法令改正で攻めの一手に出るmineo 「長期利用特典」「端末値引き」の狙いを聞く

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2024年02月21日 13:41  ITmedia Mobile

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2017年から提供している利用者特典「ファン∞とく」をアップデートする

 オプテージの運営するmineoが、新たなユーザー特典を発表した。新サービスは、これまで同社が実施してきた「ファン∞とく」をアップデートする形で提供される。mineoは、同社を支えるファンを大事にするブランドスローガンを掲げ、2017年に導入された仕組み。端末購入特典や事務手数料無料などの特典が既存ユーザーに付与されていた。一方で、mineoは、このサービスの改定を余儀なくされた。


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 2019年10月に電気通信事業法が改定されたためだ。この改正では、100万契約を超えるMVNOも大手キャリアと同様に規制の対象になり、長期利用者の優遇や端末の大幅な割引が禁止された。ファンを重視するために設けられたはずのファン∞とくだが、その思いとは裏腹に総務省から“囲い込みの手段”と見なされる恐れがあった。ファン∞とく自体は続けられていたが、契約年数とひも付かない形になっていた。


 こうした中、2023年12月27日の省令改正でガイドラインが変わり、IIJmioやmineoといったMVNOが規制の対象から外れた。ファン∞とくのリニューアルは、これを受けたもの。契約から1年経過するごとにコインを付与し、オプションや事務手数料、端末割引などのクーポンと交換できる仕組みを2月28日に導入する。合わせて、2月1日から春商戦向けのキャンペーンを展開する。


 そんな同社に、新サービスの意気込みを聞いた。インタビューには、オプテージ コンシューマ事業推進本部 モバイル事業戦略部長の松田守弘氏と、同部 モバイル事業戦略部の田村慎吾氏が答えている。


●一律に縛るのではなく、一人一人がニーズに合わせて選べるようにする


―― まず、1年ごとにコインが付与されるという仕組みにした理由を教えていただけますか。


田村氏 今やっているのが「王国コイン」(mineoアプリを50回起動する、スタッフブログに10記事以上コメントするなどの条件を満たすと1枚コインが付与される)という仕組みで、そこからの移行も考えたとき、コインという形にして特典をアップデートした方がスピーディーだったからです。王国コインを持っている方は、ガサっとこれを新しいコインに変えられます。コインをためていた方には、これによっていきなり10枚の特典(端末購入7000円割引)を受けることもできます。


―― それはお得感がありますね。これが今までできなかった理由を改めて教えてください。


田村氏 今までは、契約期間を縛ってオプション系の特典(割引)を付与するということが、ガイドラインではできませんでした。1年後、2年後という期間が特典につながるのがダメということです。料金と関係がないお楽しみコンテンツは別ですが、端末割引やオプション相当額の割引は難しかったですね。


―― そのガイドラインが改定されましたが、有識者会議自体その前から続いていました。こうした結果になることは見越して準備していたのでしょうか。


田村氏 そうなる前提で進めてはいましたが、ならなかった場合も考え、あがきながら決めていきました。ただ、そんなに前から分かっていたわけではなかったので、正直僕らの中では突貫作業で何とか間に合わせています。もちろん、法の趣旨は理解しているので、過度な囲い込みをしたいわけではありません。一律に縛るのではなく、一人一人がニーズに合わせて選べるようにしています。縛りというようなものではないと考えています。その一方で、われわれも「ずっとmineoがいい」と思っていただきたいので、そのバランスを取りながら決めています。


―― コイン1枚で端末割引が500円、2枚で1000円、5枚で3000円、10枚で7000円と4種類の端末割引が用意されています。やはり、端末割引のニーズは高いのでしょうか。


田村氏 高いと思っています。端末の買い替えは定期的に発生しますし、そのときのキャッシュに直接効いてくるからです。この特典は人気が出るのではないかと考えています。


 また、端末も強いのですが、ニーズで言うと、eSIMの再発行手数料が無料になるクーポンも用意しています。MVNOだとどうしても再発行にお金がかかってしまいますが、これがコインで無料になります。mineoはドコモ、au、ソフトバンクの3回線を用意していますが、回線を変えた場合、SIMの再発行や郵送が必要になるため、手数料をいただいています。この乗り換えにかかってしまうお金も、コインで無料になります。


