアが技術的あるいは契約的に制約する範囲でしかサービスを提供できず、MVNOと携帯キャリアが同じ土俵で戦うことはできなかった。福田氏は「低価格だけではない、付加価値のあるサービス競争を本当はやりたい」が、なかなかこのハードルを越えられずにいたという。


 制度的な課題である電話番号もそうだ。ドコモと日本通信で音声通信網の相互接続を試みたとき、090、080、070から始まる携帯電話番号が付与されていないMVNOにとってのハードルは下がらず、「相互接続までたどり着くことができない」(福田氏)という。


 そのため、「日本通信は総務省関係者にあらゆる形でこうした問題点を説明し、2021年12月に総務省の通信情報通信審議会で、 一定の条件を満たしたMVNOにも電話番号を直接付与すべき、という結論が出された」わけだ。


 2021年12月の答申を受けて、日本通信は2022年6月10日、ドコモに音声網の相互接続を申し入れて以降、日本通信とドコモとで協議を積み重ねてきたという。2023年2月22日の省令改正により、MVNOが一定基準を満たせば、電話番号が付与されるようになった。


 その後も日本通信とドコモが、技術的な面制度的な面でさまざまな協議を重ね、音声通信網とSMS網の相互接続で合意に至った。


 ただ、ドコモ側でのソフトウェア改修が必要になり、「このようなケースだと、一般的に数年単位でかかる」(福田氏)が、実際には「想定よりはるかに短い2年ほどで完了できる」そうだ。


●相互接続で実現すること 利便性はどのように向上するのか


 そもそも相互接続、と題したニュースリリースや資料を見ただけでは、多くの日本通信ユーザーが「自身にとってどのようなメリットがあるのか」分からないはずだ。ここからは、相互接続で実現することが何か、そしてユーザーが受けられる恩恵は何かについて見ていきたい。


 音声通話に関しては、誰がいつどの電話番号でどれだけの時間通話したのかを示すデータが、MNOから日本通信に受け渡され、日本通信がそのデータに基づいてユーザーに請求する仕組みとなっている。データ通信と異なり、日本通信の設備を介さずにサービスが提供されているため、このような仕組みとなっている。SMSも同様だ。


 音声通話の接続料、つまりMVNOがMNOに対して支払う料金にも影響が出る見込みだ。現在は発信された場合に限り、MVNOがMNOに対して接続料を支払うようになっているが、「次の段階へ進むと(相互接続になれば)、MVNOが着信時に着信料を受け取れる」(福田氏)ようになるため、「MVNOがより自由に価格を設定できる」という。


 そして、ユーザーが最も恩恵を受けられるであろう内容が、SIMやAPNに関する内容だ。従来のMVNOサービスでは、MNOからSIMを借りるようになっているが、MVNOに対する電話番号の直接付与により、同社が独自にSIMカードを発行したり、APN設定を自動化したりできる。


 日本通信の独自SIMについては既に米国で販売されているが、日本国内では従来通りMNOから借りたSIMを提供している。ただ、こちらは個人向けというより、法人用途を想定している。1つの電話番号で病院などのローカルエリア内と、MNO基地局経由で接続するローカルエリア外の両方をカバーできるイメージだ。


 SIMによるWi-Fi認証も可能になるという。例えば、MNOのサービスではMNOのSIMを搭載した端末で、Wi-Fiのサービスに申し込んでいる場合、接続時の認証が自動で行われるが、MVNOでは同じことができないのが現状だ。今後はこうしたハードルを取り払い、利便性向上をうたえるようになるという。


●日本通信はネオキャリアへ サービス開始は約2年後


 日本通信があらゆるサービスや仕組みを実現する上で、欠かせないのが「認証識別番号(090から始まる電話番号、識別番号であるIMSI)」「認証媒体(SIMやeSIM)」「認証コアシステム」の3つから成る認証基盤だ。


 eSIMへのアクセスは電子認証局が必要で、GSMAからSAS(Security Accreditation Scheme)認定を受けた認証局が、世界中のeSIMへのアクセス権を持つ。福田氏によると、日本通信は「国の認定を唯一受けた事業者」であり、日本通信が独自に電話番号を発行できるようにならなければ、実現しないことの1つだという。


 日本通信が認証基盤を持つことで、「本来、日本通信がやりたかった」とする、割安かつ付加価値のあるサービスの提供が可能になる、というのが今回の発表内容で大きく注目したいポイントだ。福田氏は「3レイヤー(認証識別番号、認証媒体、認証コアシステム)全てをわれわれ自らで作って、運用していける点が極めて大きい」とする。


 自前でこれらを持つということは、当然、費用も日本通信が負担することになるわけだが、三田氏は「昔なら十億単位の交換機を置かなければならなかったところ、昨今の技術の進歩によりソフトウェアとサーバで機能する」とした。


 一方で、福田氏は「具体的な投資額に関しては、日本通信とドコモとで厳格な秘密保持契約を結んでいるため、開示できない」とした。


 日本通信は、携帯基地局以外の機能を全て保有することで、携帯キャリアと同一のサービス提供能力を持つ、「ネオキャリア」を目指すとしている。福田氏は「現時点の情報ではあるが……」と前置きしつつも、相互接続を生かしたサービス開始予定日を2026年5月24日と発表した。


 このタイミングとした理由について、福田氏は「日付にはこだわっていないが、創立30周年を迎える日だから」と話しつつも、前倒しする可能性を示唆した。


 ネオキャリアが日本のモバイル通信市場でどれほどのシェアを獲得できるのかは不透明だが、例えば、欧州、特にドイツではMVNOが市場の半数近くのシェアを握っており、英国やフランスでも25〜35%と日本よりも高い。福田氏は、付加価値のあるネオキャリアへと進化した日本通信が、日本のモバイル通信市場において数%までシェアを獲得できる見通しを示した。


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