ダイハツ、豊田自動織機、日野自動車も…トヨタグループで検査不正が相次ぐ理由

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2024年02月19日 20:51  All About

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ダイハツ工業、豊田自動織機……トヨタグループ各社で判を押したように検査不正が相次いでいます。もしもこれらの不正が自然発生的に起きたものであるとしたら、グループ内の「組織風土」に大きな問題ありということになりそうです。
昨年末、年始と立て続けにメディアをにぎわせていたのが、トヨタグループのダイハツ工業、豊田自動織機の試験不正問題です。

両社とも昨春の不祥事発覚を受け、外部の調査委員会がまとめた報告で、膨大な件数の不正が発覚して“製造停止”を余儀なくされ大問題化しました。2022年に発覚し社会問題化した日野自動車での検査不正を含めれば、グループ内の自動車メーカー3社で判を押したように同類の不正が行われていたわけです。

これが自然発生的に起きたものであるとするならば、グループ内の「組織風土」に大きな問題ありということになりそうです。

トヨタグループ各社の不祥事に共通点

トヨタグループ各社の不祥事に共通しているのは、本社は親会社からの要望に従って開発納期の短縮を余儀なくされ、現場は相談するすべもなく不正に手を染めることで、長年にわたって要望に応え続けてきたという点です。

本社と現場ともに、「親会社に物言えぬ本社」「本社に物言えぬ現場」という構図が明らかになりました。結果的に現場は、いけないことと分かっていながら、上からの指示を守るために組織ぐるみの不正に走ってしまっていたのです。

この手の組織ぐるみの不祥事は、一般に“日本特有のもの”であると言われています。欧米での不正はそのほとんどが、実権を持つ個人が私腹を肥やす目的で行われるものであるからです。一部ではこの欧米型の不祥事を害虫発生になぞらえて、一定の駆除策等を講じることで予防が可能であるという意味も込めて、「ムシ型」と呼ばれています。

対して、組織ぐるみで起こる日本特有の不祥事は、大半がその風通しの悪い組織内の風土によることから「カビ型」と呼ばれ、風通しを良くする以外にカビの発生を抑えることができず、むしろ厄介なのはこちらであるともされているのです。

では、なぜ日本の大企業では、このような風通しの悪い組織風土が出来上がってしまうのでしょう。

他国には見られない日本的な組織文化

その大きな原因は、日本的な組織文化にこそあると考えます。著作『カルチャーマップ』で各国の組織文化の違いを明らかにした、米国のビジネススクール教授エリン・メイヤー氏によれば、日本の組織文化には大きく2つの特徴があると言います。

1つは、明確な階層主義。もうひとつはコンセンサス(合意)重視の文化です。加えて、ハイコンテクスト(暗黙合意による意思疎通)の文化的素地もあり、これらが絡み合うことで他国には見られない、特異でかつ風通しの悪い組織を作り出しているというのです。
『The Culture Map』(エリン・メイヤー著)を参考に筆者作成

さらに、昭和の高度成長を支えた日本の企業組織が、戦前の官庁および軍部の“官僚的中央集権組織管理”を手本として発展したという歴史を有している点も、これに拍車を掛けたと考えられます。

彼らが手本にした組織体制を例示するなら、最も分かりやすいのは戦前、戦中の軍隊における大本営と現場の関係であり、「本社は頭脳、現場は手足」という厳然たるヒエラルキーが、彼らの風土には脈々と息づいているのです。

こうして、ダイハツ工業、豊田自動織機、日野自動車における親会社や本社に物言えぬ現場は、形作られてきたと言えるのです。

アメリカのネット企業大手Googleは、2012年に「効果的なチーム」の特性を探る目的で「プロジェクト・アリストテレス」を立ち上げ、「言いたいことが言える」文化こそが自社の発展や成長を促している、というレポートを公表して注目を集めました。

一般に、「組織やチームに向けて、率直な意見、素朴な質問、違和感の指摘がいつでも、誰でも気兼ねなく言える」か否かは、近年「心理的安全性」が高い・低いという表現で表されることも多く、Googleのレポート以降、この「心理的安全性」が企業マネジメントの領域で大いに注目を集めるに至っています。

「言いたいことが言えない」組織風土

この点で考えると、トヨタグループ内企業の組織風土および親会社との関係は、至って心理的安全性が低いと言わざるを得ないでしょう。「言いたいことが言えない」がために、親会社の無理なスケジュールに反論ができず、あるいは子会社内で本社の指示に対してモノが言えず、組織ぐるみでの不正に手を染めてしまったわけなのです。

トヨタグループは昭和の時代から、“かんばん方式”に代表される効率経営を旨とするトヨタ方式が、日本的経営の代表格として世界的からも注目され、もてはやされてきました。

しかし、日本が世界に誇るトヨタ方式の行きついた先は、この「“言いたいことが言えない”組織風土がゆえの行き過ぎた効率化」であったのかもしれないのです。

たまたまトヨタ傘下の企業で立て続けに不祥事が発覚したことで、トヨタグループに注目が集まってはいますが、考えてみるとここ20年ほどの間に、同じような品質不正、検査不正といった類の不祥事は、多くの名門企業で明るみに出ています。

それは、日産自動車、三菱自動車などの自動車各社をはじめ、神戸製鋼所、三菱電機、日立化成など、昭和の高度成長を支えた企業たちです。

これらを見るに、「強すぎる親会社や本社」に代表される昭和な組織風土が、バブル経済崩壊後の新時代に入った後もなお脈々と生き延びてきたが故の不祥事である、とも言えるのではないでしょうか。

もしかすると、いまだに「言いたいことが言えない」組織風土のまま、悪事を隠し持っている名門企業があるのかもしれません。

親会社と子会社の間であれ、本社と現場の間であれ、あるいは上司と部下の間であっても、「言いたいことが言える」組織風土を作ることは、トヨタグループに限らず令和時代の企業経営の当たり前として取り組む必要があるでしょう。

GDPでドイツに抜かれ世界4位に転落した日本ですが、これを立て直すためには、昭和企業たちの古き悪しき風土の刷新は必須条件であると思うのです。

大関 暁夫プロフィール

経営コンサルタント。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントや企業アナリストとして、多くのメディアで執筆中。
(文:大関 暁夫(組織マネジメントガイド))

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