―― 端末割引に関しては、コイン3枚が設定されていません。これはなぜですか。


田村氏 特典内容は今後ブラッシュアップしていきます。できれば、年1回ぐらいのペースでアップデートしていきたい。いったんこういうことでという形でやっていますが、今後はお客さまの声を聞きながら改善し、ご要望を取り入れながら運用したいと考えています。


●1枚で変えられる特典を多くすることで、手軽に試してもらえる


―― ただ、契約年数に応じてということになると、コミュニティーへの参加を促す力が弱くなってしまう気もしました。


田村氏 その懸念はありました。確かに活動が弱くなるというのはありますが、マイネ王はこれだけというわけでもありません。皆さん、助け合いの精神で集まっています。もちろん、他の仕掛けもどんどん作っていくことが前提にはなりますが、これによってコミュニティーがガタガタになってしまうというような心配はしていません。


―― 王国コインだけが目当てではなかったということですね。


田村氏 全体ではそうですね。


―― 特典一覧を見ると、コイン1枚で交換できるものが非常に多く、充実している印象があります。


田村氏 ここは考えたところで、1枚で変えられる特典を多くすることで、手軽に試していただけるからです。mineoにはいろいろなオプションサービスがあるので、それを少し試していただくことができる。認知度を上げるのがなかなか難しいので、コインでお試しいただけることを期待しています。


―― 単なる料金割引ではなく、オプションのクーポンにしたのはお試し利用を促進するという狙いがあったのでしょうか。


田村氏 そうですね。例えば10分かけ放題を契約する方は、解約率も低くなります。こうした特典を付与することで、mineoの事業にとってもプラスになります。サービスを使っていただき、より長く使っていただければ、さらにお得になり、端末も安くなるのでユーザーとわれわれでウィン・ウィンな施策だと思います。


●通信品質を「5倍」に改善 速度不満による解約は減っている


―― この特典やキャンペーンと合わせて、通信品質を「5倍」に改善する発表もしました。これはもう適用されているのでしょうか。


田村氏 あくまで独自基準での5倍ですが、既になっています。改善は、(23年)8月ごろから徐々にしています。これがけっこう難しく、どれだけ増強すればいいかは、試行錯誤しながらやってきましたが、ようやく自信を持って言えるタイミングになりました。


―― 3キャリア分、全て同じように改善したという理解でよろしいでしょうか。


田村氏 はい。3キャリアとも同じ品質になるようにしていますし、過去からずっとキャリアごとに差はつけていません。といっても、実際にはどうしても差は出てしまいますが、設計基準としては同じにしています。


―― 改善というとやや曖昧ですが、端的に言うと、借りている帯域を増強したということでしょうか。


田村氏 そうですね(苦笑)。帯域の買い足し方の基準も見直しています。やっている手法は地味ですが、得られる効果は大きく、今まで使いにくかった時間帯もある程度快適に使えるようになっています。実際、周りからも快適になったという声は直接聞いています。


―― お昼休みの時間にYouTubeなどの動画もスムーズに再生できていますが、ここまで帯域を増やしてコストは大丈夫なのでしょうか。


田村氏 接続料単価の減少もありますが、それだけではなく、事業努力もしています。平日のお昼に通信量を減らした代わりに特典を付与する「ゆずるね。」や、夜間だけ使い放題になる「夜間フリー」、速度を抑えた「マイそく」や、節約時に1.5Mbpsで使い放題になる「パケット放題Plus」など、他社とは違ったトラフィックの平準化にも取り組んでいます。そういったこともあり、今回の増強ができました。


―― 5倍というのは、通信速度ではないのでしょうか。


田村氏 非常に言い方が難しいのですが、品質としています。大半は速度ですが、遅延などのパラメーターも含まれています。


―― 逆に、それ以前は不満の声があったのでしょうか。


田村氏 混んでいる時間に対する不満の声はありました。実際に品質改善をしていった結果、速度不満による解約は順調に減っています。ユーザーの声もそうですし、第三者機関の評価もよくなっているので、事業目線での効果も出ています。「MVNOは遅い」というイメージを払拭(ふっしょく)できればと考えています。


―― 今回、品質改善をアピールしているのは、それが理由で解約したユーザーにも戻ってきてほしいという狙いがあるのでしょうか。


田村氏 そうですね。そういった意味でも、過去からの比較として説明しています。実際にお試しいただき、最後はずっとmineoがいいと思っていただければいいですね。


―― mineoがどうというわけではありませんが、ドコモ回線のパケ詰まりが話題になっています。いくらmineo側で品質を改善しても、無線部分が混んでいたら速度は出ませんが、この影響は受けているのでしょうか。


田村氏 断言はできませんが、品質の影響は受けます。少なからずあるんじゃないかといえるのは、帯域設計をしている中で他社(KDDIやソフトバンク)と違う動きがあるからです。


●「マイピタ」で全プラン990円×6カ月のキャンペーン 20GBを推す


―― 次にキャンペーンについてうかがいます。今回は、「マイピタ」が容量に関わらず990円になりますが、こうなると皆さん、20GBプランを選択するのではないでしょうか。


田村氏 はい。メッセージとしてお勧めしたいのが20GBです。ただし、そんなにいらないという人は、(キャンペーン期間終了後に)コース変更の手続きが発生します。そんなに使わないのに手続きが面倒という方は、他のコースに入るかもしれません。


―― これは、20GBコースを広げていきたいという狙いがあるのでしょうか。


田村氏 使われる容量はどんどん増えているのが実態ですし、20GBは他社のオンラインプランやサブブランドでも標準的というか、1つの基準になっています。そこと比較していく上でも、20GBで990円はいいのではないかと思っています。mineoで契約者が多いのは1GBや5GBですが、10GB、20GBもサービスラインアップの中では魅力的なので、利用の変化とともに増えています。10GB、20GBはパケット放題Plusが無料でついていることもあり、事業者として入っていただきたい思いもあります。事業的な観点では、売り上げやARPU(1ユーザーあたりの平均収入)を押し上げる効果もあります。


―― 6カ月限定ですが、990円ならオンライン専用プラン/ブランドと比べてもかなり安いですね。


田村氏 同じ期間、パスケットの無料キャンペーンもやっています。これはあまり言っていないのですが、20GBコースに入っていただいて、使わなかった分をパスケットにためておくこともできます。キャンペーン終了後に1GBコースに変更しても、パスケットを継続して契約していればけっこうおいしいという……。


―― なるほど。仮に月10GB使って残り10GBをためていったとしたら、6カ月で60GBになるので、以降を1298円の1GBコースに変えても、そこから毎月10GB使っても6カ月間持つ計算になります。キャンペーンの延長みたいに使えるわけですね。


田村氏 はい。低容量でいい方には、そういった使い方もできます。「高容量の人だけがお得やん」と言われてしまうかもしれませんが、実はそうではないんです。パスケットと組み合わせることで、うまくご活用いただけるのではないでしょうか。


●端末は旧ガイドラインを超える割引を実施も、1円端末はやらず


―― キャンペーンには、端末割引もあります。最大ですが、2万6400円の割引もありますね。旧ガイドラインの上限(2万2000円)は超えていますが、これは新ガイドラインで規制対象だった場合も超えているのでしょうか。


田村氏 旧制度(ガイドライン)で言うと、2機種が2万2000円を超えています。「moto g52j 5G SPECIAL」と「Xiaomi 13T Pro」が、2万6400円割引です。moto g52j 5G SPECIALは、新ガイドラインも超えています(4万4000円以下の端末は2万2000円が上限になるため)。ただ、踏み込んで1円になるようなことはしていません。そこまで安くするとどうしても短期解約が出てくる懸念がありますし、体力的にもドンと割引をして獲得するのは難しいですね。


―― ただ、ガイドラインが適用されなくなったので、最低利用期間のようなものを設けて割引ありの場合には短期解約ができないようにすることも可能だと思います。


田村氏 2015年に最低利用期間は撤廃してから、それはずっと続けています。今からそれを戻して縛るというようなことは考えていません。そういう縛り方はmineoらしくない。サービスのよさやコミュニティーのよさでいいと思っていただき、長く使っていただけるのがmineoらしさです。お金で長く使ってもらうという選択肢はありません。ただ、そこには(各社)いろいろなスタンスがあると思います。


―― mineoは、もともと他社と比べると、端末割引はあまりやっていなかった印象があります。ガイドラインの適用範囲外になったことで、これからそれを増やしていくというようなことはあるのでしょうか。


田村氏 割引キャンペーンは年に一度、このタイミングでやっていました。その金額は2万円未満でしたが、今回は一部それを超えています。その部分に、ガイドライン改正は影響しています。ただし、年中割引するというようなことは考えていません。年度末や年度初めは買い替え需要がある時期で、(割引は)効率がいい。端末を安価に販売すると、先ほど申し上げたような短期解約がどうしても増えるので、そのバランスは難しいと思います。


●ファンとのつながりを大事にし、長く使ってもらうサービスを目指す


―― それでも、ガイドラインが適用されなくなったことで、事業の自由度は広がったといえそうですね。


田村氏 創意工夫でやってきたので、その幅が広がり、利便性を感じていただきやすくなったという意味ではよかったと思います。


―― その意味だと、今年はMVNOが盛り返す1年になりそうですか。


田村氏 引き続き、市場の流動性はまだまだあると思っています。他社の動きもありますが、ガイドラインの改正もあり、打てる手が増えています。長期利用特典も出せたので、ベースの価値はうまく上げられています。これでmineoに乗り換えていただければ、いい流れになると思います。


―― ちなみに、OCN モバイル ONEが新規契約を終了しましたが、mineoへの乗り換えは増えていますか? あまりirumoに移っているようにも見えないのですが。


松田氏 大きくは、ないですね。


―― 松田さんがmineoの事業戦略部長に就任されてから、初めての発表会でした。最後に、今後に向けた意気込みをお聞かせください。


松田氏 7月から福留(康和)の後任として、部長を務めることになりました。実はmineoの事業に関わるのは、これが初めてです。この半年ほどの間、mineoの特徴である「ファンと一緒に作る」ということを、オフ会などに参加して肌で感じてきました。ファンとのつながりというのは、これからも大事にしていき、ファンの皆さんと一緒にmineoだからできることをどんどん作っていきたい。今回のような新しい制度やキャンペーンは、その中でできたものです。これを機に、今mineoを使っている方にも改めて目を向け、より長く使っていただきたいという思いを強くしています。


●取材を終えて:コミュニティー参加のモチベーションを維持できるか


 ガイドライン改正で厳しくなった端末割引だが、IIJmioやmineoといったMVNOはその対象から外れ、より自由の高い選択肢を取れるようになった。もともと、ガイドラインの対象になる事業者は、約100万契約をしきい値にしていたが、これが厳しすぎた印象も受ける。少なくとも、自社でネットワークを持つMNOと、そこから回線を借りるMVNOに同じ規制を課すことをイコールフッティングとはいわない。その意味で、2024年はようやく大手MVNOが本領を発揮できるようになった1年だ。


 mineoのファン∞とくは、こうした背景で改定された。いわば長期利用優遇だが、コインという形で同社のサービスを試せる点は面白い。単純な縛りや割引ではなく、特典として使ってもえることで、今後のARPUを上げる布石になっているのが同社ならではの工夫といえそうだ。一方で、契約年数だけが判定基準のため、コミュニティーへの参加モチベーションは下がる。今後は、これを補う仕組み作りも必要になりそうだ。


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